First Kiss −19−

 

 

―――次の日。

朝食の時も、昼食の時も、夕食の時も高杉くんは

まるで何もなかったような顔であたしに話しかけてきた。

 

そしてまた昨日と同じ様にお風呂上り、

海を眺めに来たあたしの後を追うように

高杉くんが来た。

 

だけど今、高杉くんはあたしの目の前で彼女と電話で話している。

楽しそうにしゃべってケラケラ笑っている。

 

やっぱり昨日のあれはあたしをからかってただけ・・・?

きっとそうだよね?

チャラ男のやる事はよくわかんないな。

あたしなんかをからかったところで、

別におもしろくともなんともないだろうに。

 

・・・て、ゆーか。

高杉くん・・・何しに来たんだろ?

彼女の方からかかってきたとはいえ、

あたしになんか用があるなら、後で掛け直すだろうし。

 

だけど高杉くんは一向に電話を切る様子がない。

 

あたしはそろそろ部屋に戻ろうと立ち上がって、

おやすみの意味で高杉くんに一応、手だけ振った。

 

 

部屋に戻る途中、宗に会った。

 

お、もう一人のチャラ男だ。

 

宗はお風呂からあがったばかりらしい。

暑い暑いと言いながら、あたしに近づいてきた。

 

「琴美、いい物持ってるじゃん。」

宗はにっこり笑うとあたしの手から団扇を奪い取った。

 

“水も滴るいい男”・・・とは宗みたいな事を言うんだろうな。

高杉くんもそうだけど、お風呂あがりは濡れ髪が普段と違う印象を与える。

ちょっと色っぽい・・・とさえ思ってしまう。

 

「何?俺に見惚れてるの?」

宗はにやりとした。

 

チャラ男って・・・どーしてこうもしれっとした顔で

こんな事が平気で言えるんだろ?

 

「別に見惚れてたワケじゃないけど。」

我ながらちょっと冷たい言い方。

 

「・・・なんか琴美、機嫌悪い?」

宗はあたしの顔を覗き込んだ。

 

機嫌が悪い・・・というか、高杉くんにからかわれて

ムカついてただけ。

 

「何やってんの?」

・・・と、そこへ高杉くんが外から戻ってきた。

 

うげ。

 

チャラ男二人の相手を同時にするのはキツいな・・・。

 

あたしは宗の手から団扇を奪い返し、

「おやすみ。」と言って急いで部屋に戻った。

 

ただ高杉くんから逃げたかっただけなのに、

宗に悪いことしたかな・・・。

 

 

―――数日後、今日は地元の神社でお祭りがある。

バスケ部もサッカー部も今日はちょっと早めに練習を切り上げて

夕食までの間にミーティング。

夕食を食べた後は自由時間という事になったらしい。

 

「琴美、一緒にお祭り行こうぜ。」

夕食の後、宗があたしのところに来た。

 

この間、ちょっと冷たい態度とっちゃったしな・・・。

 

「うん。」

あたしがそう返事をすると、宗はにっこり笑った。

 

「あ、二ノ宮ズルい!俺も一緒に行く!」

突然、武田くんがどこからともなくすっ飛んできた。

 

一体どこから出てきたの?

 

「琴美と二人で行くからダメ。」

宗は武田くんを一蹴するとあたしの手を取り、

スタスタと歩き出した。

武田くんがなにやら背後で文句を言っているのも

宗は聞こえていないかのように無視をしている。

 

武田くん・・・ちょっとかわいそ。

 

 

神社にはサッカー部とバスケ部の人がすでに何人か来ていた。

 

高杉くんは・・・来てないみたい・・・

よかった・・・。

 

なんだかホッとした。

またここで高杉くんに捕まったりしたら面倒だし。

 

「誰探してんの?」

宗はあたしの顔をちらりと横目で見た。

 

探してたというか警戒してたんだけどね。

 

「高杉?」

 

・・・むむむ。

 

「なんで高杉くんなの?」

 

「この間、夜、高杉と二人きりで海にいたし。」

 

見てたんだ・・・。

 

「・・・何、話してたの?」

宗はあたしの顔をじっと見つめると

ちょっと真顔になった。

 

まさか告白まがいの事言われました・・・なんて言えない。

まぁ、高杉くんにしてみればからかったつもりなんだし・・・

宗に言うほどの事でもないもんね。

 

「世間話。」

 

「ふーん。」

宗はそう言って、すぐに前を向いたけど全然信じてなさそう。

 

ちゃんと言った方がよかったのかな?

