First Kiss −First Love・29−

 

 

「何すんのよっ!」

腕を掴んでいた力を弱くした瞬間、

その言葉と同時に俺は平手打ちを喰らった。

 

「いてっ!」

「宗のバカッ!」

琴美は俺の腕を振り切り、走り出した。

 

「琴美っ!」

俺はすぐに追いかけようとした。

 

でも、できなかった。

 

琴美が泣いていたから・・・。

 

「・・・。」

 

やっちまった・・・。

 

「ハァー・・・。」

思わず溜め息が出た。

 

琴美を泣かせてしまった・・・。

 

高杉に琴美を取られたくなくてつい衝動的にやってしまった。

 

あー・・・俺って・・・ほんっとバカ!

 

頭を抱えてしゃがみこんで見るけれど、

時間は巻き戻せるはずもなく・・・

ただただ落ち込むばかり。

 

 

―――模擬店に戻ると高杉が榎本さんに捕まっていた。

さっきは榎本さんが捜してるって言ったら面倒臭そうに

返事をしていたのに満更でもなさそうだ。

まぁ、高杉の周りにいるのは榎本さんだけじゃないけど。

 

コイツ・・・本当に琴美の事、好きなのか?

 

 

それから間もなくして模擬店は終わった―――。

 

装飾部隊が中心になってクラス全員で後片付けをする中、

「平野さんは?サボり?」

と、榎本さんが言い出した。

 

“サボり”って、琴美に店番押し付けて

コンテスト見に行ったヤツがよく言うよ。

 

「平野さんなら美術部の方に行ったよ。」

いつもなら藤村さんが答えるところを高杉が答えた。

 

「装飾班中心で後片付けやるはずなのに?」

すると榎本さんはその事が気に入らないのか、

おもしろくなさそうな顔をした。

琴美の行動も一々気に入らないみたいだ。

 

まぁ、今日は特にコンテストで琴美と高杉が

しっかり手を繋いでいたところを見てるしな。

 

「じゃあ、自分はどうなんだよ?

 平野さんに店番押し付けてコンテスト見に行ってたんだろ?」

榎本さんがむっとした表情をしていると

店番部隊のリーダーの菊池が少し怒ったような口調で言った。

 

「平野さんもコンテスト出るの知ってたはずだろ?

 それなのに好意で店番引き受けてくれたのをいい事に

 自分はそのまま遊びに行ったんだから、後片付けくらい

 平野さんの分までやってもらわないとな。」

菊池は手を動かしながら冷たく言い放った。

 

クラスの中はシーンとなり、それでも菊池の言っている事が

正論だからだろう、誰も榎本さんを擁護する奴なんていない。

榎本さんは仕方なく黙って片付けを手伝い始めた。

 

 

そして、全部片付け終わった後も俺はしばらく教室で待っていた。

けれど、琴美は戻って来なかった―――。

 

 

ほとんどのクラスメイトが帰り、高杉も高杉派の女子も帰り支度を始めた。

 

もしかして教室には戻らずにもう帰ってしまったんだろうか?

 

そう思った俺は昇降口に行き、琴美の下駄箱を見てみた。

すると、通学用の靴があった。

 

まだ美術室にいるのかな?

 

俺はどうしてもさっきの事を琴美に謝りたかった。

 

 

「先輩。」

美術室に向かっていると姉川先輩と水本先輩が

前から歩いてくるのが見えた。

俺は先輩達に琴美の事を聞こうと声を掛けた。

 

「琴美、見ませんでした?」

 

「まだ部室にいるぞ。もう琴美ちゃんしか残ってないはずだから

 行ってみろよ。」

姉川先輩はそう言うと「じゃな。」と軽く手を挙げ、

水本先輩もバイバイと手を振ってくれた。

 

琴美・・・まだ怒ってるだろうなぁ・・・。

 

美術部の部室の前で立ち止まり、

軽く深呼吸をしてドアをノックした。

 

だけど、中からは何も反応がない。

 

あれ?

いないのかな?

 

ドアノブに手を掛けてそっとドアを開けてみた。

すると、窓際に立って外を眺めている琴美がいた。

 

なんだ・・・いるんじゃん。

 

琴美はボーッとしていた。

だから、ノックの音にも気がつかなかったのかもしれない。

 

そして・・・

 

琴美の視線の先には高杉の姿があった。

 

「また高杉の事見てんのかよ・・・。」

琴美は俺が後ろにいるとは思っていなかったらしい、

驚いた表情で振り返った。

 

「姉川先輩がまだ部室に琴美がいるって言うから来て見たら・・・」

 

なんでまた高杉の事見てんだよ・・・。

 

「別に高杉くんを見てたワケじゃないけど?」

「でも今、高杉を見てただろ?」

「そんな事よりなんの用?」

琴美はさっきの事をまだ怒っているらしく、

ムッとしている。

 

「わざわざこんなトコまで来るくらいなんだから、

 なんか言いたい事でもあるんじゃないの?」

 

「・・・さっきは、そのー・・・ごめん・・・。」

俺はとりあえず謝った。

すぐに許してもらえるとは思っていない。

と、いうかもしかしたら許してくれないかもしれない。

 

「悪かったよ・・・いきなりキスなんかして・・・。」

 

琴美はまだ俺と目を合わそうとしない。

 

「琴美は・・・やっぱり高杉の事が好きなのか?」

「・・・だから・・・宗には関係ないってば・・・。」

「いいから、ちゃんと答えろよ。」

琴美が高杉の事を好きでも、さっきの事で俺が嫌いなったとしても

ちゃんと琴美自身の口からはっきり聞きたかった。

 

「・・・好きじゃないよ。」

 

嘘ついてるのかな?

 

「ホントに?」

俺は琴美の顔を覗き込んだ。

 

「ホント。」

 

「・・・じゃあ、あのスケッチブックに描いてあったの誰?」

 

あれはどう見たって高杉だろ?

 

「・・・。」

だって、その証拠にまた黙り込んだ。

 

「やっぱり高杉なんだろ?」

俺がそう聞くと琴美はコクンと頷いた。

 

やっぱり・・・

 

「確かに高杉くんの事は好きだったよ。」

琴美は軽く息を吐き出して話し始めた。

 

「やっぱ、そうなんじゃん・・・。」

「中学の時、3年間ずっと・・・。」

 

3年間も・・・?

 

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