First Kiss −First Love・26−

 

 

今日は学園祭2日目―――。

午後2時から『校内コンテスト』がある。

 

10月の初めから20日間の投票期間の後、

途中結果が発表され、その上位12人の中に俺は選ばれた。

美男美女カップルで有名な姉川先輩と水本先輩も選ばれている。

ちなみに当然、高杉も琴美も選ばれたけど。

そして、その上位12人で学園祭の一週間前からまた

校内で投票があり、今日『校内コンテスト』の会場で

来場者の投票と合わせ、集計された最終結果が発表される。

 

俺は昼メシを食べた後、早々にコンテスト会場の多目的ホールに向かった。

 

どーせ、その辺をうろうろしてても女子共に捕まるだけだし、

それなら控室で寝ているほうがいい。

 

 

ガチャッ―――。

 

誰もいないだろうと思ってノックもしないで

控室のドアを開けると、中には高杉がいた。

 

「あ・・・。」

 

「おぅ。」

 

まさか高杉がいるとは思っても見なかった。

時計を見てみるとまだ12時半だ。

 

「早いな。」

俺がそう言うと高杉は「お前こそ。」と言った。

 

「ん、まぁー・・・つーか、高杉、彼女放っておいていいのか?」

俺はちょっと探りを入れてみた。

 

「彼女?あー、昨日、別れた。」

 

「はぁ?」

 

おいおい、ホントに別れたのかよ。

 

「なんかさー、昨日、店番した後女の子達に待ち伏せされてて

 仕方なく一緒に校内をうろついてたら彼女が怒っちゃってさー。」

 

そんなの当たり前だろっ。

 

「んで、とりあえず女の子達に離れてもらったんだけど

 機嫌が直んなくてさー、もう面倒臭いから別れた。」

 

「・・・。」

 

マズいな・・・。

 

こりゃ、今日あたり琴美に告るゾ。

 

「まぁ、俺はそろそろ別れたいと思ってたから

 ちょうどよかったけどー。」

 

コイツ・・・最悪。

 

・・・つーか、オニ。

 

こんなヤツに琴美を取られたくない・・・絶対っ!

 

 

1時少し前―――。

控室の中に次々とコンテストの出場者が集まってきた。

 

鏡の前では女子共が陣取ってメイクをしている。

 

まぁ、男子は特にメイクなんてしないし、

軽くワックスなんかで髪を立てたり、流したりする程度だから

トイレの鏡で全然間に合うけど。

 

 

「あら?琴美ちゃん、まだ来てないの?」

1時を10分程過ぎた頃、メイクを終えた水本先輩が

キョロキョロしながら琴美を捜していた。

 

そういえば、琴美がまだ来てないな・・・。

 

「まさか、ホントに逃げたか?」

姉川先輩が冗談っぽく笑いながら言った。

 

「そしたら“水着で校内一周”決定ですね。」

高杉はにやりとした。

 

学園祭の一週間前―――、コンテストを辞退したいと言った琴美に

美術部の部長で学園祭実行委員の委員長でもある姉川先輩が

“部長命令”を発令した。

 

“コンテスト出なかったら水着で校内一周”

 

俺は大歓迎だけど、他の男に琴美の水着姿を拝ませるのは

正直もったいない・・・。

 

「てか、もうお客さんも入り始めてるのに。」

高杉は控室から客席を覗いた。

 

確かに客席が随分騒がしくなってきた。

いい席を取るためにみんな早くから来ているんだろう。

俺もちらりと客席を覗いてみるとうちのクラスの榎本さんが

最前列にいた。

 

さすがは高杉の熱烈ファン。

 

 

1時15分―――。

 

琴美はまだ来ない。

 

姉川先輩は携帯を開いた。

 

「携帯にも出ない。」

でも、琴美の携帯に繋がらなかったらしく眉間に皺を寄せた。

 

「もしかしたら、模擬店手伝ってるかも。俺、呼んで来ます。」

琴美の事だから、カバンと一緒に携帯放置で手伝ってる事も有り得る。

 

「俺も行く。」

すると、高杉も一緒に行くと言い出した。

 

別にコイツも行く必要はないだろう・・・と思いながら、

模擬店に居なかった時その後捜しに行く事を考えて、

とりあえず一緒に行く事にした。

 

 

俺と高杉が模擬店に向かって走っていると、

同じクラスの安藤さんとすれ違った。

 

「あっ、ねぇ、安藤さん、琴美見なかった?」

俺がそう聞くと「模擬店にいたよ。」と言った。

 

やっぱり・・・

 

「ありがとっ。」

俺と高杉は安藤さんに軽く手を挙げて走り出した―――。

 

 

模擬店に行くと琴美は菊池と一緒にレジに入っていた。

 

「琴美、何やってんだよ!?」

「集合時間とっくに過ぎてるよ?」

俺と高杉がそう言うと「・・・何って・・・店番。」と、

琴美は特に慌てる様子もなく言った。

 

「なんで、そんなのやってんだよ?」

 

「なんでって・・・榎本さんにお昼ごはん食べてくる間だけお願いって頼まれたから。」

 

「はぁ?榎本さんなら多目的ホールの最前列の席に陣取ってたぞ?」

高杉も半分呆れたように言った。

 

「あー、そーなんだ。」

「“あー、そーなんだ。”・・・て、何暢気なコト言ってんだよ。」

「そーだよ、急いで行かないとコンテスト間に合わないぞ?」

俺と高杉がそう言って急かしても琴美は動こうとしない。

 

コンテストすっぽかす気か?

あんまり出たくなさそうだったしなぁ。

 

「“水着で校内一周”したい?」

すると、模擬店の入口から突然声がした。

 

「店番の時間は各自で調整しろって言ったよな?」

 

姉川先輩だ。

 

「で、でも・・・交代の人来ないみたいですしー・・・。」

琴美は姉川先輩の姿が目に入ると、ようやく少し慌て始めた。

 

「じゃ、おまえの交代を捜せばいいだろ?」

「えー、みんなコンテスト見に行ってていませんよー?」

「じゃ、“水着で校内一周”決定。」

姉川先輩はしれっとした顔で言い放った。

 

「平野さん、店番なら大丈夫だよ?」

すると、今度は琴美の隣で話を聞いていた菊池が

困った様子の琴美に言った。

 

「元々、この時間帯はほとんどコンテストの方にお客が集中するだろうから、

 一人くらい減らそうかって言ってたんだけど、一応念の為そのままの人数で

 店番する事になってただけだから、平野さんが抜けても大丈夫だよ。」

 

「そ、そーなの?」

琴美はちょっと複雑な顔をした。

抜けてもいいと言われるとコンテストに出ないといけないからだろう。

 

「うん、それにそもそも任されてる店番を人に押し付けて

 遊びに行く榎本さんが悪いんだから。」

 

「そそ、菊池の言う通り。」

俺と高杉も菊池の意見に頷いた。

 

「だから、気にしないでコンテスト行っておいで。」

 

 

結局―――、

琴美は菊池の言葉に背中を押され、

俺達と一緒に多目的ホールへと急いだ。

 

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