First Kiss −First Love・25−

 

 

“追っ手”から逃げる為に夢中で走っていると

目の前に美術室があった。

 

お・・・っ!

ここに逃げ込もう。

 

俺を追い回している女子共はきっとこんな所には来ない。

芸術に興味のない奴らばっかりだからな。

 

美術室の中に入り、ドアを閉めて息を潜めていると

案の定、女子共は美術室の前をスルーして行った。

 

まったく・・・冗談じゃねぇ。

 

「はぁー・・・。」

軽く溜め息をついて落ち着いたところで美術室の中を見回すと、

油絵や水彩画、粘土細工や銀細工が展示してあった。

そういえば、美術部の展示会をやってるんだった。

 

琴美は油絵と水彩画を出展してるって言ってたな。

 

えーっと・・・“平野琴美”・・・“平野琴美”・・・

 

琴美の名前を探しながら作品の下に付いているネームプレートを見ていくと

少し奥のほうに二つの並んで展示してあった。

 

水彩画の方はペンギンの絵だった。

あの夏の合宿の時に描いたと思われる。

琴美の親戚がやっているという民宿の近くには水族館もあったから、

多分、そこのペンギンを描いたんだろう。

 

そして、もう一つ・・・

 

タイトルに『秘密の場所』と付けられた油絵を見て、俺は驚いた。

 

その油絵は・・・

 

校外学習で登山した時に琴美と二人きりで見たあの風景だった。

 

やわらかい風が俺と琴美を包んで、まるで時間が止まったみたいに

二人だけの世界のように感じたあの景色がそのまま描かれていた。

 

・・・すげぇー。

 

琴美が“内緒”と言っていた意味がなんとなくわかった。

 

“すごい”という気持ちと“うれしい”という気持ちがあって、

『秘密の場所』というタイトルにも思わず笑みがこぼれた。

 

琴美も俺と同じ様にあの場所の事・・・。

 

 

―――そうして、しばらく琴美の絵を見た後、

美術室から出ていきなりまたしても俺を追い回している女子共に見つかった。

 

あー、もういい加減疲れた・・・。

 

数百メートル逃げたところで諦め、俺が走るのを止めて歩き始めると

あっという間に女子共に囲まれた。

そしてダラダラとそのまま歩いていると

高杉と“彼女”が前方から二人で歩いてきた。

 

お、取り巻きがいなくなってる。

 

でも、彼女の方はちょっと不機嫌そうな顔をしていた。

どうやら一悶着ありそうだ。

・・・というか、すでにあった後か?

 

だとしたら・・・高杉と彼女が今日もしくは明日別れる確率は高い。

なぜなら、高杉はちょっと喧嘩しただけで別れるとか

彼女が別れたいと言えばすぐに別れるような

“去る者追わず主義”の奴で有名だから。

そして面倒な事があるとこれまたすぐに別れを切り出し、

次に告ってきた女の子と付き合うらしい。

要するに“来る者拒まず主義”でもある。

 

しかし、それはあくまで高杉に気になる子がいない場合だろう。

もし、今日明日で彼女と別れたとしたら高杉は間違いなく琴美に告る。

 

アイツの行動に要注意だな。

 

つーか、琴美は一体どこにいるんだろうか?

 

テキトーに女子共の話に相槌を打ち、琴美を捜しながら歩いていると

目の前から藤村さんと男子生徒が歩いてくるのが見えた。

 

へぇー、あれが藤村さんの彼氏か・・・

確か、バレー部のヤツだったような?

 

「藤村さん。」

せっかくのデート中、邪魔しちゃ悪いかなと思ったけれど

琴美の事が気になっていた俺は藤村さんに声を掛けた。

 

「あ、二ノ宮くん、琴美ならさっきそこですれ違ったよ?」

 

「え?」

 

俺、まだなんも言ってねぇのになんでわかったんだろ?

 

「まだその辺をぶらぶらしてると思うけど。」

藤村さんはそう言うとにやっと笑った。

 

「あー、えーと・・・ありがとう。」

俺がそう言うと藤村さんは手を振って彼氏と歩いて行った。

 

そして、少し歩いたところで藤村さんが言っていたとおり

琴美がぶらぶらしていた。

 

けど、一人じゃない。

 

隣には俺と同じ中学だった田中がいた。

 

なんでアイツと・・・?

 

・・・て、そういえば田中も美術部だっけ?

中学も美術部だったみたいだし。

 

えー。

もしかして、ライバルまた増えた?

 

つーか、琴美は自分が可愛いっていう自覚が

まるでないから無防備過ぎるんだよなー。

 

俺にとってはそれがなによりやっかいだ。

 

あぁー、もうっ!

 

琴美への道は険しいなぁー・・・。

 

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