First Kiss −First Love・20−

 

 

―――翌日。

午後1時半に学校に着いて一時間程度軽く練習をした。

今日はなかなか調子がいい。

別に琴美の前で良い格好をしたいとかそういうのはないけれど、

せっかく応援に来てくれるんだから出来れば格好悪いところは

見せたくはない。

 

 

午後2時半過ぎ―――。

そろそろ琴美来てるかな?と思ってストレッチをしながら

周りを見回すと、2階の観客席の少し後ろの方に琴美と誠の姿があった。

 

誠も一緒に来てくれたんだ。

 

俺が琴美と誠に手を振ると、琴美の前にいた女子共が

キャーキャー言いながら俺に手を振り返し、

そして、俺の視線が自分達より後ろにあると気付いた瞬間、

一斉に琴美の方を振り返った。

 

すると琴美と誠は顔を引き攣らせ、たじろいでいた。

 

 

「先生、コレ平野さんが皆でどうぞって持って来てくれました。」

後ろの方で武田の声がして振り向くと、顧問の岡嶋先生に

紙袋を渡していた。

 

平野さんて・・・琴美からの差し入れっ!?

 

「お、レモンの蜂蜜漬けだ。」

紙袋から出てきたのはタッパーに入ったレモンの蜂蜜漬けだった。

そして岡嶋先生はさっそく摘み食いをした。

 

「うまいっ。」

 

「あ、先生ずるいですよっ。」

「先生は試合に出ないから食べなくてもいいでしょう。」

「ちょうどタッパー三つあるし、一年生と二年生と三年生で一個ずつですよ。」

部員からすかさず突っ込まれた岡嶋先生は

「ちょっと顧問の特権使っただけなのに。」

と肩を竦め、ペロリと舌を出した。

 

40オーバーのおっさんがそんな顔しても

ちっとも可愛くないけどなっ。

 

 

試合開始直前―――。

部員全員で円陣を組み、

「おっしっ!んじゃ、差し入れのお礼に今日は琴美ちゃんに勝利を捧げようぜ!」

と部長が言うと俺達も「おーっ!」と気合いを入れた。

そして、スタメンの部員がコートに散って行った。

 

第1クォーター、琴美の差し入れのおかげですっかり気合入りまくりの

メンバー達は最初から飛ばしていった。

 

「いつもこれくらい動けば楽勝なのになぁー。」

岡嶋先生は苦笑いしながら試合を見ていた。

 

・・・確かに。

 

うちの学校は全国でもそれなりに成績を残してはいるものの、

スバ抜けて強い訳でもなかった。

それでも都内の高校の中では上位だけど、

今日の試合相手のM高とはほぼ互角でここ最近はうちの学校が負け越していた。

 

それだけに部員全員、M高に苦手意識があって、この練習試合もいまいち

乗り気じゃなかったというか・・・やる気がなかったというか・・・。

 

だから正直、第1クォーターからこんな風に動いていけるのは

“俺達のアイドル”琴美が差し入れを持って応援に来てくれたからだろう。

 

 

第1クォーターが終わり、岡嶋先生から

「二ノ宮、第2クォーターから入ってくれ。」と言われた。

 

「はい。」

 

いよいよ俺の出番。

 

俺の他にもう一人、メンバーが入れ替わり、

第2クォーターが始まった。

 

相手チームの奴らはこのメンバーの中で唯一、

一年生の俺にはまだノーマークだ。

マークされる前になるべくシュートを決めておきたい。

 

パワーフォワードに入った俺にノーマークというのは、

いまいち腑に落ちないけれど、先輩から回されたパスを、

俺は確実にシュートを決める事に専念した。

 

 

そして、ハーフタイム―――。

 

「二ノ宮、今日なんか調子いいな。このままラストまでいっとくか?」

「へっ!?」

岡嶋先生がしれっとした顔で言った言葉に俺は驚いた。

俺はレギュラーだけど今まではだいたい第2と第3クォーターだけ。

ラストは先輩達が出ていた。

 

「今日は琴美ちゃんからの差し入れもあるし、

 コレ食って体力回復させてラストまでやってみろ。」

スタメンからずっと出ている部長はそう言うと、

俺の口にレモンの蜂蜜漬けを突っ込んだ。

 

酸っぱい・・・でも、おいしい。

 

ドラクエで言うならばHPとMP回復。

 

「頑張りまっす。」

HPはさすがに全快とまではいかないけれど、

MP全快の俺は引き続きラストまで出る事になった。

 

 

―――第3クォーター。

遂に俺にもぴったりとマークが付き始めた。

しかも二人って・・・。

 

けど、まぁ俺に張り付いている分、

先輩達がシュートを決めていく訳だけど。

だから、俺は思いっきり引っ掻き回してやろうと

“コバンザメ”二匹を連れて動き回った。

 

しかし、それにしてもウザい・・・。

つーか、動き回ってるおかげでせっかく回復してた体力を消耗した。

 

失敗・・・。

 

試合は・・・40対50か。

まだうちが勝ってるな。

 

けど、先輩達も疲れてきてるし、ちょっとやばいかも。

 

 

第3クォーターが終わってインターバル。

 

またまた琴美の差し入れでHPとMP回復。

 

 

―――第4クォーター。

数人のメンバーが入れ替わった。

 

そして、俺へのマークも一人になった。

けど、さっきまで試合に出ていたヤツじゃない。

第4クォーターから入れ替わったHPもMPも満タン状態のヤツだ。

だからHPが60%の俺からすると動きも素早い。

パスもカットされるし、シュートも決めさせてくれない。

 

くっそー。

 

そしてそれは先輩達も一緒だった。

そのおかげで52対50と、逆転されてしまった。

 

マズい・・・。

琴美に勝利のプレゼントが出来なくなる。

 

そう思った俺はパスを受け取った後、ちょっと強引だけど

フェイクをかましてシュートを打った。

けど、その瞬間、俺のマークに張り付いていたヤツが

俺の背中を押した。

 

あ・・・っ!?

 

シュート失敗・・・?

 

俺の手から放たれたボールはバスケットのリングの中を

ストンと通り抜けた。

 

決まった・・・っ!

 

湧き上がる声援の中、審判のホイッスルが鳴った。

俺がシュートを打った時に思いっきり背中を押したことに対する

パーソナル・ファウルだ。

 

て、ことは・・・1本のフリースロー。

 

試合は残り30秒・・・52対52か・・・。

ここでフリースローを決めれば逆転。

 

決められなければ延長戦だけど、ここは決めとかないとっ!

 

俺は軽くドリブルをしながらフリースローレーンに立った。

 

・・・絶対、決めてやる・・・っ!

 

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