First Kiss −First Love・30−

 

 

「宗が見たスケッチは中学の卒業前に描いたものだよ。」

「・・・今も・・・好きなんだろ・・・?」

「今はなんとも思ってないよ・・・宗と初めて会ったあの日にね

 ・・・フラれたんだ・・・高杉くんに・・・。」

「え・・・3月14日?」

 

あの日に・・・?

 

「うん、そう。」

「でも・・・さっき、アイツ・・・」

「自分からフッておきながら今さら・・・だよね?」

 

“前に俺の事、好きって言ってくれたよね?”

 

さっき高杉がそう言っていたのはそういう事か。

 

「だから、高杉くんとは付き合うつもりなんて全然ないよ。」

 

「そのわりには・・・よく高杉の事見惚れてたりしないか?」

 

「それは見惚れてるんじゃなくて・・・なんていうかー・・・

 高杉くんの姿を見てもなんか中学の時みたいに

 もう全然キュンとこないなーとか思ってたりしてたの。」

 

「・・・ホント?」

 

本当にそうなんだろうか?

 

琴美は俺が顔を覗き込むと、

「ホント・・・てか、宗・・・顔近いっ!」

と、少し焦った様子で俺の顔を手で押し退けた。

 

「大丈夫だよっ!もういきなりキスしないからっ。」

「信じられません。」

「うー・・・。」

「ホント・・・信じらんない。」

「だから・・・ごめんてば・・・。」

「・・・。」

琴美は俯いたまままた黙り込んだ。

 

「琴美・・・?」

 

「・・・彼女がいるのに他の子とキスするのなんて

 信じらんないよ・・・。」

 

「高杉の事・・・?」

 

琴美も高杉のそういう場面を目撃した事があるんだろうか?

 

「宗の事言ってるんだけどっ?」

「は?なんで俺なんだよ?」

琴美の言ってる意味がさっぱりわからない。

 

「そりゃ、高杉くんもそうだろうけど、宗もさっき同じ事したでしょ?」

「誰とっ!?」

「だから、あたしと!」

「な・・・っ!あれは・・・っ。」

「宗も・・・高杉くんと同じじゃない・・・。」

「同じじゃねぇよっ!」

 

何を根拠に?

 

「俺をアイツなんかと一緒にすんなよ!」

「・・・。」

「俺はアイツとは違う。」

「どう違うの・・・?」

「どうって・・・」

 

全然違うっつーのっ!

 

「彼女がいたり、好きな子がいるのに他の女の子と

 キスしてるあたりは一緒でしょ?」

 

「・・・。」

 

琴美・・・何言ってんだ?

 

「宗だって・・・彼女いるんじゃないの?」

 

「いないよ・・・彼女なんて。」

 

俺に“彼女”がいると思い込んでるから

こんな事言ってんのか?

 

「・・・でも、好きな子がいるんでしょ?」

「うん。」

「・・・なら、同じだよ。」

「違う!」

「なんでよ?」

「だから・・・っ!俺が好きなのは・・・」

「・・・聞きたくない。」

琴美はプイッと顔を背けた。

 

「なんで?」

「・・・。」

「いいから聞いて?」

「やだ。」

「聞けって。」

「やだって。」

「もう、いいから黙って聞け!」

ぎゅっと目を閉じて両手で耳を塞ごうとした琴美の腕を

俺は掴んだ。

 

聞いてもらわなくちゃ埒が明かない。

 

「俺が好きなのは・・・琴美だよ。」

 

「え・・・。」

琴美は俺の言葉が信じられないと言った顔で見上げた。

 

「俺・・・初めて琴美と会った時からずっと好きだったんだ。」

 

「うそ・・・。」

 

「ホントだって・・・。」

 

「・・・。」

琴美はそれでもまだ信じられないみたいだ。

 

「いきなりキスしたのは悪かったと思ってる・・・でも・・・

 俺はアイツみたいにゲーム感覚の恋愛はしない。」

 

「あんなにモテるのに?」

 

「そんなの関係ないだろ?」

 

