First Kiss −30−

 

 

―――学園祭2日目。

今日はあの『校内コンテスト』がある。

ちょっと気が重い・・・。

 

コンテストは多目的ホールで午後2時から。

一時間前の1時には多目的ホールの控室に集合しなければいけない。

 

昼食を済ませた後、模擬店の裏側でボーッとしていると

榎本さんから店番を頼まれた。

お昼ごはんを食べてくる間だけお願いと拝み倒されて

1時には帰って来ると言ったからとりあえず引き受けたけど・・・

・・・すでに1時15分。

 

一向に帰って来る気配がまるでありませんが・・・?

 

まぁ・・・いいか。

帰って来なかったら来ないでコンテストに出なくて済む。

一応“交代の人が来ませんでした。”と言えば正当な理由にはなる、

・・・だろう。

 

1時20分。

宗と高杉くんが慌てた様子で模擬店に入って来た。

「琴美、何やってんだよ!?」

「集合時間とっくに過ぎてるよ?」

二人とも走ってきたのか少し息を切らせながら口を開いた。

 

「・・・何って・・・店番。」

「なんで、そんなのやってんだよ?」

宗が少し呆れた口調で言った。

 

「なんでって・・・榎本さんにお昼ごはん食べてくる間だけお願いって頼まれたから。」

「はぁ?榎本さんなら多目的ホールの最前列の席に陣取ってたぞ?」

高杉くんも呆れた口調で言った。

 

「あー、そーなんだ。」

 

やっぱりな。

 

そんな気はしないでもなかった。

なんせ大好きな高杉くんが出るコンテストに“あの”榎本さんが

おとなしく店番やってるとは思えないもんね。

 

「“あー、そーなんだ。”・・・て、何暢気なコト言ってんだよ。」

「そーだよ、急いで行かないとコンテスト間に合わないぞ?」

宗と高杉くんはまったく動く気配のないあたしを急かした。

 

「“水着で校内一周”したい?」

あたしは突然聞こえた声にちょっと驚き、声がした方に振り向いた。

 

げげっ。

姉川先輩だ。

 

「店番の時間は各自で調整しろって言ったよな?」

 

う・・・。

 

「で、でも・・・交代の人来ないみたいですしー・・・。」

「じゃ、おまえの交代を捜せばいいだろ?」

「えー、みんなコンテスト見に行ってていませんよー?」

「じゃ、“水着で校内一周”決定。」

 

そ、そんな・・・。

 

「平野さん、店番なら大丈夫だよ?」

困っているあたしに助け舟(?)を出してくれたのは菊池くんだった。

 

「元々、この時間帯はほとんどコンテストの方にお客が集中するだろうから、

 一人くらい減らそうかって言ってたんだけど、一応念の為そのままの人数で

 店番する事になってただけだから、平野さんが抜けても大丈夫だよ。」

 

「そ、そーなの?」

 

「うん、それにそもそも任されてる店番を人に押し付けて

 遊びに行く榎本さんが悪いんだから。」

 

「そそ、菊池の言う通り。」

宗と高杉くんも、うんうんと頷いている。

 

「だから、気にしないでコンテスト行っておいで。」

菊池くんはそう言ってにっこり笑った。

 

「う、うん・・・。」

ここまで言われたんじゃ行かないワケにもいかないよね?

 

「・・・じゃ、行ってくる。」

あたしは宗と高杉くん、姉川先輩と一緒に多目的ホールにダッシュした。

 

 

控室に入ると水本先輩と秋川先輩がすでにメイク道具を片手に

あたしを待ち構えていた。

 

ひぇぇぇっっ!?

 

「あー、やっと来た!」

その言葉と同時にあたしは二人に囲まれ、

着せ替え人形のごとくいじくり回された。

 

メイクはもちろんの事、どうやらウィッグをつけられたあたしは、

中学の頃と同じ様に長い髪になっていた。

そして、眼鏡を外された。

 

「きゃーっ!琴美ちゃん、思った通りすっごく可愛い!」

「大成功!」

水本先輩と秋川先輩がパチパチと手を叩いて喜んでいる声が聞こえる・・・

でも、眼鏡がないおかげで何も見えない。

 

「出場者の皆さん、そろそろステージに出てくださーい!」

コンテストを取り仕切っている学園祭実行委員の誰か声が聞こえたけど・・・

このままじゃ歩けない。

 

どうしよう・・・。

 

眼鏡どこに置いてあるかわかんないし・・・。

 

そう思っていると、誰かがあたしの手を取った。

 

「手、繋いでたら歩けるだろ?」

 

