First Kiss 続編・1 on 1 −5−

 

 

――その日の部活。

武田は部室に入ってきた時からずっと不機嫌そうだった。

部活中もムスっとした顔で、いつもは俺や他の奴がシュートを外したり

何かミスをした時は「ドンマイ」と声を掛けてくれるのに今日は無言だ。

 

しかし、部活が終わって一緒に部室で着替えていると徐に武田が口を開いた。

「二ノ宮ってさー……」

 

「あん?」

 

「琴美ちゃんのどこが好き?」

 

「は?」

 

(またコイツは……唐突に何を言うのかと思えば)

 

「どこってー、全部」

「ふーん」

「……」

「……」

「……て、おい、それだけかよっ」

「いや、在り来たりな答えだなー、と思って」

 

(悪かったな。“在り来たりな答え”で)

 

「おまえ、琴美ちゃんとバスケした事ある?」

 

「琴美と? あー、そういえばないなー」

琴美とはほぼ毎週末、駅で待ち合わせをしてデートしている。

デートコースはだいたい二人で街ぶらして疲れたらカフェで一休み。

後は観たい映画があれば見に行ったり、動物園や水族館に行ったり。

 

「それってー、琴美ちゃんが嫌がるから?」

 

「いや、ただ単に俺も琴美も“バスケやろう”とか言った事がないから」

 

「ふーん」

 

「……」

 

「……」

 

「……て、さっきからおまえ何が聞きたいんだ?」

今日の武田はなんかおかしい。

 

「今日さ、体育の授業でバスケやったんだ」

「へー」

「……」

「……で?」

「いや、まぁー、それだけ」

「はぁ?」

 

絶対おかしいっ。

 

「何? もしかして、琴美があまりにバスケが下手だったから

 ドン引きしてんのか?」

 

「別に引いてるわけじゃねぇけど」

 

「琴美、運動神経ないもんなー」

琴美ははっきり言って運動系はまるで駄目だ。

物作りに関してはあんなにすごいのに。

 

「一緒にバスケやりたいとか思わないの?」

 

「んー、たまにはまぁ、そういうデートもいいとは思うけど。

 別にバスケじゃなくても琴美となら何やってても楽しいし。

 てか、なんでそんな事聞くんだ?」

 

「……いや、別に」

 

「つーか、おまえ今日部活の最中ずっと機嫌悪くなかった?」

 

「まぁな」

 

「それって今の質問と関係あるのか?」

 

「……なくもない」

 

聞いてはみたものの、実はよく意味がわからなかった。

武田が不機嫌だった理由と俺と琴美。

一体、どう繋がるんだろうか?

 

 

それから武田は、俺が考えている間に謎だけを残して帰ってしまった。

 

 

 

 

「ねぇ、宗はあたしのどこがよくて付き合ってるの?」

そして琴美と一緒に帰っていると、なぜか武田と同じ様な事を訊かれた。

 

(ひょっとして、琴美のクラスでこの手の話題が流行ってんのか?)

 

「どこって全部だよ」

そう答えた後、なんとなく琴美の様子がおかしい事に気がついた。

 

「……」

今朝は普通だったのに、なんか元気がない。

 

「なんかあった?」

 

「……ううん、なんでもない」

何か嫌な事があったのかもしれない。

でも、琴美は俺に何も言おうとしなかった。

 

「ならいいけど。あ、そうだ、明日のデートはさ、動きやすい格好で来てね?」

本当ならちゃんと話を聞いて元気付けてあげられればいいのだけれど、

本人が何も言おうとしないし、一緒にバスケでもして汗を流せば

少しは元気が出るかもしれないと思った。

それにさっき武田と話してて琴美と一緒にバスケをやってみたくなったし。

 

「???」

 

「あ、後、タオルも持って来てね」

俺がそう言うと琴美は不思議そうな顔をしながら「うん、わかった」と言った。

 

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