意味わかんねーよ・・・。

 

「焦ってたんだ・・・。

 琴美は高杉の事、好きなんだと思ってたし、高杉も夏の合宿以来、

 琴美を狙ってたみたいだし・・・。」

 

それに昨日、彼女と別れたって高杉自身の口から聞いたし。

 

「そしたら・・・今日、アイツが屋上で琴美に告ってたから・・・。」

「・・・で、いきなりキス・・・なの・・・?」

「・・・ごめん。」

 

やっぱ、いきなりキスはなぁ・・・。

 

「琴美・・・今、好きなヤツいるの?」

 

「・・・いるよ。」

 

「え、・・・誰?」

 

もしかして・・・そいつともう付き合ってたりすんのかな?

 

「言いたくない?」

 

「そういうワケじゃ・・・。」

 

「じゃ、誰?」

 

「・・・。」

琴美は黙ったまま俯いた。

 

「武田?」

「違うよ。」

「田中?」

「なんで田中くんが出てくるの?」

「昨日、一緒に校内廻ってたから。」

「あ、あれは・・・二人とも暇だったから・・・。」

「じゃあ・・・誰なんだよ?」

 

やっぱ、言いたくないのかな?

 

「・・・う。」

少しの沈黙の後、琴美が俯いたまま言った。

だけど、声が小さくて聞き取れなかった。

 

「え?・・・誰?聞こえなかった。」

 

すると、琴美は少し深呼吸をした。

 

「・・・宗。」

 

・・・へ?

 

「お、俺・・・?」

 

琴美は顔を赤くしてコクンと小さく頷いた。

 

「マジで?」

信じられなくてもう一度聞いた。

すると、今度はさっきよりも大きく頷いた。

 

「なんだよ、それー。」

琴美を抱きしめると体の力が一気に抜けた。

俺の全体重が琴美の体に圧し掛かった。

 

「ちょ・・・重・・・っ!」

 

「・・・おっと。」

琴美が倒れる寸前のところで俺は体を支えた。

 

あぶない、あぶない。

 

「・・・俺達、実は両想いだった・・・?」

「そう、みたい。」

「えー、じゃ、なんでさっきビンタなんかしたんだよー?」

 

それって・・・殴られ損?

 

「だ、だって・・・宗がいきなりキスするから・・・っ!それに・・・」

「それに?」

「・・・初めてだったんだもん・・・。」

俺が顔を覗き込むと琴美は顔を真っ赤にして答えた。

 

「へ?」

 

初めて?

 

???

 

何が?

 

「ファーストキスだったのっ。」

「マジで?」

「・・・だから、あんな風にいきなりされたから・・・。」

「ご、ごめん・・・。」

 

初めてがアレじゃな・・・。

 

「じゃあ、やり直す。」

「何を・・・?」

「ファーストキス。」

「え?ちょ、ちょっと待った!」

ファーストキスをやり直そうと琴美に顔を近づけると

いきなり“待て”と言われた。

 

「えー!なんだよー?このタイミングで“待った”?」

「こ、心の準備が・・・まだ・・・その・・・。」

「じゃ、何秒待てばいい?」

「な、何秒って、そんな・・・」

 

「・・・なら、しばらくこうしてる。」

俺はもう一度琴美をぎゅっと抱きしめた。

 

ホント言うと、琴美が“待て”と言ってくれて助かった。

俺も心の準備がまだできていなかったから。

 

やべぇ・・・心臓バクバク言ってる・・・。

 

 

部室の中は時計の秒針の音だけが静かに響いていた。

そして、ようやく俺の心臓も落ち着き始めた頃、

そろそろいいかな?と思って体を離した。

 

琴美の澄んだ黒い瞳に吸い込まれるように顔を近づけると、

琴美がゆっくりと目を閉じた。

 

かわいい・・・。

 

緊張で少し手が震えた。

正確に言うと俺はファーストキスではないけれど

好きになった女の子とすると言う意味ではファーストキスだ。

 

俺は目を閉じて琴美の唇にそっとキスをした・・・。

 

 

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