ペット以上、恋人未満 −9−

 

 

あたしは克彦さんにぎゅっと抱きしめられた―――。

 

「か・・・三浦さんっ!?」

 

「ごめん・・・嘘なんだ・・・。」

 

「・・・。」

克彦さんの言葉の意味がどういう事なのか・・・

なんとなくわかった。

 

「ごめん・・・。」

 

消えそうなほど小さな声で言った克彦さんはとても弱々しく感じた。

 

「どうして・・・?」

 

「・・・。」

 

「・・・克彦さん?」

 

「・・・。」

 

 

克彦さんは結局、あたしの質問には答えてくれなかった―――。

 

ただ、あたしをずっと抱きしめたまま・・・。

 

こんな克彦さんを見たのは初めてだった。

いつも自信に満ち溢れていて、あたしには

弱い部分なんてまったく見せなくて・・・。

ホテルで会う時だって抱きしめられた後は

すぐにキスとかしてきていたのに今は何もして来ない。

 

それはもう二人の関係が数ヶ月前に

終わっているからというだけじゃない気がした。

 

まるで・・・

 

 

「克彦さん、何か・・・あったの?」

克彦さんの香水の香りに包まれて、

克彦さんの腕に抱きしめられたまま聞いた。

 

「・・・なんでもないよ。」

 

嘘・・・。

 

「だったら・・・どうして?」

 

「ホントに、なんでもないから・・・。」

 

「・・・。」

あたしはそれ以上、何も聞けなかった。

 

ただずっと抱きしめられたまま

克彦さんの腕が離れるのを待った。

 

 

「ごめん・・・ちょっと急に会いたくなっただけだから。

 もう二度と、こんな事しないよ。」

しばらくして克彦はあたしの体から腕を離すと、

申し訳なさそうな顔で小さく笑った。

 

克彦さんはなんでもないと言ったけれど、

何か隠しているような気がした。

 

「克彦さ・・・」

「彼氏、待ってるんだろ?」

もう一度だけ何かあったのか聞こうとあたしが口を開くと

それを制するように克彦さんは言った。

 

彼氏じゃないけど、綺羅人が待っていることは事実だ。

 

「・・・。」

 

あたし・・・このまま帰ってもいいのかな?

 

「ほら、早く帰らないと彼氏に怒られるぞ?」

克彦さんはそう言うとあたしを部屋の入口まで送ってくれた。

 

「じゃ。」

そう言って克彦さんが部屋のドアを閉める瞬間、

優しい笑顔が消えて、すごく哀しそうな目をしたのが一瞬見えた。

「か・・・」

 

パタン―――・・・

 

名前を呼ぶ前にドアが閉まった。

 

「・・・。」

 

なんだったんだろう・・・。

 

あたしは後ろ髪を引かれる思いで踵を返した―――。

 

 

「ただいま・・・。」

ホテルを出た後、途中で買い物をして

部屋に着いたのは午後9時過ぎだった。

 

「おかえり。」

綺羅人はリビンクから出てくると

あたしが持っている買い物袋を持ってくれた。

すると、綺羅人は買い物袋を持ったまま立ち止まった。

 

「綺羅人?どうしたの?」

 

「・・・あ、ううん。なんでもない。」

少しだけ曇った表情をしていた綺羅人はすぐにまた

いつもの可愛らしい笑みを浮かべた。

 

なんか今日はみんなおかしいよ・・・?

 

なんなの?

 

一体・・・。

 

克彦さんといい、綺羅人といい・・・。

 

 

―――翌朝。

打ち合わせで克彦さんと同じマセキ家具の別の担当者と

クライアントの所に直行する予定のあたしは

綺羅人といつもよりかなり遅めの朝食を摂っていた。

 

・・・〜♪♯〜♪♪〜♪♭♪〜♪〜♪♪―――

 

「ん?」

携帯が鳴っている。

会社からの着メロだ。

 

「もしもし。」

『もしもしっ、一ノ瀬さん?』

あたしが携帯に出ると相手はすぐに慌てた口調で

喋り始めた。

 

「あ、奥田くん?おはよう。どうしたの?」

『一ノ瀬さんっ、三浦さんが・・・マセキ家具の三浦さんが

 亡くなったって・・・っ。』

 

・・・っ!?

 

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