もう一つのFirst Kiss -First Kiss特別番外編 1-

 

 

「私、二ノ宮くんの事が好き・・・。」

 

初めて女の子から告白されたのは小学校3年生の時だった。

 

でも、その頃は告白されたからといって、

“付き合う”とかそういうのは全然なくて、

ただ、告白されて終わり―――。

 

 

「二ノ宮くん、私と付き合って?」

 

初めて女の子からそう言われたのは小学校5年生の時だった。

 

でも、その頃の俺は“付き合う”という事が

どういう事なのかよくわからず、

結局、曖昧な返事をしてその子を傷つけただけだった―――。

 

 

中学になって友達に“彼女”が出来た。

 

そして、その友達にいろいろと彼女話を聞かされたおかげで、

“付き合う”という事がどんな事なのか段々わかってきた。

 

一緒に登校したり、下校したり、メールしたり、

電話で話したり、休みの日に会ったり―――。

 

正直、“面倒くさい”と思った。

 

その頃の俺はまだ携帯を持たせて貰っていなかった。

だからメールはともかく、電話で話すなら

家の電話にかけなくちゃいけない。

そうなると誰が出るかもわからないし、

余計な緊張もしなくちゃいけない。

それに、だいたいそんな事する暇があるなら

少しでもバスケットボールに触っていたいと思った。

 

 

―――中学2年の時、隣のクラスに転校生が来た。

 

「宗。」

一週間前に来たばかりの転校生は俺のどこがそんなに気に入ったのか、

何かにつけよく俺の所に来たし、いきなり呼び捨てにもした。

 

「だから、呼び捨てやめろって。」

 

「なんで?いいじゃん♪」

 

よくねぇ・・・。

 

俺は男友達からならともかく、女子から呼び捨てにされる事に

ものすごく抵抗があった。

別にその子の事が嫌いな訳じゃない。

話してるとそれなりに楽しいし、おもしろい。

でも、呼び捨てにはされたくなかった。

 

「だって、さっきから呼んでるのに

 全然気付いてくれないんだもん。」

 

「え・・・あー、ごめん。」

 

「フツーに“二ノ宮くん”て、呼んでも

 反応しなかったから“宗”って呼んだら

 気付いてくれるかなーって思ったけど、

 やっぱすぐ反応したね。」

その転校生の女の子・横川千尋は悪戯っぽい目をして

にやりと笑った。

 

「宗ってバスケしてる時は周りが見えなくなるんだねー。

 さっきからあたしが手振ってたのに気付かないし。」

 

俺はいつも昼休憩に友達と体育館で3on3をして遊んでいる。

そこへこの横川さんが現れたのだ。

 

「てか、何の用だよ?」

 

「化学の教科書、借りてくね。」

横川さんはそう言うと手に持っていた化学の教科書を

顔の高さまで上げた。

おそらく、また俺の机の中から拝借したんだろう。

 

“また”というのは、彼女は転校して来たばかりだから

まだいろいろと揃っていない物があるらしく、

俺の所によく教科書なんかを借りに来る。

体操服も前の学校の物らしく、一人だけ色が違う。

最初は別に教科書なんて隣に座ってる奴に一緒に見せて

貰えばいいのに・・・とも思った。

それになんで俺のところに来るんだろう?・・・とも。

 

だけど、転校してきて間もないのに教科書一つで

冷たく「他の奴に借りれば?」なんて言うのも

可哀相だと思い、あまり深く考える事もせず素直に貸した。

 

・・・で、今では毎回借りに来る始末。

 

俺はうっかり横川さんを手懐けてしまったようだ・・・。

 

 

―――それから一ヶ月が過ぎて、

横川さんが俺の所に来る回数も少なくなった。

 

教科書や体操服、その他諸々、学校で使う必要な物が

やっと全て揃ったんだとこの間言っていた。

横川さんが・・・じゃなく、横川さんの隣の席に座っている奴が。

 

ちなみに、その横川さんの隣に座っている奴というのは、

俺とは同じ小学校の出身で5年生の時はクラスも一緒だった

絵を描いたり、本を読んだりするのが好きな田中という男。

文科系の奴だし、家もたいして近くないから

学校が終わった後に一緒に遊んだ事もない。

特に仲がいい訳でもないけれど、だからと言って、

悪いわけでもない。

顔を合わせれば話すこともある。

 

・・・で、彼女はどうも家庭の事情で急に転校が決まったらしく、

最初の2,3日も前の学校の制服で来ていたとそいつが言っていた。

 

まぁ、それでも横川さんは一日一回必ず俺のところに来ているが・・・。

 

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