First Kiss −First Love・6−

 

 

―――校外学習から数日が過ぎたある日。

昼休憩、女子共から大量にクッキーを渡された。

4時限目の家庭技術の時に調理実習で作ったみたいだ。

ちなみに男子の方はこの時間、電気や機械系の事を学んだり、

木材加工の技術を学ぶ。

 

琴美も誰かにあげるのかな・・・?

 

ふと、そんな事を思って琴美の方に目を向けると

ちょうど武田が「お、琴美ちゃんが作ったクッキー?」

と、琴美に話しかけていた。

そして「俺にも食べさせて!」と武田が言うと

琴美はにっこり笑って「どうぞ。」と言った。

 

えー、ズルい・・・。

 

俺も琴美のが食べたい・・・。

 

 

結局、琴美のクッキーは武田だけじゃなく、

周りの男子達の胃袋の中にも入っていった。

 

いいなー・・・。

 

 

放課後―――。

部活の後、部室で着替えていると3年生の先輩の一人が

俺が持っている大量のクッキーに気がついた。

 

「これ、何?」

 

「あー、それ、今日うちのクラスの女子が調理実習で作った

 クッキーっす。」

 

「へぇー、貰ったんだ?」

 

「いや・・・貰ったってゆーか強引に渡されたってゆーか・・・」

 

「お、じゃコレ食っていい?腹減った。」

 

「あ、いいっすよ、どうぞ。」

正直、琴美のクッキーなら喜んで食べるところだけど

他の女の子が作ったクッキーなんて食べる気がしなかった俺は

先輩達にも食べてもらうことにした。

 

「俺も味見したい。」

隣で一緒に着替えていた武田がにんまりしながら言った。

 

「うん、いいけど?」

 

つーか、お前はもう琴美の食べたんだし、いらないだろ?

 

と、思ったけどここは素直に“処理係”に加わってもらうことにした。

 

 

「んー、やっぱ琴美ちゃんが作ったのが一番おいしいなぁ。」

武田は全ての袋からクッキーを一つずつ取って食べた後、そう言った。

 

「そうなんだ?」

先輩達同様、腹が減っていた俺は誰のかわからないけどとりあえず

口にクッキーを放り込みながら武田の顔をちらりと見た。

 

「うん、琴美ちゃんのはもっとバターが効いててこんなにベタベタしてなくて

 甘過ぎなかったし、いくらでも食べれるくらいだった。

 てか、こんなのと比べ物にならないかも。」

 

「ふーん・・・。」

 

そんなにおいしかったんだ。

 

 

先輩達にクッキーを“処理”してもらって学校を出ると

少し前を女の子が歩いていた。

うちの学校の制服を着ている。

 

そして、あまり歩くスピードが速くないその女の子に近づくに連れ、

それは琴美だと気がついた。

 

「琴美。」

 

俺の声に反応し、その女の子が振り向いた。

やっぱり琴美だ。

 

「こんな遅くまで部活?」

 

「うん。宗は?」

 

「俺も今、部活終わって帰るトコ。」

俺がそう言うと琴美がちょっと驚いた顔をした。

 

「帰宅部だと思ってた?」

苦笑いしながら琴美の顔を覗き込むと今度は

「ハイ、その通り。」という顔をしていた。

 

わかりやすっ。

 

「何部?」

 

「バスケ。」

俺がそう答えると琴美はまた意外そうな顔で俺を見上げた。

 

「意外?」

 

「うん・・・まぁ。」

 

ぶっ・・・琴美って正直だな。

 

あ、そうだ・・・

 

「そういえば・・・俺もクッキー食べたかったなー。」

ちらりと横目で琴美を見ると「いっぱいもらってたじゃない。」

と、プッと吹き出した。

 

まぁ、それはそうだけどー。

 

「琴美のが食べたかったの。」

 

「あたしのより、みんなから貰ったクッキーの方がおいしいと思うよ?」

 

「武田は琴美の方が全然うまいって言ってたもん。」

俺がそう切り返すと琴美が不思議そうな顔をした。

 

「さっき部活が終わって腹が減ったからバスケ部のみんなで

 もらったクッキー食べたんだ。」

琴美は武田もバスケ部に入った事を知っているはず。

よく一緒に話しているから。

 

「もうクッキー作らないの?」

「うん、次の調理実習はまた別のメニューだし。」

「えー。」

 

まぁ、そりゃそうか。

 

「家で作ったりしないの?」

 

「時々、作ってるけど・・・」

 

「マジッ!?今度いつ作る予定?」

 

「い、いつって・・・」

 

それは是非、食べたいっ!

 

「・・・そ、そんなに・・・食べたい?」

「うん!」

 

当たり前だろっ。

 

「・・・。」

琴美は俺の顔を見つめたまま黙り込んだ。

 

そんなに見つめられるとマジ照れるんだけど・・・。

 

「俺の顔になんかついてる?」

・・・で、照れ隠しに言ったセリフ。

 

「目・・・」

 

「目?」

 

・・・?

 

「カラーコンタクト?」

 

「あ、目の色?」

 

「うん。」

 

「コンタクトじゃないよ。自前。」

そう言って遠足の時みたいに俺がずぃっと顔を近づけると

琴美は少し慌てた。

 

・・・ぷぷっ。

可愛いなぁー。

 

「ほら、コンタクトなんか入れてないでしょ?

 俺、ハーフなんだよ。知らなかった?」

 

「綺麗な色だね。翡翠みたい。」

琴美はまだ少し赤い顔のまま、意外な事を言った。

 

「“エメラルドみたい”とはよく言われるけど、

 翡翠って言われたのは初めてかも。」

 

でも・・・

 

「俺は翡翠の方が好きだから、そう言われて嬉しいけど。」

 

それに・・・琴美に言われたから余計に嬉しい。

 

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