First Kiss 続編・デザート −9−

 

 

“あぁ……今日もまた負けちゃうのかな?”

 

そう思いながら雑念だらけの状態で試合をしていると突然、琴美の声がした。

 

「宗ーっ、負けたらこれからずっと“デザート”なしだからねーっ!」

 

(っ!?)

驚きのあまり、思わずその声の方に振り向くと体育館の入口に琴美が立っていた。

 

「こっ、琴美っ!?」

(琴美がいる……戻って来てくれたんだっ)

 

「宗、試合っ!」

琴美に言われ、ぼう然としていた事に気付く。

 

(……そうだっ、負けたらもう二度とキスしてくれないんだ!

 そんなの絶対絶対絶対嫌だーーーーーーっ!!)

俺は無我夢中でボールを追いかけ、可能な限りのシュートを放った。

そのおかげで第三クォーターは34 vs 24まで追い上げ、第四クォーターは42 vs 42で

同点で終了し、延長戦に突入した。

 

(ここからは五分間の勝負!)

 

 

延長戦、相手チームのキャプテン・市川と、うちの部長・加納先輩のジャンプボールで

試合開始。

 

市川がボールをタップし、F高チームにボールが渡った。

すかさず市川にパスが回される。

しかし、そこで俺が素早くパスカットに出た。

 

(これ以上、ボールには指一本触れさせないっ! 琴美にもこれ以上指一本触れさせないっ!)

 

一度他のメンバーにパスをして素早くスリーポイントラインまで移動する。

 

(ちまちま普通のシュートを決めていたんじゃすぐに追いつかれるっ)

俺はスリーポイントシュートを狙っていた。

 

チームメンバーから加納先輩へ、加納先輩から俺へパスが回され、シュートの体勢に入る。

 

……ガコーンッ!

 

だけど、俺が放ったボールは惜しくもバスケットのフレームに当たり、弾き返された。

 

(くそっ)

 

リバウンドボールが相手チームの手に渡る。

奪い返そうとするけれど、すぐにパスされ、市川の手に。

ボールには指一本触れさせないと誓ったのにさっそくこの様だ。

 

市川も必死らしい。

簡単にはボールを手放してはくれない。

 

そして、その市川がフリースローラインの辺りからシュートを放った。

 

……ポスンッ――、

 

(入りやがった……っ!)

市川が放ったシュートはきれいに決まり、44 vs 42になった。

 

(まずい……っ、このままじゃ、本当に琴美と一生キス出来ないっ!)

それどころか、琴美まで市川に奪われてしまう気がする。

 

琴美があっさり市川に乗り換えるとは思えない。

だけど、今の俺はスリーポイントも決められず、目の前で市川にシュートを決められてしまった。

俺の中でモヤモヤとなんとも言えない感情が渦巻いていた。

 

(琴美は俺の“彼女”だっ! 絶対、誰にも渡さないっ!)

 

パスが俺に回わされ、再びスリーポイントを狙い、ゴールに向かってダッシュする。

 

(落ち着け、俺っ)

ドリブルをしながら深呼吸をする。

 

その間にもF高の奴等がボールを奪いに来る。

試合時間は後、一分。

ここで絶対スリーポイントシュートを決めないと負けてしまう。

 

(絶対、決めるっ!)

スリーポイントラインの手前、俺はシュートの体勢に入った。

しかし、そこで市川がボールを奪いに来た。

 

(くそっ、もう時間がねぇんだから邪魔すんなよっ!)

 

「ニノ!」

後ろから加納先輩の声がして一度パスを出す。

 

(後50秒……)

 

加納先輩から他のメンバーへ。

 

(後、45秒……)

 

俺の前には市川ともう一人F高の奴がいる。

このままじゃ、俺にはパスが回って来ない。

 

(後、40秒、こうなったら普通にシュートを決めてやる!)

俺は市川達のマークを外して前に出た。

すかさずパスが回される。

 

「おらぁーーーーっ!!」

気合いとともにボールをバスケットに押し込む。

シュートが決まり、これで44 vs 44。

(よっしゃーっ! 同点っ!! 後30秒、もう一回シュート出来るか?)

 

F高のスローインでコートに戻って来たボールは俺の目の前にいる奴の手に渡った。

すぐそばには市川がいる。

こいつは他のF高のメンバーよりも背も高いし、動きも早い。

シュートも確実に決められる奴だからボールが渡ったら厄介だ。

 

(後20秒っ)

俺はパスカットでボールを奪おうと市川の前に出た。

しかし、何故か市川にパスは出されず、別のメンバーにボールが渡った。

 

(えぇーっ? ここは普通市川にボールを回すだろっ?)

やや呆然……。

 

(て、後15秒だ!)

ボールを持っている奴はパスの判断を迷ったのかすぐに俺達メンバーに囲まれた。

高くボールを投げ上げ、パスを出すけれど大きな孤を描いてゆっくり落下してくるボールは

小学生にだって取れる。

 

「ニノ!」

そのボールを加納先輩がキャッチし、俺にパスが出された。

 

(後5秒……!)

立っている場所はちょうどスリーポイントラインの位置だ。

別に同点なんだから無理にスリーポイントを狙う必要はない。

だけど、すぐ後ろには市川がいるし、周りもF高の奴等ばっかだ。

 

決まれば勝ち、外しても同点。

だが、これ以上の延長はいろんな意味でキツい。

 

(一か八かっ!)

俺はそのままそこからシュートを打った――。

 

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