First Kiss −29−

 

 

一週間後、11月の初め―――。

毎年2日間の日程で学園祭が行われる。

 

―――1日目。

あたし達、装飾部隊はお昼の12時から1時までの一時間、

店番部隊のお昼休憩の間だけ店番をお手伝いする事になった。

だけどこれがまた結構忙しい。

だって宗と高杉くんのダブルイケメンコンビがいるから、

女の子達がわらわらと入ってくる。

そして、駄菓子をゆるゆると選んでるもんだから

店内はものすごいごった返し。

なんだか空気が薄くなって来ているし、高山病にでもなりそうだ・・・。

 

息苦しっ!

 

あたしの隣にいるメグちゃんもげんなりした顔をしている。

 

そして、そろそろ限界だな・・・と思っていると、

ちょうど1時になり、店番部隊が休憩を終えて模擬店の裏側から出てきた。

 

「うわー、すごいな・・・。」

裏側から出てきて開口一番、店番部隊が

集まった女の子の数に驚きながら言った。

 

「さすが、高杉と二ノ宮がいると集客力が全然違うな。」

苦笑しながらダブルイケメンコンビをしばし眺め、

「平野さん、藤村さん、ありがとう助かったよ。」

と、菊池くんが交代に来てくれた。

 

「もういいの?」

「うん、だって約束の1時だし。」

「お客さんいっぱいいるからもう少し手伝おうか?」

「でも、この後藤村さんと模擬店廻るんでしょ?」

「メグちゃんは行くけど、あたしは特に誰かと行く予定はないよ。」

「そうなの?・・・んー、じゃ、お言葉に甘えてもう少しだけいてもらおうかな。」

「うん。」

メグちゃんはこの後はトーゼン、西山くんとデート。

特に予定のないあたしはもう少しだけお手伝いすることにした。

 

「じゃ、あたしももう少し手伝うよ。」

その会話を隣で聞いていたメグちゃんも残ると言い出した。

 

「メグちゃんはいいよ。西山くんも待ってるし。」

「でもー・・・」

「大丈夫だよ、平野さんには念の為もう少しだけ残ってもらうだけだから。」

菊池くんはそう言うと渋るメグちゃんにニッと笑った。

 

「うん・・・わかった。」

メグちゃんは納得するとじゃあねと言って、西山くんのところへと行った。

 

宗と高杉くんも店番を交代して模擬店の裏側へと行ったようだ。

その途端、女の子達は一斉にレジの方に来た。

早く会計を済ませて宗達と一緒に校内廻りをしたいみたいだ。

 

レジにはあたしと菊池くんの二人。

それでもギリギリなんとか対応できている状況。

 

こりゃ、菊池くんだけじゃ大変だったわ・・・

残っててよかったかも。

 

 

しばらくして、ようやくほとんどの女の子達がいなくなった。

「高杉と二ノ宮が店番からいなくなった途端、お客が減り始めたね。」

ダブルイケメンコンビの後を追うように次々と店を後にする女の子達を見て

菊池くんは苦笑いをした。

 

「これくらいなら、もう一人で大丈夫。」

「そぉ?」

「うん、ホント助かったよ、ありがとう。」

「いえいえ・・・それじゃあ、頑張ってね。」

あたしは菊池くんに手を振って模擬店の裏側へと行った。

 

さて・・・あたしもお昼ご飯食べよっと。

けど、ここだと人の出入りが激しいから落ち着いて食べれなさそうだなー。

美術部の部室に行こうかな。

あそこだと静かだし、誰かいるかもしれない。

ご飯を食べた後は美術室でやっている美術部の展示会を見に行こうかな。

 

・・・と、いうワケであたしは美術部の部室に向かう事にした。

 

 

誰もいないかもしれないけど、とりあえず部室のドアをノック。

 

・・・コンコン。

 

「はい、どうぞ。」

すると、中から男子の声が聞こえた。

 

誰かな?

 

そう思ってドアを開けると、あたしと同じ一年生の田中くんがお弁当を食べていた。

 

「あれ?田中くんもここでお昼ごはん?」

「・・・“も”って事は平野さんも?」

「うん、模擬店の裏側だとなんか落ち着かないから。」

「あはは、一緒だ。」

 

 

田中くんと雑談しながら一緒にお弁当を食べた後は、

部室の窓からしばらく人間ウォッチング。

要するに二人とも暇人。

 

「あ、姉川先輩と水本先輩だ。」

田中くんが美術部の美男美女カップルを見つけた。

 

「ん?どこ、どこ?」

「ほら、あそこ第一体育館の横歩いてる。」

「あ、ホントだー。相変わらず絵になる二人だね。」

「うんうん。」

そんな会話をしていると、その美男美女カップルの横を

猛スピードで駆け抜ける人物がいた。

 

・・・ん?

 

宗?

 

宗の後ろからは女の子がずらずらずらり。

 

また逃げてんだ・・・。

 

あたしはその姿が少し可笑しくてププッと吹き出した。

 

「どうしたの?」

あたしが笑っている横で田中くんが不思議そうな顔をしていた。

 

「ん?クラスメイトの男子が逃げてた。」

あたしがクスクス笑いながらそう言うと、

「あー、二ノ宮だろ?」

と、田中くんも見ていたのかククッと笑った。

 

「あいつ、相変わらず逃げてんだな。」

 

相変わらず?

 

「田中くん、宗の事知ってるの?」

「うん、あいつとは同じ中学だったんだよ。」

「へぇー。」

「だけどさ・・・不思議なんだよねー。」

田中くんはあたしの顔を覗き込んだ。

 

「何が?」

 

「二ノ宮ってさ、女の子の名前は絶対苗字で呼んでるのに、

 平野さんだけ下の名前で呼び捨てにしてるでしょ?」

 

「あー・・・」

 

そういえば・・・そうかも?

 

「それに自分の名前も下の名前で呼び捨てにさせないし、

 “ソウ”って呼ばれてても訂正しないくせに

 平野さんだけには“宗”ってちゃんと呼ばせてるしね?」

 

「う、うん・・・。」

確かに宗の事を“宗(シュウ)”と呼んでいる女の子はあたししかいない。

 

「なんでだろうね?」

田中くんはにやっと笑った。

 

な、何・・・?

この怪しげな笑みは・・・。

 

「なんでって・・・あたしに聞かれても・・・。」

こっちが教えて欲しいくらいなんだけど。

 

田中くんの質問に答えられないままでいると、

「ところで美術部の展示会は覗いてみた?」

と、田中くんはもう次の話題へと行っていた。

 

「あ、ううん、まだだけど。」

 

「じゃ、俺もまだだから一緒に見ようよ。」

 

「うん。」

あたしと田中くんは部室を出て、隣の隣・・・美術室に向かった。

 

 

その後、あたしと田中くんの“暇人コンビ”は一緒に模擬店巡りをした。

 

途中、姉川先輩と水本先輩のカップルに遭遇したり、

メグちゃんと西山くんのカップルにも遭遇した。

もちろん、高杉くんと彼女にも。

 

そして・・・宗にも・・・。

 

宗は特定の誰かと二人きりではなくて、逃げ切れなかったのか

再び捕まったのか、女子をたくさん引き連れていた。

 

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