First Kiss 続編・高杉問題 −8−

 

 

翌朝、駅の改札に高杉がいた―――。

 

「おぃっす。」

昨日、あの先輩に殴られた口元には絆創膏が

貼られている。

 

「おう。てか、何やってんだ?」

 

「おまえと平野さん、待ってた。」

 

「?」

 

なんで、俺達を?

 

「昨日の事、まみには内緒な?」

「正門ンとこで一悶着あった事?」

「うん、それ。」

「安藤さんには何も言ってないのか?」

「あぁ、言ってない。」

「なんで?」

 

言っておいた方が良くないか?

 

「アイツさー、まみと同じブラスバンド部なんだよ。

 だから、嫌がらせしてたのとか昨日の俺との事言ったら、

 まみが部活行きにくくなるから。」

 

「あー、なるほど。」

 

そこまで考えてたのか。

ちょっと、意外だなぁ。

 

「でも、それだと逆に心配じゃないか?

 部活の間、あの先輩に無防備で接してたりなんかしたら・・・」

別に俺の“彼女”でもないし、特にそこまで

気にする必要はないのかもしれない。

だけど、クラスメイトとしては昨日目の前で

あんな修羅場を目撃したワケだし。

それになにより、琴美の“女神様”だしな。

そう思っていると、

「それは大丈夫、もう手は打ってあるからさ。」

と、高杉はニッと笑った。

 

・・・?

 

「ブラスバンド部の部長てさ、俺の中学の時の先輩なんだよ。」

 

「へぇー。」

 

「中学の時は俺と同じサッカー部だったんだけど、

 その先輩、高校に入ってすぐ事故に遭って

 足を怪我してからサッカー止めたんだ。

 んで、友達に誘われたとかでブラスバンド部に

 入ったらしい。

 俺の事もよく面倒見てくれてた先輩だから、

 今回も事情を説明したら協力してくれるって。

 ちなみにその部長、平野さんも知ってるよ。」

 

琴美も?

 

あー、そういえば琴美と高杉は同じ中学出身だっけか。

 

「ふーん・・・ところで、ずっと聞きたかったんだけどさ・・・」

 

「ん?」

 

「高杉、なんで安藤さんと付き合う事になったんだ?」

安藤さんの方から告白してくれたって昨日言ってたけど、

今までの高杉なら断ってるだろう。

なのに琴美に告っておいて、その後告られた相手と

なぜ付き合う事になったのかどうしても腑に落ちなかった。

 

「琴美の事、好きだったんだろ?」

 

「あぁ、好きだったよ。」

高杉はさらっと軽い感じで答えた。

 

“今カレ”の俺様を目の前にして言ってくれるじゃねぇかぁー。

 

「でも、今考えてみれば、まみの事がずっと好きだったんだと思う。」

 

「?」

 

なんだそれ?

 

「実はまみとは部活が終わるのが同じくらいでさ、

 降りる駅も近いし、よく帰りが一緒になってたんだ。

 んで、その時にいろんな話をしててさ、

 なんとなく居心地が良いって言うか・・・、

 落ち着くって言うか・・・、なんかずっと話してても

 飽きないし、疲れないし、いいなって思った。

 ・・・で、そう思ってたら夏休みに入って合宿で

 風邪ひいて平野さんにいろいろお世話になって

 彼女にも興味を持ち始めたと言うか・・・。

 でもさ、平野さんは俺が追いかければ追いかけるほど

 逃げて行ってたし・・・脈がないのはわかってた。」

 

「・・・。」

俺はただ黙って聞いていた。

高杉がこんな風に正直に話すのなんて珍しい事だ。

だから、驚いていたというのが正しいのかもしれない。

 

「9月の半ば頃にさ、お前が俺と平野さんを二人きりにして

 さっさと帰った日があっただろ?」

 

「あぁ・・・うん。」

確か、バスケ部の練習試合の後の週明けだったけな。

 

「あの時にさ、俺、平野さんに携帯の番号聞いたんだよ。

 ・・・でも、教えてくれなかった。」

 

「へ?」

 

「あの時、お前がさっさと帰ったもんだから、

 平野さん、すごく悲しそうで“心ここに在らず”って感じで、

 俺との会話も全部生返事だったし。

 だから、俺が“携帯番号教えて?”って言っても

 結局、“うん。”って言ったっきりで教えてくれなかった。

 まぁ、教えてくれなかったと言うより、お前の事考えてて

 俺の言葉がちゃんと耳に入ってなかったんだろうなぁー。

 で、その時にさ、平野さんはお前の事が好きなんだなって確信した。」

 

じゃあ、あの時琴美が元気がなかったのは俺の所為・・・?

 

「学祭の時に告ったのはさ、なんか・・・ハッキリさせたかったって言うか

 フラれるのわかってて言ったんだ。」

 

あんなに自信有り気に言ってたのに?

 

「でも、もし琴美が付き合うって言ってたら?」

 

「それはないよ。まぁ、例えそう言ってても、

 うまくいかなかったと思う。」

 

「なんで?」

 

「まみの事もずっと気になってたから。」

 

「ふぅ〜ん。」

 

「一番最初の選択授業の時にさ、とりあえずのグループ分けで

 出席番号順で分かれた時にまみと一緒のグループになったんだ。

 んで、その時から少しずつ話すようになって、

 正式にグループを分ける時もまみと一緒がいいなって思って

 俺から声を掛けた。

 そしたら、少し驚いた顔しながら“うん”って言った時の

 まみの顔がさー、また可愛くて♪」

 

「それで好きになったんだ?」

 

「そそ。」

高杉はにんまりとした顔を俺に向けた。

 

“チャラ男な高杉”も案外こんなフツーの事で

恋しちゃうヤツだった・・・と。

 

安藤さんの嫌がらせの件も片付き、

高杉が安藤さんと付き合う事になった謎も解け、

これにて『高杉問題』一件落着―――だなっ。

 

 

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