First Kiss −First Love・9−

 

 

結局、琴美はその後俺が高杉の事を聞いても

「なんでもない。」としか答えなかった。

 

ホントかな?

 

ちょっと引っかかるけど琴美とは別に付き合ってるワケでもないし、

それ以上聞くと琴美を怒らせそうだし、

嫌われたくないからやめた。

 

 

琴美と一緒に二人三脚のスタート位置に行くと

「これで足首を固定して準備してください。」

と、鉢巻を渡された。

俺は自分の左足首と琴美の右足首に鉢巻を巻きつけた。

琴美はなんだか周りを気にしている。

騒いでいる女子共の視線が気になるみたいだ。

 

きっと琴美の事だから、ゴールしたらすぐに足首の鉢巻を解くだろう。

そう思った俺は琴美が簡単に解くことができないように

キュッと結び目を固くした。

そしてそのおかげで自ずと二人の体は密着する。

俺は琴美の肩に手を回し、琴美は少し遠慮がちに俺の腰に手を回した。

 

うきゃきゃっ。

体育祭サイコーッ!

二人三脚バンザイッ!

 

「琴美ちゃん、二ノ宮がんばって!」

俺達の後に走る堀口が声援を送ってくれた。

 

「おぅっ!」

その声援に応えながら堀口の隣にいる南さんをちらりと見ると

なんだか不機嫌そうな顔をしていた。

しかも琴美を恨めしそうに見ている。

 

そんなに睨まなくても・・・。

 

 

スタートピストルが鳴って、俺と琴美は息を合わせ、

一緒に走り出した。

琴美とは3日前からバッチリ練習していたから息もぴったりだ。

俺は琴美の歩幅とスピードに合わせて走った。

 

琴美はほぼ無理矢理俺に指名されたにも拘らず、

一生懸命走っている。

“運動神経が皆無に等しい”・・・琴美はそう言っていたけど

確かにそうかもしれない。

普通の女の子が走るより遅いから。

それは練習の時からわかってた事。

でも、琴美はいつも一生懸命だった。

運動神経が皆無でもいつも一生懸命。

現に今も思いっきり真剣な顔で走っている。

だから、俺も一生懸命、琴美に合わせて走った。

そのおかげで俺と琴美のペアは一位でゴールテープを切った。

 

「だから言ったろ?愛の力。」

俺がそう言うと琴美はゼーゼーと肩で息をしながら

俺を見上げた。

どうやら息が切れててしゃべれないらしい。

 

まったく・・・可愛いな。

 

そんな琴美の表情が可愛くて思わず吹き出した。

 

「大丈夫?」

俺が琴美の顔を覗き込むと琴美は何かを思い立ったように

しゃがみこんで足首を固定してある鉢巻の結び目に手を掛けた。

 

あー、やっぱ思ったとおり・・・

もう解こうとしてる。

でも、琴美に解けるかなー?

 

案の定、琴美はなかなか解くことができない。

そして、諦めて俺の顔を見上げて

「解けない・・・。」

と言った。

 

それはそうだろー?

だって、そう簡単に解けないようにしてんだから。

 

「解いて。」

 

ヤダ。

 

「いいじゃん、まだこのままで。」

「解いて。」

「俺、疲れたから動きたくねー。」

 

全然疲れてないけどー。

 

「解け。」

「ヤダ。」

「いいから解け。」

「もう少し休んでから。」

「足痛い。」

「俺は平気。」

 

だって、せっかく琴美とこうやって密着できたのに

もったいない。

 

てな事を暢気に思っていたら、琴美が涙目になった。

「・・・痛い・・・。」

 

え・・・。

 

「琴美っ!?」

 

「・・・お願い・・・解いて・・・?」

そして涙を目にいっぱい溜めて俺を見上げた。

 

やべーっ。

本気で痛かったんだ。

 

「ごめんっ、そんなに痛かったとは思わなかったから・・・。」

 

確かにあんだけ鉢巻をぐるぐる巻いてきつく結んでたら痛いよな。

 

俺はすぐに結び目を解いて琴美の足を自由にした。

 

「琴美、足大丈夫か?」

 

琴美の足首・・・痣とか出来てたらどうしよう・・・。

 

だけど・・・

そんな俺の心配を他所に次の瞬間、

琴美は満面の笑みで「宗、ありがとっ。」

と、俺に言った。

 

はぁ・・・っ!?

なんだよ、それ?

 

「・・・おまえ・・・」

「だって、こうでもしないと解いてくれなさそうだったんだもん。」

絶句した俺に琴美はしれっとした顔で言った。

 

「騙された・・・。」

「まぁ、お互い様ってコトで。」

「ひでぇー・・・。」

「あ、次堀口くんと南さんが走るよ。」

「そんなのどうでもいい。」

「なんで?さっきあたし達が走る時も堀口くん、応援してくれたのに。」

「・・・。」

 

まぢか・・・。

 

「宗・・・?」

 

琴美も案外やるな・・・。

 

「宗ってば。」

 

でも・・・おもしろい。

 

「ごめん・・・。」

 

だって、ほら。

俺が怒ったと思ったのか、もう謝ってきてるし。

 

「宗。」

 

まったく・・・おもしれぇー。

 

「宗・・・。」

 

「琴美おもしれぇー。」

 

「・・・。」

琴美が唖然とした顔をした。

 

「本気で怒ったかと思った?」

 

「・・・うん。」

 

「あんな事されたくらいじゃ怒んないよ。」

 

ホント、可愛いなぁ。

 

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