First Kiss 続編・高杉問題 −7−

 

 

「琴美、遅いなぁ・・・。」

俺は誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。

 

正門の門柱に寄りかかっていた体を離し、

目の前に転がっている小石を蹴って、

こんころりんと転がっていった先に目をやると

早足で一人の男子生徒が歩いていった。

そして、その後を高杉が追いかけてきた。

 

「ちょっと待てよ。」

 

高杉の呼び止める声にその男子生徒は顔を顰めながら振り返った。

 

「これ、返す。」

高杉は手に持っていた白い封筒をその男子生徒に差し出した。

 

「・・・なんだよ、これ?」

 

「知らばっくれんなよ、あんただろ?

 まみの下駄箱にこれ置いて行ったの。」

 

「知らねぇよ。」

 

「さっき昇降口にいた女子があんたが置いて行ったの

 見たって言ってたけど?」

高杉はそう言うと男子生徒を睨みつけた。

 

なんだなんだ?

 

俺は高杉と男子生徒の顔を交互に見た。

 

この人・・・2年生か。

 

ブラスバンド部だったけか?

なんとなく、見たことあるな。

 

「高杉くんっ!」

すると、そこへ訳がわからず突っ立っている俺、

顔を顰めてお互い睨み合っている高杉と男子生徒の前に

琴美が現れた。

琴美は俺の方にはまったく目を向けず、

高杉の名前を呼びながら二人に駆け寄った。

 

えー?

俺は無視ー?

 

「先輩・・・その、封筒・・・」

琴美は少し息を切らせながら口を開いた。

 

琴美があの封筒の事を知っているという事は

さっき高杉が言っていた“昇降口にいた女子”は

琴美の事だったのか。

 

先輩と呼ばれた男子生徒は琴美に視線を向けた。

そして、もう一度高杉に視線を戻すと乱暴に封筒を奪い、

踵を返した。

だけど、高杉は逃がさないといった顔でその男子生徒の腕を掴んだ。

 

「待てよ、まだ話は終わってない。なんであんな事したんだよ?」

高杉は明らかに怒りをこもった声で静かに言った。

 

「・・・。」

 

「なんでだよ?」

黙ったままの男子生徒にさっきよりも大きな声で

高杉はイラついたように言った。

 

琴美は心配そうに二人を見つめている。

 

 

「・・・なんで、おまえなんだよ?」

 

「はぁ?」

やっと口を開いたと思ったら、いまいち意味不明な

事を言った相手に高杉は完全にキレた様子で言った。

 

「俺はずっと安藤の事が好きだったのに、

 なんでおまえなんかに取られなきゃいけないんだよ?

 校内コンテスト3位だかなんだか知らねぇけど、

 いい気になってんじゃねぇよっ!」

男子生徒はそう言うと高杉に掴みかかった。

 

「んだとっ!」

そして、高杉も負けじと相手の胸倉を掴んだ。

 

もしかして・・・修羅場?

 

「どうせ無理矢理、安藤を・・・」

「なんでそんな事がわかるんだよっ!」

「そんなの、今までのおまえの噂を聞いてれば

 誰だってそう思うだろっ!」

男子生徒はそう言うと高杉を思いっきり殴り飛ばした。

 

「「っ!?」」

俺と琴美は驚き、高杉に駆け寄った。

 

「高杉、大丈夫か?」

「高杉くん、大丈夫?」

高杉は俺と琴美に視線だけ向け、大丈夫だという風に

軽く頷くと痛そうな顔をしながら立ち上がった。

 

「おまえがどう思おうが勝手だけど、それならなんで

 俺じゃなくてまみに嫌がらせなんかするんだよ?

 女子の誰かがやったと思わせたかったのか?」

 

「・・・。」

すごい剣幕で再び胸倉を掴んだ高杉の質問に男子生徒は何も答えず、

ずっと睨みつけていた。

 

「否定しないって事は図星か?

 ふんっ・・・やる事がせこいんだよっ!」

高杉はそう言うとさっきのお返しとばかりに男子生徒を殴った。

そして、その男子生徒を見下ろしながら

「俺とまみが付き合う事になったのは、

 まみの方から告白してくれたからだ。」

と、言った。

 

「二度とまみにおかしな真似すんなよっ!」

殴られた口元を押さえながら立ち上がった男子生徒に

高杉は吐き捨てるように言うとくるりと背を向け、

安藤さんを迎えに昇降口に向かった。

 

男子生徒は口の中を切ったのか、血が混じった唾を

ペッと地面に吐き捨てながら、高杉の後姿を睨みつけた後、

俺と琴美を一瞥して帰っていった。

 

 

「「・・・。」」

俺と琴美は目の前で起きた出来事に唖然としていた。

 

「・・・なんだったんだ?」

 

「安藤さんに嫌がらせした犯人て、あの先輩だったみたい。」

 

「え、マジでっ!?」

なんなとなく、高杉とあの男子生徒の会話を聞いていて

安藤さんに何かしたんだろうという事はわかっていた。

 

「てか、あの人・・・安藤さんに何したんだ?」

俺がそう聞くと琴美は安藤さんが昇降口で転んだと言って

右手に怪我をした日の事を話してくれた。

 

 

「それ・・・酷いな。」

 

高杉がキレるワケだ。

 

「あ、でも宗、この事は高杉くんには内緒ね?」

 

「ん?うん・・・て、もうバレバレだろっ。」

 

さっき目の前でプチ修羅場があったんだし。

つーか、そもそも最初からわかってたから

高杉も昇降口で待ってたワケだし。

 

「それでも、言わないで。」

 

「・・・わかったよ。」

琴美にとって安藤さんは“女神様”らしいから

約束を破りたくないんだろう。

俺はなんとなく可笑しくてちょっと吹き出した。

 

「もぅ〜っ、ホントにわかってる?」

すると琴美は頬を膨らませた。

 

「わかってるって。」

指で膨れた頬を潰すとプゥーと音がした。

それがまた可笑しくてゲラゲラと俺が笑うと

「宗〜っ!」

と、頬を軽く抓られた。

そして、琴美はもう片方の頬も軽く摘むと

フニフニと俺の顔で遊び始めた。

 

「琴美ひゃん、やめなひゃい。」

両頬を左右に引っ張られているおかげで

上手く喋れない。

 

「宗、可愛い〜、おもしろーい♪」

琴美はにこにこしながら俺の顔をおもちゃにした。

 

まぁ、その後俺も琴美の顔をぷにぷにしたのは言うまでもないけど。

 

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