First Kiss −17−

 

 

―――夏休み。

 

あたしは毎年、湘南にある親戚の民宿を手伝いに行っている。

近くに海も水族館もあってスケッチのネタには事欠かない。

しかも、遊びついでにお手伝いしているのにバイト代までくれる。

そんなワケで、今年も8月いっぱいずっとお手伝い・・・そして居候。

 

あたしの仕事は朝6時に起きて朝食の仕込みのお手伝い、

それから後片付け。

午前中は客室の掃除とか昼食の仕込みのお手伝いで終わる。

午後からは昼食の後片付けが終わると夕方5時まで自由。

5時からはまた夕食の仕込みのお手伝いと後片付け。

それからまた夜は自由。

スケッチに出かけるにも散策に出かけるにも充分だったりする。

 

 

ココの民宿の利用者はほとんどが学生。

・・・というのも、体育館やグランド、テニスコートなんかが

民宿と併設してあるから合宿に訪れるのだ。

 

今日もこれから都内の高校の男子バスケ部とサッカー部が来るらしい。

2週間の合宿予定だとか。

 

 

朝10時、一台のバスが民宿に到着した。

そのすぐ後にもう一台。

 

お、いよいよご到着。

 

だけど、あたしは基本的に裏方専門だから

お出迎えはしなくてもいい。

 

 

男子バスケ部とサッカー部の皆さんは着いた早々ミーティング。

二部屋ある大広間でそれぞれやっている。

ちなみにこの大広間でみんな雑魚寝状態で2週間を共にするらしい。

 

さすがに顧問の先生は別室だけど。

 

 

―――12時。

昼食の時間。

食堂にわらわらと男子バスケ部とサッカー部の皆さんが入ってきた。

 

食事は基本的にセルフだったりなんかする。

おかずが乗ったお皿をひたすらカウンターに並べておいて、

後はごはんと汁物は自分で好きなだけどうぞと言った感じ。

 

顧問の先生は上げ膳据え膳。

一年生が用意している。

そして、3年生の次に2年生、最後は1年生の順番で行列を作っている。

 

この辺はどこの学校も一緒なんだねー。

 

カウンターの上のおかずが減ってきて、あたしが補充するべく

せっせとおかずを並べていると、

「琴美!?」

「琴美ちゃん!?」

「平野さんっ!?」

と誰かに呼ばれた。

 

・・・ん?

 

あたしはパッと顔をあげて声がした方を見た。

 

およっ!?

 

「宗!?」

びっくりした。

 

都内の高校て・・・うちの学校だったのか・・・。

 

宗の後ろには武田くんと、さらに後ろの方に高杉くんもいた。

 

「琴美ちゃん、なんでココにいるの?」

武田くんは目を丸くしたまま宗を追い越してあたしの目の前に来た。

 

「あ、ココ親戚がやってて、毎年お手伝いに来てるの。」

 

「へー、そーなんだ。」

武田くんがそう言ってテーブルにつくと、

上級生の先輩達から「誰?誰?」と聞かれていた。

 

宗はあたしの顔を見るとニコッと笑った。

 

なんか視線が首あたりに感じるんだけど・・・

 

・・・あ、そういえば。

 

宗にもらったペンダントトップ・・・

ずっとつけててって言われたからバカ正直に

チェーンネックレスに通してつけてるんだった・・・。

 

まぁ、見られたからと言ってどうってコトないけど。

 

宗もあたしがあげたあの翼のペンダントトップをチェーンに通して

つけていた。

 

“俺もずっとつけとく。”なんて言ってたけど

ホントにつけてたんだ・・・。

 

「なんか合宿楽しくなってきた。」

宗はニコニコしながら武田くんの隣に行った。

 

高杉くんもあたしの顔を見るとにっこりと笑った。

てゆーか、“にやり”・・・て感じ?

 

今の笑顔は何・・・?

 

 

昼食が終わると顧問の先生達が従兄弟のお兄ちゃんに

ショッピングモールの場所を聞いていた。

 

従兄弟のお兄ちゃんとはココの民宿の長男・貴裕クン。

5歳年上の大学3年生。

大学を卒業したらココの民宿を継ぐらしい。

 

ここからショッピングモールまでは近くもなく、遠くもなく。

ビミョーな位置。

ここら辺の地理がわからない人が行くにはちょっと難しい。

 

・・・というワケでなぜかあたしが道案内でバスケ部とサッカー部から

それぞれ一人ずつ連れて行く事になった。

 

バスケ部からは武田くん。

そしてサッカー部からは・・・

 

高杉くん。

 

えー、やだな。

 

まぁ・・・武田くんがいてくれるだけでもマシか。

 

 

あたしと武田くん、高杉くんの三人は仲良く(?)並んで

ショッピングモールへと歩き始めた。

しかも、あたしが真ん中。

なるべく武田くんと話をしようと思うけど

こんな時に限って、話題が思いつかないし、

高杉くんがあれやこれやと話しかけてくる。

 

「平野さん、髪長かったのになんで切ったの?」

「・・・なんとなく、イメチェン・・・かな。」

 

おまえのせいじゃ、ボケ。

 

・・・なんてコトは言えない。

 

てゆーか、やっぱ髪が長かった子が突然切るとそんなに気になるモノなのかな?

 

「短いのも似合うね。」

高杉くんはそう言ってあたしに爽やかな笑顔を向けた。

 

・・・全然ときめかないな。

キュンとこない。

 

数ヶ月前のあたしならまちがいなく失神でもしてるところだ。

 

 

ショッピングモールに着くと武田くんと高杉くんはいろいろと買い込んでいた。

練習の合い間に飲む麦茶用のパックとかアイシング用品、酸素補給用のスプレー、

テーピング用品・・・他。

 

あたしが「荷物持つの手伝うよ?」

と言ったら、「大丈夫、大丈夫。」と

二人とも軽々と持っていた。

さすが・・・。

 

 

民宿に戻ると宗が荷物運びを手伝いに来た。

 

なかなかいいトコあるじゃん。

 

 

夕食が終わるとバスケ部とサッカー部のみんなはまた大広間でミーティング。

その日の練習で気づいたことや反省点を確認するらしい。

その後は顧問の先生、3年生、2年生、1年生の順でお風呂。

 

夜11時に消灯、朝6時に起床。

朝は軽いストレッチの後、ジョギング。

その後、民宿に帰ってきて朝食。

そしてまたお昼まで練習。

 

結構ハードだね。

 

だけど昼食の後は午後2時まで休憩らしい。

練習で疲れるせいか、だいたいみんなお昼寝するんだとか。

そしてまた夕方7時まで練習。

その繰り返し。

体力のないあたしだったら・・・絶対死ぬ!

と、思った。

 

 

―――宗達が合宿に来て5日が過ぎた頃。

夕食の時間、いつものようにカウンターにおかずを並べながら

なんとなく目に入った高杉くんを見ていると、

なんだか様子が変なのに気が付いた。

 

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