キューピッド・ゴブリン −3−

 

 

「えーっ!?なんでまた俺が日直なんだよー?」

 

翌朝、俺が教室に入ると大山の不機嫌そうな声が聞こえた。

 

「おいっす、朝から何揉めてんだ?」

なんとなくわかっていたけど一応、大山に聞いてみた。

 

「昨日、成瀬さんが日直の名前、俺の書き換えてくれなかったから

 今日もう一日やるハメになったっぽい。」

大山はそう言うと成瀬さんを軽く睨んだ。

 

やっぱ、それか。

 

「なんでって、自分が最後に書き換えて帰らなかったからじゃん。」

ムッとした口調でそう言ったのは大山に責められ、

俯いている成瀬さんの代わりに口を開いた徳永さんだった。

 

「日直の最後の仕事は次の日の日直の名前を女子は女子、

 男子は男子でそれぞれで書いて帰る事でしょ?」

 

「けど、成瀬さんはいつも男子の方も書き換えてたじゃん。

 なんで俺の時だけ・・・」

「成瀬さんはちゃんと書き換えようとしてたぞ。」

大山は言葉を遮るように言った俺の顔を少し驚いた表情で振り返った。

 

「成瀬さんが書き換えようとしてたのを止めたのは俺だよ。」

 

「はぁっ?なんで?」

 

「お前さ・・・昨日、全然日直の仕事してないだろ?

 放課後だって成瀬さん一人に日直日誌と化学の

 ノート提出押し付けて帰ってたし。」

 

「・・・。」

 

「それでも成瀬さんはお前の名前を消して加瀬の名前を書こうとしてたんだよ。

 つーか、おまえも日直がそんなにイヤなら、名前くらい自分できっちり

 書き換えて帰れよ。」

 

「わかったよ・・・。」

大山はそう言うとムッとしたまま席に戻った。

 

まったく・・・こいつは・・・。

 

「あ、の・・・竹之内くん、ありがと・・・。」

俺も席に座ろうと一歩足を前に出した時、成瀬さんが少し上目遣いで言った。

 

「うん・・・てか、成瀬さんも自分が悪くない時はちゃんと言い返しなよ?」

 

「・・・。」

俺がそう言っても成瀬さんはまた俯くだけだった。

 

 

それから、大山は昼休憩になって成瀬さんに謝っていた。

しかもコーヒー牛乳まで献上して。

こいつもこいつなりに悪いと思ったらしい。

 

すぐにキレたり、面倒臭がったりするから誤解もされやすいけれど

自分が悪いと思った時はちゃんと謝る。

 

まぁ、そんなヤツだから俺も“友達”をやっているワケだけど。

 

そして午前中は俺に対しても不貞腐れて口を聞こうとしなかったけど、

成瀬さんにも謝ってすっきりしたのか普通に俺に話しかけてきた。

 

「なぁ、今日もやるだろ?」

 

「うん。けど、ちょっといろいろ調べてからログインするから

 昨日と同じくらいの時間になるかな。」

 

「じゃあ、俺は先に入ってるから適当に狩りながら待ってるよ。」

 

「了解。」

 

明日から夏休み。

だから、いろいろネットで調べて例のオンラインゲームを

やり込むつもりでいる。

 

 

―――午後9時。

ゲームにログインすると大山はすでに狩りを始めていた。

 

[耳打ち] Orli >> 今、どこー?

[耳打ち] Hyde >> お、やっと来た 今、ベナ平原

 

『ベナ平原』とは、俺達がゲームを始めた町を出たエリアの

さらに次のエリアだ。

 

[耳打ち] Orli >> もうそんなトコ行ってんのか?

[耳打ち] Hyde >> てか、ここの敵めっちゃおいしいぞ

[耳打ち] Orli >> へー んじゃ、俺もすぐ行く

[耳打ち] Hyde >> おう

 

 

『ベナ平原』に入るとすぐに大山を見つけることができた。

昨日よりもちょっと強そうな装備で狩りをしていた。

そして、俺達は昨日と同じ様にパーティを組んでそれぞれ狩りを始めた。

 

 

一緒に狩りを始めて2時間―――。

 

[Party] Orli >> 結構レベルも上がったし、そろそろ町に戻ろうぜ

[Party] Hyde >> うん、そうだな。

 

俺と大山は昨日よりさらにレベルが上がり、戦利品でアイテム欄がいっぱいになり、

そして装備品を揃える為に町に戻った。

 

 

[Party] Orli >> レベルが10になったから 次のクエスト受けられるかも

[Party] Hyde >> つーか、ミッションもできるんじゃね?

[Party] Orli >> あぁ、そうだな

 

大山もある程度ネットで調べていたのか、

クエストの概要もミッションの概要も把握していた。

 

ホント・・・こーゆーコトにはマメだな。

 

 

クエストとミッションをクリアすると、報酬でお金と経験値が入った。

特にミッションの報酬は結構な経験値で俺も大山も一つレベルが上がった。

 

[Party] Hyde >> おぉ、レベルあがった

[Party] Orli >> 俺もあがったー

[Party] Hyde >> クエストで貰った金と戦利品売ったら新しい装備買えるかも

[Party] Orli >> だな。

[Party] Hyde >> そういえば攻略サイトに売れ筋のアイテム載ってたな 見た?

[Party] Orli >> 見た見たー

[Party] Hyde >> オークション行ってちょっと相場見てみようぜ

[Party] Orli >> らじゃ

 

俺と大山は町の中にあるオークションに移動した。

このゲームはモンスターから得た戦利品をオークションに出品して

売ったり、他のプレイヤーが出品したアイテムを買ったり出来る。

もちろん、プレイヤーがバザーという形で直接販売する事も可能だ。

 

 

オークションを見ていろいろアイテムを出品すると、

すでに日付が変わっていた。

 

[Party] Hyde >> げ。もうこんな時間だ

[Party] Orli >> 早いなー

[Party] Hyde >> やべぇー もう落ちないと

[Party] Orli >> 俺はもう少しやろうかな いろんな人のバザーとかも見てみたいし

[Party] Hyde >> お前のトコ こんな時間まで起きてて何も言われないのか?

[Party] Orli >> んー まぁ俺ン家は共働きで忙しいし 放置されてっから

[Party] Hyde >> いいなー

[Party] Orli >> そうかー?

[Party] Hyde >> 俺ん家なんていつも口うるさいし 夏休みだってのに

夜更かしもさせてくれない

[Party] Orli >> ははは けどまぁ、放置されまくりもどうかと思うぞ?

[Party] Hyde >> 俺はそっちの方がいいけどなー て、マジでもう寝るわ

[Party] Orli >> おう

[Party] Hyde >> あ、そうだ 明日は多分、俺昼からやってると思うから

[Party] Orli >> 俺も多分昼ぐらいからやる

[Party] Hyde >> そっか んじゃ、また明日ー おやすみー

[Party] Orli >> おやすみー

 

大山が落ちた後、俺はオークションの前にいる人達のバザーを覗きに行った。

すると昨日、俺達を助けてくれたあの魔道士の女の子がいた。

 

あ・・・あの子だ。

 

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