First Kiss −33−

 

 

「・・・なら、同じだよ。」

「違う!」

「なんでよ?」

「だから・・・っ!俺が好きなのは・・・」

「・・・聞きたくない。」

あたしは宗の口から出る他の女の子の名前を聞きたくなかった。

 

「なんで?」

「・・・。」

「いいから聞いて?」

「やだ。」

「聞けって。」

「やだって。」

「もう、いいから黙って聞け!」

宗は耳を塞ごうとするあたしの両手首を掴んだ。

そして、小さく息を吐き出してから、

「俺が好きなのは・・・琴美だよ。」

と言った。

 

「え・・・。」

 

嘘・・・

そんなの嘘だよね?

 

宗はぽかんと口を開けたままのあたしにさらに続けて言った。

「俺・・・初めて琴美と会った時からずっと好きだったんだ。」

 

「うそ・・・。」

 

「ホントだって・・・。」

 

「・・・。」

 

「いきなりキスしたのは悪かったと思ってる・・・でも・・・

 俺はアイツみたいにゲーム感覚の恋愛はしない。」

 

「あんなにモテるのに?」

 

「そんなの関係ないだろ?」

宗は眉間に皺を寄せた。

 

いや・・・関係あると思うよ?

 

「焦ってたんだ・・・。」

 

「?」

 

何を?

 

「琴美は高杉の事、好きなんだと思ってたし、高杉も夏の合宿以来、

 琴美を狙ってたみたいだし・・・。」

 

「・・・。」

 

「そしたら・・・今日、アイツが屋上で琴美に告ってたから・・・。」

 

「・・・で、いきなりキス・・・なの・・・?」

 

「・・・ごめん。」

 

「・・・。」

 

「琴美・・・今、好きなヤツいるの?」

 

「・・・いるよ。」

 

「え、・・・誰?」

 

誰・・・て、あなたなんですけどー。

 

「言いたくない?」

 

「そういうワケじゃ・・・。」

 

「じゃ、誰?」

「・・・。」

「武田?」

「違うよ。」

「田中?」

「なんで田中くんが出てくるの?」

「昨日、一緒に校内廻ってたから。」

「あ、あれは・・・二人とも暇だったから・・・。」

「じゃあ・・・誰なんだよ?」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・う。」

 

「え?・・・誰?聞こえなかった。」

思い切って口にしたつもりでも、あたしの声は自分で思ったよりも

小さくて・・・宗には聞こえなかったみたいだ。

 

あたしは深呼吸をした。

 

「・・・宗。」

そして今度はハッキリと宗の名前を口にした。

その途端、宗は驚いた顔のまま固まった。

 

そんなにびっくりしたのかな?

 

「お、俺・・・?」

 

あたしはコクンと無言で頷いた。

 

「マジで?」

 

もう一度コクンと頷くと宗はあたしをガシッと抱きしめて

「なんだよ、それー。」と脱力した。

 

「ちょ・・・重・・・っ!」

宗の全体重がのしかかってきたあたしはバランスを崩した。

 

「・・・おっと。」

だけど後ろに倒れる間一髪のところで宗があたしの体を支えた。

 

「・・・俺達、実は両想いだった・・・?」

「そう、みたい。」

「えー、じゃ、なんでさっきビンタなんかしたんだよー?」

「だ、だって・・・宗がいきなりキスするから・・・っ!それに・・・」

「それに?」

「・・・初めてだったんだもん・・・。」

「へ?」

「ファーストキスだったのっ。」

「マジで?」

「・・・だから、あんな風にいきなりされたから・・・。」

「ご、ごめん・・・。」

「・・・。」

「じゃあ、やり直す。」

「何を・・・?」

「ファーストキス。」

「え?」

あたしが驚いている間に宗はすでに顔を近づけてきていた。

 

「ちょ、ちょっと待った!」

「えー!なんだよー?このタイミングで“待った”?」

「こ、心の準備が・・・まだ・・・その・・・。」

「じゃ、何秒待てばいい?」

「な、何秒って、そんな・・・」

 

「・・・なら、しばらくこうしてる。」

宗はそう言うとまたあたしをぎゅっと抱きしめた。

 

・・・ドクンッ、ドクンッ・・・

 

宗の心臓の音・・・。

 

宗もドキドキしてるのかな・・・?

 

 

―――どれくらい抱きしめられていたのかわからないけれど・・・

多分、結構時間が経っていたんだと思う。

 

宗はそっとあたしから体を離すと、翡翠色の澄んだ瞳に

あたしが映っているのがわかるくらいまで顔を近づけた。

 

その後はあたしは目を閉じてしまったから、宗がどんな顔をして

キスをしたのかはわからない・・・。

 

・・・でも、宗の手が少しだけ震えているのがわかった。

 

 

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