First Kiss −32−

 

 

「何すんのよっ!」

 

パシーンッ!!

 

「いてっ!」

宗の唇があたしの唇を解放した瞬間、思わず平手打ちをした。

 

「宗のバカッ!」

あたしは宗を置いて走り出した。

 

最低、最低、サイテーーーーーッ!

 

なんで好きな子がいるのに、あたしと平気でキスなんかできるの?

 

やっぱり、宗も高杉くんと同じじゃない・・・。

 

ファーストキスだったのに・・・

ファーストキスだったのに・・・!

 

涙がポロポロと勝手に溢れてくる・・・。

ファーストキスを奪われた事もショックだったけれど、

宗が高杉くんとやっぱり同じだった事がショックだった・・・。

 

 

―――放課後。

あたしは結局、クラスの模擬店の方には戻らなかった。

美術部の片付けが終わっても教室には戻らないでずっと部室にいた。

 

だって・・・一体どんな顔して宗と会えばいいのかわからなかったから。

それに高杉くんとも・・・。

 

 

そして―――、姉川先輩も他の部員のみんなも帰って、

部室の中にはあたししかいなくなった。

 

クラスのみんなはまだ教室にいるのかな?

 

今日はどこのクラブも部活はやらないみたいだし、

今、教室に戻っちゃうと宗や高杉くんに会うかもしれない。

 

もう少しここにいよう・・・。

 

そんな事を考えながら窓から人間ウォッチングしていると

数人の女の子に囲まれた高杉くんが正門に向かっているのが見えた。

その中には榎本さんもいる。

 

高杉くん、誰でもいいんなら榎本さんと付き合えばいいのに。

 

「また高杉の事見てんのかよ・・・。」

 

・・・っ!

 

その声に振り向くと、いつの間にか後ろに宗が立っていた。

 

「姉川先輩がまだ部室に琴美がいるって言うから来て見たら・・・」

宗は少し拗ねた口調で言った。

なんだか少し怒っている。

 

てか、怒ってんのはむしろこっちなんですけどー?

 

「別に高杉くんを見てたワケじゃないけど?」

「でも今、高杉を見てただろ?」

「そんな事よりなんの用?」

 

「・・・。」

 

「わざわざこんなトコまで来るくらいなんだから、

 なんか言いたい事でもあるんじゃないの?」

我ながらちょっと棘のある言い方で言うと、

「・・・さっきは、そのー・・・ごめん・・・。」

宗はバツが悪そうに少し俯いた。

 

「・・・。」

 

「悪かったよ・・・いきなりキスなんかして・・・。」

 

ホントにそう思ってる?

 

「琴美は・・・やっぱり高杉の事が好きなのか?」

「・・・だから・・・宗には関係ないってば・・・。」

「いいから、ちゃんと答えろよ。」

宗は真っ直ぐにあたしを見つめた。

 

「・・・好きじゃないよ。」

 

「ホントに?」

宗はあたしの顔を真剣な表情で覗き込んだ。

 

「ホント。」

 

「・・・じゃあ、あのスケッチブックに描いてあったの誰?」

 

・・・う。

そ、それはー・・・

 

「やっぱり高杉なんだろ?」

 

そうだけど・・・

 

あたしはこのまま誤解され続けるのも嫌だし、

あまりにも宗が真剣に聞いてくるので全部正直に話すことにした。

 

「確かに高杉くんの事は好きだったよ。」

「やっぱ、そうなんじゃん・・・。」

「中学の時、3年間ずっと・・・。」

「・・・。」

「宗が見たスケッチは中学の卒業前に描いたものだよ。」

「・・・今も・・・好きなんだろ・・・?」

「今はなんとも思ってないよ・・・宗と初めて会ったあの日にね

 ・・・フラれたんだ・・・高杉くんに・・・。」

「え・・・3月14日?」

「うん、そう。」

「でも・・・さっき、アイツ・・・」

「自分からフッておきながら今さら・・・だよね?」

「・・・。」

「だから、高杉くんとは付き合うつもりなんて全然ないよ。」

 

「そのわりには・・・よく高杉の事見惚れてたりしないか?」

 

「それは見惚れてるんじゃなくて・・・なんていうかー・・・

 高杉くんの姿を見てもなんか中学の時みたいに

 もう全然キュンとこないなーとか思ってたりしてたの。」

 

「・・・ホント?」

宗は不安そうな顔であたしの顔を覗き込んだ。

 

「ホント・・・てか、宗・・・顔近いっ!」

あたしは宗の顔を手で押し退けた。

「大丈夫だよっ!もういきなりキスしないからっ。」

「信じられません。」

「うー・・・。」

「ホント・・・信じらんない。」

「だから・・・ごめんてば・・・。」

「・・・。」

 

「琴美・・・?」

 

「・・・彼女がいるのに他の子とキスするのなんて

 信じらんないよ・・・。」

 

「高杉の事・・・?」

 

はぁ?

 

「宗の事言ってるんだけどっ?」

「は?なんで俺なんだよ?」

「そりゃ、高杉くんもそうだろうけど、宗もさっき同じ事したでしょ?」

「誰とっ!?」

「だから、あたしと!」

「な・・・っ!あれは・・・っ。」

 

「宗も・・・高杉くんと同じじゃない・・・。」

 

「同じじゃねぇよっ!」

 

・・・同じだよ。

 

「俺をアイツなんかと一緒にすんなよ!」

 

「・・・。」

 

「俺はアイツとは違う。」

 

「どう違うの・・・?」

 

「どうって・・・」

 

「彼女がいたり、好きな子がいるのに他の女の子と

 キスしてるあたりは一緒でしょ?」

 

「・・・。」

 

「宗だって・・・彼女いるんじゃないの?」

「いないよ・・・彼女なんて。」

「・・・でも、好きな子がいるんでしょ?」

 

「うん。」

 

・・・ほら、やっぱりいるんじゃないの・・・。

 

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