First Kiss −First Love・21−

 

 

大きく息を吸い込み、ボールに神経を集中させた。

 

俺の手を離れたボールはリングの縁をなぞり、

バスケットの中を潜り抜けてバウンドした。

 

そして―――、

 

・・・ピピーーーーーッ!!!

 

試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

・・・やった!

決まった・・・!

 

チームメンバーとハイタッチをして琴美の方に視線を向けると目が合った。

俺は琴美と誠に手を振った。

 

すると、誠はブンブンと手を振って笑顔を返してくれたけど

琴美は前列にいる女子共の視線を気にしてか、

小さく手を振るだけだった。

 

 

両チームの選手がコートの中央に集まり、

握手を交わして練習試合は無事終了。

 

なんとか、琴美に勝利をプレゼントする事ができた。

 

 

「あれ?琴美ちゃんは?」

俺の隣でキョロキョロと周りを見回していた武田が

眉間に皺を寄せながら言った。

 

「ん?琴美なら誠と一緒にあそこに・・・」

俺は琴美と誠がいる二階の観客席に目を向けた。

だけど・・・そこにはすでにもう琴美と誠の姿はなかった。

 

「あれ?いない・・・。」

 

俺は体育館の入口に走って行き、周りを見回した。

キャーキャー言ってる女子共の中に琴美と誠の姿はない。

 

いない・・・。

 

 

正門の方まで行ってみたけれどやっぱりいなかった。

 

まさか、もう帰った・・・?

 

俺は急いで琴美の携帯を鳴らした。

『もしもし。』

琴美はすぐに電話に出た。

 

「もしもし、宗だけど・・・今どこ?」

 

『あー、えーと・・・もうすぐ駅・・・かな。』

 

「えーっ!もう、帰ってんの?」

 

『あ・・・うん。』

 

な、なにぃーっ!?

 

「琴美の事探してたのにー。」

 

『え・・・いや、だって・・・女の子達いっぱいいたから、

 きっとそっちに行くと思って。』

 

行くワケねーじゃんっ!

 

「琴美と話したかったのにー。

 ちゃんと会ってお礼も言いたかったのにな。」

 

『あはは、いいよ・・・そんなの。』

 

「だって、わざわざ差し入れまで持って来てくれたのに。

 後、誠も一緒に応援に来てくれてただろ?」

 

『あ、うん。』

 

「ありがとな。」

 

『ううん。』

 

「・・・じゃあ、誠にもよろしく言っておいて。」

 

『うん、わかった。お疲れ様・・・じゃあね。』

 

本当はもっといっぱい話したかった。

けど、何にも言わずに体育館を出てきてしまったから

すぐに戻らないといけなかった。

 

 

「あれぇー?琴美ちゃん・・・どこにいるのかな?」

俺が部員のみんなの所にもどると武田はまだ琴美を捜していた。

 

パーカ・・・。

琴美はもうとっくに帰ったよ・・・。

 

 

―――週明け、月曜日。

放課後、部活が終わった後、いつものように琴美を待ち伏せしようと

正門で待っていると「よぅ、何やってんだ?」と、高杉が話しかけてきた。

 

「あー、えーと・・・琴美を待ってるんだ。」

後からよくよく考えればバカ正直に答えずに

適当な事を言えばよかったと思った。

 

「平野さん?一緒に帰ってんの?」

 

「ん、まぁ・・・いつもってワケじゃないけど、

 ちょっと返したいものがあるから。」

 

「ふーん、何?」

 

「たいしたモンじゃないんだけど、土曜日にバスケ部の練習試合に

 差し入れ持って応援に来てくれたから、そのお礼と

 差し入れが入ってたタッパーを返そうと思って。」

 

「へー、平野さんバスケ部の練習試合見に行ったんだ?」

 

「うん。」

 

「・・・俺も一緒に帰ろうかな。」

高杉はそう言うと、俺と同じ様に門柱に寄りかかった。

 

「・・・。」

思わぬ邪魔が入ってしまった・・・。

 

 

それからしばらくして琴美が正門に向かってくるのが見えた。

 

「琴美を待ってたんだよ。」

俺は琴美がまたキョロキョロし始める前に言った。

すると、案の定琴美はキョトンとした顔で俺を見上げた。

そして、すぐに俺のすぐ後ろにいる高杉に視線を移した。

 

「コレ、ありがとう。」

俺は琴美にタッパーを返した。

 

「すごく助かったよ、ありがとう。

 琴美のおかげで試合に勝てた。

 琴美の差し入れがなかったら俺、頑張れなかったし。」

俺がそう言うと

「そ、そんなコトないでしょ。」

と、琴美は顔を赤くした。

 

「先輩達もすっごく喜んでたよ。

 ・・・んじゃ、言いたい事はそれだけだから俺は先に帰るよ。」

 

琴美は高杉の事が好きだ。

その高杉が目の前にいたら二人きりになりたいって思うのは当然だろう。

それに・・・

 

琴美と高杉が仲良く話してるところを見たくなかった。

なるべく早く二人から離れたかった。

 

だから、いつもは琴美に合わせていた歩幅も速度も

今は全部無視して自分の速度で歩いて一人で駅に向かった。

 

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