First Kiss −18−

 

 

今朝から食欲がなさそうだった高杉くんは

お昼もあまり食べていなかった。

そして夜・・・おかずもご飯も食べていないし、

顔色も悪い。

 

あたしは高杉くんに近づき、おでこに手を当てて見た。

 

・・・やっぱり。

 

熱がある。

風邪ひいたな。

 

「平野さん、どうかした?」

高杉くんの隣に座ってガツガツとご飯を食べていた同じ1年生の長野くんが

あたしの顔を覗き込んだ。

 

「高杉くん、熱ある。」

 

「えっ!?」

長野くんは箸を置くとあたしと同じ様に高杉くんのおでこに手を当てた。

 

「ホントだ。」

長野くんはそのまま顧問の先生の所に行った。

 

 

それから高杉くんはすぐに大広間から隣の小部屋に移された。

熱を測ると38.5℃。

そりゃ食欲もなくなるよ。

 

高杉くんはクーラーの一番近くで寝ていて、

もろに風があたっていたらしい。

風邪をひくのも無理はない。

 

 

あたしは、お粥を作って高杉くんの所へ持っていった。

 

少しでも食べてくれるといいけど・・・。

 

「高杉くん、起きられる?」

熱がある所為か少し赤い顔をして寝ている高杉くんに声をかけた。

 

「・・・うん。」

 

「お粥作って来たんだけど食べられそう?」

 

「あー・・・ありがとう・・・。」

 

「食べられるトコまででいいから食べてね。

 後、これ薬持ってきたから。」

そう言って薬とお水を置くと

「・・・うん。」

と、力なく頷いていた。

 

相当我慢してたんだな・・・・。

 

あのまま放っておいたら倒れてたな。

 

 

その後、再びあたしが様子を見に行くと高杉くんは

お粥を全部平らげていた。

 

よしよし。

薬もちゃんと飲んだみたいだし。

後はこのまま寝てれば明日には熱が下がるだろう。

 

 

―――翌日。

朝、あたしが高杉くんの様子を見に行くと

熱は37.3℃まで下がっていた。

 

「まだ熱が下がりきってないから、今日一日は大人しく寝てたほうがいいね。」

あたしがそう言うと高杉くんは残念そうな顔をした。

 

練習に参加したいのはわかるけど、この熱じゃね・・・。

 

「高杉くん、朝ごはん何がいい?

 お粥が嫌だったらうどんも出来るよ?」

 

「お粥がいいかも・・・。」

 

「じゃあ、何味がいい?卵粥とか梅粥とか・・・。」

 

「梅・・・。」

 

「おっけー。じゃ、もう少し寝ててね。」

そう言ってあたしが部屋を出ると食堂の前で宗に会った。

 

「おはよう。」

宗は朝から爽やかな笑顔をあたしに向ける。

チャラ男はいつ会っても笑顔がいいね。

 

「おはよう。」

あたしも宗に笑顔を返すと、

「高杉が羨ましい・・・。」

と、なにやらボソッと呟いた。

 

「なんで?」

 

「琴美に優しくしてもらえるから。」

 

「え・・・、普通だと思うけど?」

 

「俺も風邪ひいたら同じコトしてくれる?」

 

「うん・・・そりゃ、まぁ・・・。」

 

・・・て、風邪ひく気?

 

「だからって風邪ひかないでね。」

あたしがそう言い放つと宗は、むむむっと言った顔をした。

 

図星かよ。

 

 

それから高杉くんはお昼になってようやく熱が下がった。

でも昼食はうどん。

食欲はだいぶ出てきたみたいであっという間にぺろりと平らげていた。

 

よかった、よかった。

 

 

―――夜、みんなと一緒に食堂で夕食を食べ終わった高杉くんが

後片付けをしているあたしに

「平野さん、いろいろありがとう。」

と、笑顔で言ってくれた。

 

「いえいえ。」

あたしはとりあえず高杉くんに笑顔を向けた。

 

まぁ・・・一応、クラスメイトだしね。

 

 

そしてお風呂上り、あたしは団扇を片手に外に出た。

民宿の目の前には海が広がっていて、

涼みながら夜の海を眺めるのが結構好きだったりする。

 

夜空を見上げると満天の星達・・・。

 

きれい・・・

流れ星見えないかなー・・・。

 

 

しばらくボーッと眺めていると、

「首痛くなるよ?」

と、後ろから誰かの声がした。

 

あ・・・

高杉くんだ。

 

高杉くんもお風呂上りみたいで髪が濡れたままだ。

 

「隣、いい?」

 

「う、うん・・・。」

 

ヤダ。

とは言えないよね?さすがに・・・。

 

高杉くんはあたしの隣に腰を下ろすと

「平野さんとこうしてまともに二人きりになるのって初めてだね。」

と小さく笑った。

 

あー、そうだね。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

そのまま何を話すワケでもなくしばしの沈黙・・・。

そして突然、高杉くんは予想もしていなかった事を聞いてきた。

 

「平野さん・・・今、彼氏っている?」

 

「いないけど?」

 

いたら、そもそもこんなトコに来ないよ・・・。

 

「・・・じゃあ・・・」

高杉くんはじっとあたしを見つめてきた。

 

な、何・・・?

 

「好きになってもいい?」

 

・・・え?

 

聞き間違いかな・・・?

 

「平野さんの事・・・好きになってもいい?」

 

幻聴?

てか、あたしの事タイプじゃないって言ったじゃん。

 

「・・・。」

だけどダメとも言えない。

だって別に理由がないから。

5ヶ月前にあたしを振った人が今・・・

あたしを好きになってもいい?と言った。

 

夢・・・?

 

それとも現実・・・?

 

あ・・・わかった!

熱、ぶり返した?

 

あたしは高杉くんのおでこに手を当ててみた。

 

「・・・ん?」

高杉くんは不思議そうな顔をしている。

 

「いや・・・熱、ぶり返したのかと思って・・・。」

 

「俺、そんなにおかしな事言った?」

高杉くんはプッと吹き出して、クスクスと笑い始めた。

 

「だって・・・」

 

・・・あれ?

そんな事より高杉くん・・・

 

「彼女いるんじゃないの?」

 

だって現にあたしを振った時だって・・・。

 

「いるよ。」

 

・・・やっぱ、いるんじゃん。

 

なんだ・・・あたしからかわれただけじゃん。

 

「いるけど・・・平野さんの事がすっごく気になる。」

 

「・・・。」

そんな事を言われ慣れていないあたしは

なんて答えていいかわからなかった・・・。

 

 

「じゃ・・・俺に彼女がいなかったらいいの?」

また黙り込んだあたしに高杉くんはどうなの?と言う顔で聞いてきた。

 

「・・・。」

 

なんて答えればいいかわかんないよ・・・。

 

高杉くんは相変わらず黙り込んだままのあたしを見つめている。

本気で言ってるの・・・かな?

 

 

「・・・は、早く寝ないとまた風邪ぶり返しちゃうよ?」

あたしは逃げることにした。

だって、このままずっとここにいても、

きっとあたしは何も答えられないから。

 

「おやすみ。」

なんでもないフリをしてそのまま部屋に戻ったあたしは

高杉くんのおかげで変な汗をかいた。

だからあたしはその後、もう一回お風呂に入った。

 

何やってんだろ・・・あたし。

 

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