First Kiss 続編・デザート −10−

 

 

……ピッ、ピッ、ピーーーーーーッ!!

 

ホイッスルの音が体育館中に反響し、試合終了が告げられた。

 

「さっすが二ノ宮! あそこでスリーポイントを決めるなんて!」

あたしの隣にいる武田君は嬉しそうに両手でガッツポーツをしていた。

 

コートの中央では両チームが整列し、礼をした後、握手をしていた。

 

宗が笑顔でこちらに戻って来る。

でも、みんなとハイタッチをしてあたしの目の前に来るとすごく不安そうな顔になった。

 

そして、宗が何か言おうと口を開きかけたその時……、

 

「宗、ちょっと来てっ」

いきなり後ろからF高のマネージャーが現れ、宗の腕を引っ張った。

しかし、宗は何故か咄嗟にあたしの手首を掴んだ。

 

(えぇぇっ!?)

 

「宗っ、なんでその子まで連れて来てるのっ?」

ぴたりと足を止めるマネージャーの女の子。

 

(そ、そうだよ〜っ)

 

「琴美の前で横川さんにはっきり言っておきたい事があるからだよ」

宗はなんだかムッとしている。

その様子にマネージャーの女の子は何も言えず、再び歩き始めた。

 

 

「横川っ」

体育館から離れ、海のすぐ近くまで来たところで市川さんがあたし達の後を追って来た。

 

「一体、どうしたんだ?」

どうやらただ事ではないと思って追いかけて来たみたいだ。

 

「……」

だけど彼女は無言で前を向いたまま歩く。

 

砂浜の手前でやっと足を止めて振り返るけれど、あたしと市川さんが一緒にいる事で

なかなか話を切り出せないようだった。

 

「「「……」」」

あたし達は彼女が口を開くのを待った。

 

 

「宗、なんであたしの電話に出てくれないの? メールも……」

しばらくしてやっとマネージャーの女の子が話を切り出した。

 

(この子、宗の携帯の番号知ってるんだ……)

宗は絶対に女の子には番号やメアドを教えない。

でも、彼女は知っている。

 

「そもそも教えたくて教えたんじゃないんだし」

 

「……それ、どういう事?」

“教えたくて教えたんじゃない”という宗の言葉に首を捻っていると、

市川さんが不思議そうに二人に訊ねた。

 

「夏休みの前に練習試合をした時、横川さんと再会してその時に番号とメアドを

 しつこく訊かれたんですよ」

 

「無理矢理聞き出したのか?」

市川さんは呆れたようにマネージャーの女の子・横川さんに言った。

 

「無理矢理っていうか……確かになかなか教えてくれませんでしたけど、

 照れてるだけなんだと思ってたんです。宗、あたしがプレゼントしたタオルを

 まだ使ってくれてたから、きっとあたしの事が好きなんだと……、

 今日だってそのタオル使ってるし」

 

「え……」

顔を引き攣らせる宗。

市川さんは『どうなんだ?』という顔を宗に向けた。

 

「……確かに、このタオルは横川さんがあの時プレゼントしてくれた物だけど、

 普通に使ってるだけ」

 

「じゃあ、あたしの事は……好きじゃないの?」

 

「あぁ。なんか……俺の所為で勘違いしたなら、ごめん。俺が好きなのは琴美だけだから」

 

「っ」

市川さんは宗の言葉に一瞬、顔を顰めた。

 

「宗とその子、付き合ってるの?」

怪訝な顔で訊ねる横川さん。

 

「あぁ」

 

「えっ!?」

宗がはっきり答えると、市川さんが声を発して驚いた。

 

「でも、あなた、市川キャプテンと電話したりメールしたりしてるんでしょ?

 キャプテンの事、からかってるのっ?」

すると、横川さんが鋭い口調であたしに視線を向けた。

 

「か、からかうだなんて……」

 

「キャプテンが眼鏡フェチだから?」

 

(え……“眼鏡フェチ?”)

 

「待てよ」

宗はあたしを庇うように横川さんの前に立ちはだかった。

 

「市川さんは琴美が俺と付き合ってる事、知らなかったんですか?」

 

「あ、あぁ」

 

「てか、琴美も言ってなかったの?」

 

「だ、だって……そういう事、訊かれなかったから……」

 

「……そっか……彼氏いたんだ? なんか……ごめん、彼氏がいるのに頻繁に電話とかメールして。

 あの時、琴美ちゃんがすんなり携帯の番号とメアドを教えてくれたから、てっきり俺……

 自分に好意を持ってくれたんだと思って……」

 

「えっ? ち、違いますっ」

あたしは思わず慌てて否定をした。

 

「最近、全然電話に出てくれなくなったし、メールも返って来なくなったから、

 嫌われちゃったのかと思ったんだけど……彼氏がいたなら納得。

 あんなにしつこくされたら困るよね? ごめん」

市川さんは申し訳なさそうに言った。

 

「い、いえ、あたしの方こそ、ごめんなさい……」

今回の事は市川さんだけが悪いんじゃない。

あたしが何も考えずに番号なんか教えてしまったからこんなややこしい事になったのだ。

 

「電話もメールも、もうしない」

市川さんはそう言うとポケットから携帯を出して、ポチポチと何か操作をした。

 

「琴美ちゃんの番号とメアド、消したから。琴美ちゃんも俺の番号とメアド消して?」

 

(え……)

 

「琴美、携帯貸して?」

あたしがきょとんとしていると宗に言われた。

 

「う、うん」

ポケットから携帯を出して宗に渡すと、市川さんと同じ様に操作した後、

あたしに携帯を返してくれた。

 

「琴美の携帯から市川さんの番号とメアド消したから」

宗はあたしに『これでよかったんだよな?』という顔を向けた。

 

「うん」

 

「次は横川さんの番。横川さんも俺の番号とメアド消して?

 俺の方は横川さんの番号とかメモリーには入れてないから」

 

「え……」

横川さんは宗からそう言われても、なかなか携帯を出そうとしなかった。

 

「横川、無理矢理番号を聞き出した相手に掛けたって出てくれないんだし、

 それならいっそキレイさっぱりメモリーから消した方がスッキリするぞ?」

市川さんは俯いている横川さんに優しい口調で言った。

 

「はい……」

渋々携帯を出した横川さん。

それを今度は市川さんが彼女の手から携帯を取り上げ、ポチポチと操作し始めた。

その様子をちょっと悲しそうに見つめる横川さん。

 

「ほら、最後の削除の確認ボタン、自分で押せ」

市川さんは完全に削除する前に横川さんに携帯を返した。

 

……ポチリ。

 

しばし画面を見つめた後、彼女はゆっくりとボタンを押して携帯を閉じた。

 

「消したよ」

小さな声でそう言った彼女に宗は「うん」とだけ返した。

 

そして……、

 

「後、呼び捨てもやめれ。“宗”って呼んで欲しいのは琴美だけだから」

彼はそう言うと、あたしの手を引いて踵を返した――。

 

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