First Kiss −20−

 

 

オバケ屋敷から出て、あたしと宗が

いろいろ露店巡りをしていると

武田くんと高杉くんが一緒に歩いていた。

 

あたしはちょっと気づかないフリ・・・。

武田くんはともかく高杉くんがいるからなー。

 

だけど、こーゆー時に限って向こうから気付くんだよね。

 

「お、二ノ宮と平野さんだ。」

 

・・・ほら、ね。

 

しかも武田くんじゃなくて高杉くんに見つかったみたい。

 

「お、高杉と武田が一緒なんて珍しいな。」

宗は武田くんと高杉くんに近づいた。

あたしと手を繋いだまま。

 

「平野さん誘おうと思ったらおまえと一緒に出かけたって言ってたから、

 武田もあぶれたって言ってたし。」

高杉くんは苦笑した後、あたしと宗の繋いだ手をちらりと見た。

 

「俺も琴美ちゃんと一緒に行きたかったのになー。」

武田くんはちょっと膨れっ面をしている。

 

「早い者勝ち。」

そんな武田くんに宗はにやりとしてみせた。

 

「一緒に店回ろうぜ。」

高杉くんは爽やかな笑顔を宗に向けて言った。

 

え・・・。

 

「あ、それいい!二ノ宮はもう琴美ちゃんを充分独り占めしただろ?」

武田くんもにこにこしながら言った。

 

えー。

合流するんなら武田くんだけでお願いします。

 

「えー、やだ。」

宗は意外にもあっさり断った。

 

「嫌ならおまえは先に帰れよ。俺らは平野さんと一緒に回るから。」

そして高杉くんもあっさり宗に言い放つ。

 

それを聞いて宗がちょっとムッとした。

「琴美はどうしたいんだ?」

 

「・・・。」

 

どうしたいって・・・。

 

「・・・そろそろ・・・帰ろうかな・・・と。」

短時間の間に脳内をフル回転させて出た答え。

 

“逃げるべし・・・。”

 

「「えー。」」

武田くんと高杉くんは口を揃えて不満そうに言った。

 

だって・・・このまま宗だけ帰って、武田くんと高杉くんと一緒に

行ったとして・・・

なんだかんだと武田くんがどっかに行かされたりなんかして

高杉くんと二人きりになったら最悪だもん。

 

「・・・んじゃ、そーゆーコトだから。」

宗は武田くんと高杉くんにそう言い放つとあたしの手を引いて歩き出した。

 

 

しばらく歩いたところで宗が前を向いたまま口を開いた。

「武田はともかく、高杉と一緒にいたかったんじゃないのか?」

「なんで?」

「さっき、高杉のコト捜してたみたいだし。」

「・・・。」

 

まだ言うか。

 

「一緒にいたかったら最初から宗とじゃなくて高杉くんと来るし。」

 

「・・・それもそうか。」

宗はそう言って納得すると

「お土産買って帰ろうぜ。」

とにっこり笑った。

 

「うん。」

あたしと宗は貴兄と顧問の先生達に焼き鳥を買って帰った。

 

 

―――次の日。

朝から大雨になった。

昨日のお祭りの時に降らなくてよかった。

 

朝、いつもジョギングに出かけるバスケ部とサッカー部のみんなは

体育館の中をぐるぐる走っていた。

さすがに雨の中、走れないもんね。

 

朝食の後、バスケ部のみんなはいつも通り体育館で練習。

グラウンドが使えないサッカー部のみんなは大広間で勉強会をしていた。

 

 

昼食の後、あたしはいつもスケッチブックとデジカメを持って出かける。

今日も出かけるつもりで一応、スケッチブックとデジカメは片手に持っていた。

だけどさすがに今日はこの雨の中どこへも出かける気にならない。

 

どしゃ降りだもんなぁ・・・。

 

そーいえば・・・

あの“翡翠の人”と出会ったのもこんな大雨の中だったな・・・。

 

あたしは雨が降る度に“翡翠の人”の事を思い出していた。

実はあの後、“翡翠の人”と出会った場所にも何度か行ってみた。

なぜかすごく気になったから。

ただ顔が見えなかったから気になるだけかもしれない。

 

だけど、例え“翡翠の人”がまたあそこにいたとしても

あたしは顔がわからないんだからどうしようもない。

 

「何物思いにふけってんの?」

不意に誰かの声が頭上からした。

その声にあたしは現実に引き戻される。

 

声の主はやっぱり宗だった。

 

宗はあたしの目の前に座ると置いていたスケッチブックに手を伸ばした。

「見てもいい?」

 

「うん。」

 

宗はあたしから閲覧許可が出ると興味深そうにスケッチブックを開いた。

 

「琴美ってさー、よく物思いにふけるというか、考え事してるよね。」

 

「そぉ?」

 

「うん。」

 

・・・そーかもしれない。

 

最近、だいたいそんな時は“翡翠の人”の事を考えてる時が多いけど、

絵を描くときや、何か“モノを作る”時にどんなモノを作るか・・・とか

じっくり考えてる事が多いから。

 

「風景ばっかじゃないんだな。」

宗はスケッチブックに視線を落としたまま言った。

 

「うん、その時“描きたい”って思ったモノを描いてるから。」

 

「じゃ、これも?」

宗は顔をあげ、あるページに描かれた人物の絵をあたしに見せた。

 

あ・・・。

 

それは・・・

 

中学を卒業する直前に描いた高杉くんの絵だった。

 

何冊もあるスケッチブックの中のどれかに描いたのは憶えてるけど

これだったか・・・。

 

「これ・・・高杉?」

宗にそう聞かれ、何も答えることができない。

だって・・・そうだと言ってしまえば、やっぱり高杉くんの事

好きなんじゃないかと言われる気がするし、

違うと言ってもなんかバレバレな気がするから。

 

「・・・。」

 

・・・なんて答えよう?

 

「おーい、二ノ宮。そろそろ練習行くぞー!」

少し離れた所から武田くんの声がした。

 

なんてタイミング・・・。

 

「おう!」

宗は武田くんに軽く手を上げるとスケッチブックを閉じて立ち上がった。

 

「んじゃな。」

あたしの方に小さく笑みを浮かべ、宗は武田くんと体育館の方へと歩いていった。

 

きっと・・・なんか誤解されたような気がする。

 

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