First Kiss −First Love・17−

 

 

9月に入って新学期、始業式の翌日―――。

5時限目の体育の時間。

 

俺達のクラスvs隣の1年2組で男子と女子に別れて

それぞれソフトボールの試合をやっていた。

 

俺は試合の最中もチラチラと琴美の方を見ていた。

 

試合に出たくないのかずっと座ったままだ。

そして、女子共が男子の試合ばかりに気を取られている中、

琴美はずっと女子の試合だけを見ている。

・・・というより、ただ目に入っているだけ。

そんな感じだった。

 

だから、「琴美、あぶないっ!」と叫ぶように言った藤村さんの声にも

やや鈍い反応しかしなかった。

 

ガコーン―――ッ!

 

隣のクラス・2組の山本が打った球が見事に琴美のおでこに直撃した。

 

「琴美っ!」

藤村さんが琴美に駆け寄り、俺もすぐに琴美に駆け寄った。

打球は額に当たっただけじゃなく、眼鏡にも当たったらしい。

レンズが割れて頬や目の下から少しだけだけど血が流れていた。

 

「琴美!・・・琴美っ!」

地面に崩れ落ちた琴美は何度呼んでもまったく反応しない。

 

「とりあえず、保健室連れて行く。」

何度も何度も藤村さんが名前を呼び続ける中、

俺は琴美を抱きかかえた。

 

琴美は俺の腕の中でぐったりとしていた。

ぴくりとも動かない。

 

大丈夫かな?

 

 

「・・・脳震盪ね。じきに意識が戻ると思うわ。

 幸い眼鏡のレンズも目の中にも入っていないし、

 顔の傷も掠り傷程度だから、大丈夫よ。」

琴美を保健室に連れて行き、先生に診てもらうと

たいした事じゃなかったのか落ち着いた様子で

俺と藤村さんに安心するように言った。

 

・・・よかった・・・。

 

 

5時限目が終わり、とりあえず俺は体操服から制服に着替えるために

男子更衣室へ向かった。

 

着替え終わった後、琴美の様子を見に行こうと保健室に向かっていると

男子バスケ部の顧問・岡嶋先生に捕まった。

「おぅっ、二ノ宮ちょうどいいところで会った。」

 

げー、俺は全然ちょうどよくねぇけど?

 

それでも、一応無視するワケにもいかず、

とりあえず適当に相槌を打ちながら話を聞いた。

そのおかげですっかり保健室へ行くタイミングを外し、

6時限目が始まる予鈴が鳴ってようやく解放され、

俺は仕方なく教室へ戻った。

 

すると、琴美はすでに教室に戻ってきていた。

でも、眼鏡はしていない。

割れちゃったんだから当たり前だけど。

 

「なぁ、平野さんて眼鏡外すと可愛くねぇ?」

「うんうん。今まで全然気がつかなかったけど、

 実は可愛かったんだなー。」

「正直、その辺の女子よりイケるかも。」

「だなー。」

 

そんな声がどこからともなく聞こえてきた。

 

つーか、おまえら今頃気がついたのかよー。

 

 

―――放課後。

HRが終わった後、琴美の姿を目で追いながら

大丈夫かな?・・・と、心配していると、

またしても邪魔が入った。

今度はクラスの女子共。

俺が琴美を保健室にに連れて行った事で

なんだかんだと聞いてきた。

 

まったく、一々うるさいなー。

 

そう思いながら再び琴美の席に視線をやると

すでに琴美の姿はなく、藤村さんも武田の姿もなかった。

 

「ごめんっ、そろそろ部活行かねぇと。」

俺は急いで帰り支度を済ませて教室を出た。

 

琴美、もう帰ったのかな?

 

さすがに今日は部活も休むだろうと思い、

昇降口に向かっていると、2階の踊り場で琴美を発見した。

 

いた・・・っ。

 

琴美は階段の手摺に捕まりながらゆっくりと歩いていた。

 

・・・?

なんでこんなにゆっくり歩いてんだ?

 

不思議に思いながら近づいていくと、1階に下りようとして

足を前に出した琴美が階段を踏み外した。

 

危ない・・・っ!

 

俺は咄嗟に後ろから琴美の体を支えた。

琴美はギュッと目を瞑った後、

ゆっくりと目を開けて俺の方に振り返った。

「大丈夫か?」

琴美の顔を覗き込むと驚いた顔で俺を見上げた。

 

「琴美?」

俺が名前を呼ぶと、琴美はさらに驚いた顔で

じっと俺の顔を見つめ返したかと思うとそのまましばらくじっとしていた。

 

・・・?

 

この状況は・・・

 

見惚れてるとかそういうんじゃない・・・よなぁ?

 

「琴美?」

 

「どうして・・・あたしの名前を知っているの?」

俺がもう一度琴美の名前を呼ぶと、琴美は不思議そうな顔で言った。

 

「え・・・?琴美・・・俺がわからないのか・・・?」

 

まさか・・・あの打球が当たった所為で・・・。

 

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