 

少しだけ気になったあたしは宗の顔をチラッと見た。

すると、宗はまったく気にしている様子もなく、

すでにフツーの顔をしていた。

 

なんだ・・・そんなに気にすることもなかったかも。

 

そう思っていると、宗が何かを見つけた。

「あっ!琴美、オバケ屋敷あるよ?」

「え。」

 

ホントだ・・・

目の前にオバケ屋敷。

 

「入ってみようぜ。」

宗は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

 

「や、やだっ。」

 

オバケ屋敷なんてヤダよ。

 

逃げようとして、あたしは宗に手首を捕まれたままだったのを

思い出した。

 

あぅ・・・。

 

「大丈夫、大丈夫。俺がいるから怖くないって。」

「えーっ!」

宗はあたしが逃げられないのをいい事にグイグイと引っ張っていく。

 

・・・で、結局オバケ屋敷の中へ。

 

うー・・・。

 

中はトーゼン真っ暗。

 

宗は掴んでいたあたしの手首を離して、そっと手を繋いできた。

 

「この方がいいだろ?」

宗はそう言うと優しく微笑んだ・・・よーな気がした。

実際には真っ暗だからよくわかんない。

 

「・・・うん。」

確かにただ手首を捕まれてるよりも、

こうしてちゃんと手を繋いでいてくれるのでは

何倍も安心感が違う。

 

宗・・・こーゆーのも慣れてそうだな。

 

チャラ男だから当たり前といえば当たり前か。

 

 

薄っすらと明かりが照らされている方にゆっくり進んで行くと、

いきなり生首(当然作り物)がぶら下げてあったり、

壁から手がいっぱい出てきたり、人が出てきたり・・・。

あたしはその度に一々反応して悲鳴をあげていた。

そんなあたしを見て宗はケラケラ笑っていたけど。

 

だからオバケ屋敷は嫌だって言ったのにー。

 

 

・・・そして最後の部屋。

いかにも最後に何かありますって感じの雰囲気。

この部屋で最後・・・と言っても今までと違った雰囲気が余計に

恐怖心を煽ってなかなか足が前に進まない。

 

「ほら、琴美いくよ。」

宗はそう言って足を前に進める。

あたしは両目をギュッと瞑ったまま恐る恐る足を前に少し出した。

 

中に入ると突然背後のドアがバタンッと大きな音を立てて閉まった。

「きゃあっ!?」

あたしは今までよりも一番大きな声で悲鳴をあげた。

 

「おぉっ!?」

さっきまで笑っていた宗もさすがにこれには驚いたようだ。

 

「もぉ・・・ヤダ・・・。」

あたしが半ベソ状態でそう言うと

「ははは、後5m歩けば出口だよ。」

と、宗は笑った。

 

後5m・・・。

 

一歩・・・また一歩足を進めて

ようやく後2mの所まで来た。

 

でも・・・何も起こらない。

 

よかった・・・。

後ろでドアが閉まっただけで終わった・・・。

 

なんて事を思っていたら甘かった。

 

「ぐわぁーっ!」

背後からゾンビが襲ってきた。

しかも10人くらい。

襲ってきた・・・と言ってももちろん殴りかかってくる訳じゃないけど。

 

一体、どこにこれだけ隠れてたんだか・・・。

 

最後の最後まで脅かされ続け、あたしと宗はようやく

逃げるように出口から外に出た。

 

 

「琴美、大丈夫?」

宗は半ベソ状態のあたしの顔をクスクスと笑いながら覗き込んだ。

 

「うー・・・。」

 

「琴美がこんなに怖がりだとは思わなかった。」

宗は楽しそうにニコニコしている。

 

「やっぱオバケ屋敷はいいなぁー。」

 

「どこがー?」

 

「だって、俺が何もしなくても琴美の方から抱きついてきてくれたし。」

宗にそう言われ、あたしはいつの間にか宗の腕にしがみついていた事に気が付いた。

 

「あ・・・ご、ごめん・・・。」

あたしは急いで宗の腕から離れた。

 

「別にそのままでいいのにー。」

宗はにやにやしている。

 

まさか・・・宗・・・

 

「もしかして・・・その為にオバケ屋敷に入ろうって言ったの?」

「うん、当たり前じゃん。」

 

なんですとっ!?

 

涼しい顔で言った宗に、あたしがあんぐりと口を開けていると、

「男がオバケ屋敷に誘う理由は一つしかない!」

と、にやりと笑った。

 

・・・ホント、チャラ男って悪知恵が働く。

 

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