First Kiss 続編・1 on 1 −4−

 

 

――翌日、この日の六時限目の授業は体育だった。

 

今日は第二体育館の方で苦手なスポーツの一つのバスケットボール。

……て、そもそも運動神経自体がないから全てのスポーツが苦手な訳だけど。

 

 

男子と女子で分かれて、更に出席番号順で二つのチームに分かれて試合。

 

あたしは相変わらずチームのみんなの足を引っ張っていた。

パスが回ってきてもすぐに相手チームにボールを奪われ、

ドリブルをしている途中でも奪われ、珍しくシュートを打てたとしても

“確実”に外す始末……。

 

ふと、隣で跳び箱の授業をやっている一年生のクラスの方に目をやると

その中には昨日、美術部を辞めた三人組の女の子達がいた。

こちらの方を見てクスクス笑っている。

 

なんだか私の下手くそなバスケを笑われているみたいで嫌だった。

 

(あ〜ぁ……早く授業終わらないかなー)

 

 

 

 

そして授業が終わってボールを片付けようと用具倉庫に行くと

ちょうど跳び箱を片付け終わったあの三人組もいた。

 

「ねぇねぇ、平野先輩のあの運動神経、ヤバくない?」

 

(え? あたしの話?)

 

「あの人、バスケやった事ないのかな?」

「さぁ〜?」

「てか、なんであんな人が二ノ宮先輩の彼女なんだろ?」

「ホント、ホント」

「絵を描く事しか取り得がないのにねー? どこがいいんだろ?」

 

そりゃあ、確かに運動は超苦手だし、周りから見ても誰よりも

下手くそだってわかる。

 

“絵を描く事しか取り得がない”

 

すごくショックだった。

だけど本当の事だから何も言えない。

 

「二ノ宮先輩の彼女が美術部にいるって聞いたからどんな人かと思ってたけど

 全然たいした事ないじゃん」

「顔だってフツーだし」

「あれで去年の『校内コンテスト』三位だっていうんだから不思議だよねー?」

「うんうん」

「美術部も辞めて正解。二ノ宮先輩の話とかもっといっぱい聞きたかったのに

 あの先輩クソ真面目に黙々と部活やってるし」

 

(あの子達、そんな目的で美術部に入ったんだ?)

 

そういえば、やたらと宗の事を聞きたがっていた気がする。

 

(……てか、嫌な会話聞いちゃったな)

 

あたしは三人に気付かれないように踵を返した。

すると、いつの間にかあたしのすぐ後ろに武田くんが立っていて

思わずぶつかりそうになっていると「おい、おまえら」と三人組を睨んだ。

 

武田くんの声に三人組の女の子達は同時に振り向き、あたしの顔を見て

「あ、平野先輩いたんですか?」と含み笑いをした。

どうやらあたしが後ろにいるのがわかってて言っていたみたいだ。

 

「バスケ部のマネージャー断られたからって美術部に入ってまで

 人の彼女の品定めかよ、サイテーだな」

武田くんはまるで自分の彼女が悪口を言われたみたいに怒っていた。

 

「別にそんなつもりじゃ……ねぇ?」

「「う、うん」」

女の子達は武田くんの怒った顔と口調が怖かったのか、ちょっとたじろいだ。

 

「やっぱ、おまえらみたいなのがバスケ部のマネージャーになんなくて正解」

武田くんは吐き捨てるように三人組に言い、用具倉庫を出て行った。

 

そしてあたしもなんとなく逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

教室に戻ってからも武田くんはまだ怒っているみたいだった。

ただ、あたしに「さっきの奴らの言う事なんか気にしないほうがいいよ」

とだけ言ってくれた。

ちなみに武田くんの席はあたしの隣だ。

そんな訳でHRの間もずっと無言で、ものすごい“不機嫌オーラ”が隣から漂っていた。

 

“絵を描く事しか取り得がない”

 

あたしはあの子達に言われた言葉が頭から離れないでいた。

 

顔も至って普通……いや、もしかしたらそれ以下なのかもしれない。

去年の『校内コンテスト』だって、まぐれかなんかだし。

頭はバカと言うほどではないけれど、ズバ抜けて良い訳じゃない。

運動神経も皆無。

絵を描くことだって小さい頃から好きでずっと描いていたから

みんなよりちょっと上達しただけ。

 

あたしより可愛い子はいっぱいいる。

 

あたしより頭のいい子も運動神経がいい子も。

 

あたしは本当に“絵を描く事しか取り得がない”のだ。

 

宗はこんなあたしなんかのどこがいいんだろうか――?

 

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