宗の声。

 

「宗・・・?」

わかっているけど一応聞いてみる。

 

「うん。」

 

よかった・・・宗だ。

 

「琴美ちゃん、もしかして眼鏡なしじゃ歩けないの?」

少し前の方で水本先輩の声がした。

 

「それじゃ、ランウェイ歩けなくない?」

秋川先輩の心配そうな声も聞こえてきた。

 

アピールタイムには特別にセットで組まれた20m程のランウェイを歩く。

眼鏡なしで歩けば多分・・・落ちる。

 

「それなら、高杉と二ノ宮が琴美ちゃんの手を引いて三人でランウェイ歩けば?」

すると、姉川先輩がビミョーな提案を出した。

 

高杉くんもー?

 

「同じクラスの三人組ってコトなら全然不自然じゃないだろ?」

 

「あ、はい・・・。」

 

確かに・・・あたしと宗だけじゃちょっと不自然かも。

別に付き合ってるワケじゃないしね。

 

 

―――午後2時。

コンテスト開催時刻。

 

まずは1年生の男子と女子が交互に登場。

ランウェイを歩いてポージング。

これがまた結構恥ずかしかったりする。

 

あたしは姉川先輩の提案通り左手を高杉くん、右手を宗に引かれ、

三人でランウェイを歩いた。

眼鏡をかけてても一人じゃ恥ずかしくて歩けなかったかもしれない・・・

それを思うと二人がいてくれて正解だったかも?

 

1年生の次は2年生。

秋川先輩は去年も出場したらしく、すでにファンもたくさんいたりする。

でも特定の彼氏はいないとか・・・なんでだろう?

 

そして最後は3年生。

しかもトリは姉川先輩と水本先輩の美男美女カップル。

3年連続出場の二人。

そりゃあね・・・。

 

校内でも有名な二人は手を繋いでランウェイを歩いた。

ものすごい歓声。

優勝はやっぱこの二人じゃないかな?

 

 

投票の結果がでるまではブラスバンド部による演奏会。

あたし達はその間、控室で雑談タイム。

 

「平野さん、なんか中学の時に戻ったみたいだね。」

高杉くんは長い髪だった頃のあたしを知っている。

 

「琴美が髪長かったの高杉知ってんの?」

宗が不思議そうな顔で言った。

 

「うん、平野さんと同じ中学だったし。」

「ふーん・・・そーなんだ。」

宗はあたしと高杉くんが同じ中学だったのを初めて知ったみたいだった。

 

 

そして・・・

 

結果発表―――。

 

まずは男子の3位から。

「第三位・・・、高杉和也くん!」

司会役の男子生徒が高杉くんの名前を呼ぶと大きな歓声が沸き起こった。

 

おぉぉ・・・さすがチャラ男一号。

全校で三位かぁ・・・。

すごいね。

榎本さんが最前列でキャー、キャー言ってる姿が目に浮かぶなぁ・・・。

 

次は女子の3位。

「女子の三位は・・・」

 

水本先輩と秋川先輩が一位と二位だとして・・・

三位は隣のクラスの畑山さんあたりかな?

 

「・・・平野琴美さん!」

 

それとも・・・二年生の・・・

て、・・・へ?

 

「平野さん、こちらどうぞー!」

司会者のハイテンションな声に呼ばれ、ハッと顔をあげると

あたしはスポットライトで照らされていた。

 

え、えぇぇぇぇぇーーーっっ!?

 

そんなバカな・・・。

 

ぽかんと口を開けていると、「こっち。」と、

手を引かれて司会者の前に連れて行かれた。

 

この人、誰?

 

多分、声と雰囲気で高杉くんのような気がするけど・・・。

 

司会者の人から3位の賞状とトロフィーを受け取った後も

高杉くん(多分)がエスコートしてくれた。

ちなみに副賞はQUOカード。

 

あたしはもう何がなんだか・・・わからない・・・。

 

なんで・・・あたし・・・?

 

 

そして・・・男子の2位は姉川先輩。

女子の2位は秋川先輩。

 

男子の1位は・・・

 

なんと!?

 

宗。

 

チャラ男二号。

・・・やるな。

 

 

女子の1位は予想通り、水本先輩。

 

おー、美術部は好成績だねぇー。

あたしはともかく先輩達目当てに男子の入部希望者が急増したりして。

 

 

そして最後はステージの上で出場者全員で記念撮影。

男子と女子の上位3位までの6人で記念撮影なんかもあった。

 

 

こうして『校内コンテスト』は、無事に(?)終わった・・・。

 

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