First Kiss −First Love・10−

 

 

―――体育祭が終わった数日後。

部活が終わって、疲れた足を引きずりながら

正門に向かって歩いていると目の前を琴美が歩いていた。

 

お・・・っ!?

 

「琴美。」

声を掛けると俺の声に振り返った琴美は小さく笑った。

 

ラッキー。

琴美と一緒に帰れる。

 

琴美とは部活が終わる時間が同じくらいなのか

ちょいちょい一緒に帰るようになっていた。

そして、同じ駅で降りるから一緒になった時は

いつも自然と並んで帰っている。

 

 

「琴美って、誕生日いつ?」

駅のホームで電車を待っている時、

ふと、琴美の誕生日が気になった俺は

さり気なく聞いてみた。

 

「3月14日。」

 

俺はその日付に少し驚いた。

 

その日は・・・

 

俺と琴美が出会った日だ・・・。

 

「お。ホワイト・デーの日かー。

 いいな、俺なんか普通になんにもない日。」

 

「ホワイト・デーだからって、なんにもいい事ないよ。」

 

「なんで?“愛の告白”と“おめでとう”がいっぺんに聞けるじゃん。」

 

「“愛の告白”どころか“失恋記念日”になる可能性もあるでしょ?」

 

「琴美は失恋した事なんてないだろ?」

 

「・・・ある。」

「またまた。」

「ホント。」

「だから髪切ったのか?」

俺がそう言うと琴美は言葉を詰まらせた。

 

え・・・図星・・・?

 

マズい事、言ったかな?なんて思っていると

「宗・・・なんで、あたしが髪長かったの知ってるの?」

琴美が不思議そうな顔で言った。

 

えー。

 

「やっぱ、憶えてなかったんだ?」

 

なんだ・・・。

ちょっとがっかり・・・。

 

「あの時・・・雑貨屋の前で雨宿りしててさ・・・

 琴美、俺にストラップくれたの憶えてない?」

 

琴美は途中でホームに電車が入ってきた所為か、

俺の言葉が聞き取れなかったみたいだ。

眉間に皺を寄せて首を傾げている。

 

電車のドアが開いて何人かの乗客が降りると

ドア付近に立っていた中学生が琴美に向かって呼びかけた。

「姉ちゃん。」

 

姉ちゃん・・・?

 

「誠。」

 

「姉ちゃん、友達?」

“誠”と琴美に呼ばれた男の子は琴美と一緒に乗って来た俺をちらりと見た。

夕方、帰宅ラッシュとまで行かないけれど結構な混み具合だ。

だから俺は琴美が押し潰されないようにガードするべく、琴美の真横に立った。

 

「うん、同じクラスの二ノ宮宗くん。」

 

「ふーん。」

 

「宗、弟の誠。」

琴美はその男の子の事を弟だと俺に紹介してくれた。

 

 

「今日の試合どうだった?」

 

「・・・負けた。」

 

「そっか・・・。」

 

「俺のシュートが全然決まらなくってさ。

 練習だとめちゃめちゃ調子良かったのに・・・。」

弟の誠くんは運動系の部活に入っているらしい。

今日はその試合で負けた所為かちょっとヘコんでいるみたいだった。

 

「そんな日もあるよ。」

琴美はそういう所はやっぱり“お姉さん”なのか

試合に負けた弟を慰めるように優しい口調で言った。

 

「俺って本番に弱いのかな・・・?」

 

「いつも練習通りに上手くいってれば天才だよ。」

 

「まぁ・・・そーだけど。」

 

そして、琴美は何かを思い出したように俺に顔を向けた。

「宗もそういう時、ある?」

 

「ん?練習通りにいかない事?」

 

「うん。」

 

「そりゃ、あるよ。俺もいつもそうだし。」

 

「ほら、誠。バスケの先輩もそう言ってるよ?」

 

「シュウさんもバスケやってるの?」

 

「うん。」

どうやら誠くんもバスケをやっているらしく、

その後の会話はもっぱらバスケの事だった。

 

「シュウさんはいつからバスケやってるの?」

「やっぱ中学と高校じゃ練習の仕方とか全然違う?」

「家でできる練習方法って何があるかな?」

「シュウさんてポジションどこ?」

 

・・・その他もろもろ・・・

 

結局、駅に着くまでの間、ずっとそんな感じで質問攻めに遭った。

 

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