First Kiss −First Love・13−

 

 

合宿が始まって5日―――。

高杉が風邪をひいて熱を出した。

その事に一番最初に気がついたのは琴美だった。

 

琴美は無言で高杉に近づくとおでこに手を当て、

「高杉くん、熱ある。」と言った。

周りにいたチームメイトも誰も気がつかなかったのに

琴美だけが気がついた。

 

 

それから高杉は個室に移された―――。

 

琴美は高杉にお粥を作って持って行ったり、

薬を用意したりいろいろ世話を焼いていた。

 

高杉が羨ましい・・・。

 

そんな事を思うのは本当は不謹慎な事だとわかっている。

高杉だって別に好きで風邪をひいたワケじゃないし、

琴美だって民宿の手伝いで来ている以上、従業員の一員として

風邪をひいて苦しんでいる客の看病をするのは

ごく当たり前の事で・・・。

そんな事はわかっている・・・わかってるんだけど・・・

やっぱり高杉の事が羨ましかった。

 

 

―――次の日の夜。

高杉は琴美の看病の甲斐あって、すっかり具合も良くなったようだ。

 

「平野さん、いろいろありがとう。」

夕食の後、高杉が琴美にそう言うと

「いえいえ。」と、琴美は笑顔で応えていた。

 

こんな風に琴美が高杉と笑顔で話している姿は初めて見た。

 

琴美と高杉の距離がすごく近くなっている気がした。

 

 

そして風呂上り、何気なく窓の外に目を向けると

海を眺めている琴美の姿が目に入った。

 

お、琴美だ。

 

俺も一緒に海を眺めてみようかな・・・なんて思って外に出ると、

琴美に近づいていく人物がいた。

 

・・・高杉?

 

暗くてハッキリとは見えなかったけれど

なんとなくそれは高杉だと思った。

 

高杉は琴美の隣に座り、何か話し始めた。

 

何を話しているんだろう?

 

すごく気になるけど、二人の間には入れない気がした。

高杉は琴美をじっと見つめ、琴美は高杉のおでこに手を当てていた。

 

「・・・。」

俺はそのまま踵を返した。

 

 

―――さらに次の日。

琴美も高杉も朝から普通だった。

何もなかったような顔で話している。

 

・・・という事は、昨夜は俺の思い過ごしで

世間話でもしていたんだろうか?

 

でも・・・あの雰囲気は・・・

 

「?」

俺がじっと琴美を見つめていると、視線に気付いたのか

琴美が「なぁに?」と言った顔で小首を傾げた。

 

こういう何気ない表情がまた可愛いんだよなぁ・・・。

 

 

そして夜、また風呂上りに俺が部屋に向かっていると

外から琴美が団扇を片手に戻ってきた。

琴美も風呂上りらしく、髪が濡れたままだ。

 

「琴美、いい物持ってるじゃん。」

俺はその団扇を奪い取った。

 

すると、琴美は俺の顔を見上げてじっと見つめてきた。

 

「何?俺に見惚れてるの?」

照れ隠しに俺がそう言うと

「別に見惚れてたワケじゃないけど。」

と、琴美は不機嫌そうな声で言った。

 

・・・?

 

「・・・なんか琴美、機嫌悪い?」

琴美の顔を覗き込むとなんだかムッとした表情をしていた。

 

どうしたんだろ?

 

「何やってんの?」

俺が不思議に思っていると外から高杉が戻ってきた。

すると琴美は高杉の声が聞こえた途端、

「おやすみ。」

と、慌てた様子で俺の手から団扇を奪い返し、

そそくさと去って行った。

 

高杉となんかあったのか・・・?

 

「なぁ、琴美となんかあったの?」

 

「・・・いや、別に。」

俺が聞いても高杉は特に何も答えなかった。

 

何もないわりには高杉もなんだか複雑な顔をしているし、

だいたい琴美が慌てて部屋に戻るわけがない。

 

絶対、何かあったな。

 

俺はその夜・・・そればかりが気になってなかなか寝付けなかった。

 

 

―――数日後。

今日は近くの神社でお祭りがあるらしく、

バスケ部もサッカー部もいつもより早めに練習を切り上げる事にした。

 

琴美は高杉と行くのかな?

 

そう思いながらダメ元で琴美を誘ってみた。

「琴美、一緒にお祭り行こうぜ。」

 

「うん。」

すると、意外にも琴美はすんなりOKしてくれた。

 

なんだ・・・別に高杉と約束とかしてたワケじゃないんだ・・・。

 

「あ、二ノ宮ズルい!俺も一緒に行く!」

俺がホッとしていると、どこから出てきたのか突然武田が現れた。

 

「琴美と二人で行くからダメ。」

 

せっかく“お祭りデート”できるのに邪魔されてたまるかっ。

 

俺は琴美を武田から引き離すべく手を引いて外へ連れ出した。

後ろで武田がごちゃごちゃ言ってたみたいだけど

気にしない、気にしない。

 

 

だけど、琴美は神社に着くなり誰かを捜しているかのように

キョロキョロと周りを見回し始めた。

 

「誰探してんの?」

俺がそう聞くと琴美は黙り込んだ。

 

「高杉?」

 

「なんで高杉くんなの?」

 

「この間、夜、高杉と二人きりで海にいたし。」

 

琴美の眉がピクリと動いたのがわかった。

 

「・・・何、話してたの?」

 

「世間話。」

 

嘘だ・・・。

 

「ふーん。」

 

だって・・・あれはどう見たってそんな雰囲気じゃなかった・・・。

 

 

それでも俺は琴美と二人で来たお祭りを楽しみたくて

気にしない事にした。

 

気にしたって仕方がない。

それにもし、琴美が高杉と何かあって付き合う事になったとしたら

そもそも俺とこうやって二人でお祭りに来ないしな。

 

そんな事を思っていると目の前にオバケ屋敷があった。

 

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