メグタマ! −シリーズ1・誤認逮捕+殺人事件=腐れ縁の始まり? 第六話−

 

 

――翌日。

 

都内のスタジオでグラビアの撮影を終えたメグルが哉曽吉と共にカメラや三脚を片付けていると、

珍しい人物に声を掛けられた。

 

「及川」

少し懐かしいその声にメグルが振り向くと、以前同じ事務所にいた柴多(しばた)が近付いて来た。

その頃はよく一緒に取材にも行き、プライベートでも頻繁に飲みに行っていた仲の良い記者の一人だ。

だが、メグルが事務所を変わった少し後、彼もまた事務所を変わりお互い多忙になって疎遠になりかけていた。

 

「久しぶりだな」

メグルは久しぶりに会う仲間に自然と笑みがこぼれた。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

メグルと哉曽吉、柴多は三人で昼食を一緒に摂ろうと撮影スタジオに程近いラーメン屋に入った。

 

「ところで及川……この間、記事に書かれてた誤認逮捕されたカメラマンてお前の事か?」

席に着くなり口を開いた柴多はいきなり本題に入った。

 

「……っ」

メグルの隣に座っている哉曽吉はピクリと眉を顰めた。

 

「……あぁ」

メグルは少し間を空けて答えた。

 

「そうか……」

柴多は『やっぱりな』という顔をした後、意外な事を口にした。

「実はな、その一件……どうやらリークされたモノらしいんだ」

 

「「っ!?」」

驚くメグルと哉曽吉。

だが、しかし……メグルはなんとなく予想していた。

それは御木本が他の記者も知らない情報――、スクープを落とした事等を知っていたからだ。

 

「どこからリークされたのかは知らないが、うちのカメラマンの菅野(かんの)という男が

 御木本という男にメールを送っていたようなんだ。

 偶然、メールの送信画面が切り替わる前にちらっとメールの本文にお前の名前と送信先に御木本の名前が

 視界に入っただけなんだか……」

 

「……そうか」

メグルはとりあえず収束した事だし、今更蒸し返す気もないので聞き流すまではないが、

自分の胸の中に留めておくつもりでそう返事をした。

 

「メグさん、その菅野って男、問い詰めてリークされたのが本当なら、

 今度はこっちがその事実を突き止めて記事にしてやりましょうよ!」

 

「そんな事をして何になるんだ? こっちがそれを記事にすれば相手はまた仕返しに何か仕掛けて来るだろ?

 それで結局お互い潰し合うだけなんだ」

やや強い口調で言った哉曽吉にメグルは宥めるように言った。

 

「そうっすかね?」

 

「そうだよ。それに御木本は一応俺の顔も名前もちゃんと伏せて記事にしたから約束は守っただろ?

 それを変にこっちが突くとせっかく収まった騒動にまた火が点くし、

 今度はこっちが警察側に迷惑を掛ける事になるだろ?」

 

「……むぅ」

哉曽吉はいまいち納得がいかない。

 

「俺が菅野と仲が良ければ直接本人から詳しく訊くんだか……そんなに話さないからなぁ。

 特にこれ以上何かするとは思えないが、一応、及川の耳に入れておいた方がいいと思ってね」

柴多もそう言って哉曽吉に視線を移した。

 

「そうですか……」

すると、哉曽吉は柴多がメグルにリークの件を伝えたのは調べてみろという意味があった訳ではないと思い、納得した。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

その日の夜――。

自宅に戻ったメグルはテレビのニュース番組を見ながらソファーでカメラの手入れをしていた。

 

『では、次のニュースです。今日の昼頃、殺人事件がありました』

 

(また殺人事件か……)

何気なく手元のカメラからテレビに視線を移す。

すると被害者の顔写真と名前が映り、メグルは瞠目した。

 

「…………」

驚きの余り声も出ない。

 

『殺されたのは記者の御木本修造さん、四十歳で今朝出社して来ない事を不審に思った同僚が昼過ぎに自宅を訪ねたところ、

 刺し殺されているのが発見されました』

 

(御木本が……?)

つい先日会ったばかりの御木本が殺された。

メグルは柴多から聞いたリークの件が頭を過ぎった――。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

翌朝――。

 

「朝井」

タマキは朝一で長原に絡まれていた。

 

「はい?」

タマキは朝からまた嫌味でも言われるのだろうと思っていた。

しかし……、

「昨日の御木本さんが殺害された現場で犯人の遺留品だと思われるライターから

 お前の指紋が見つかった。これは一体どういう事なのか説明して貰おうか?」

証拠品としてビニール袋に入れられた百円ライターをいきなり突きつけられた。

 

「……え?」

タマキは寝耳に水といった感じでポカンと口を開けた――。

 

 

「で? どうして被害者の部屋からお前の指紋が付いたライターが見つかったんだ?」

“重要参考人”として取り調べを受ける事になったタマキが取調室に連れて来られると、

長原が目の前に座り、威嚇するような口調で取調べが始まった。

傍には竹岡もいる。

バディの是永の姿がないという事はマジックミラーの向こう側にいるのだろう。

 

「わかりません」

タマキは素直に答えた。

 

「てめぇ、ナメてんのか?」

 

「いえ、そうではなくて、私、本当に知らないんです。御木本さんなんて知り合いではありませんでしたし、

 私自身、煙草なんて吸いませんから」

 

「殺された御木本さんは記者だ。しかもお前が仕出かした誤認逮捕の一件をスクープとして書いてる。

 俺には無関係だとは到底思えないけどな?」

 

「それはそうですけど……ライターに指紋が付いているというのは一つだけ心当たりがあります」

 

「なんだ?」

 

「三日前、このライターが私のデスクの上に置いてありました」

 

「これは見てもわかるとおり百円ライターだぞ? それなのに何故同じだと言い切れるんだ?」

 

「そうですけど、あくまで心当たりの話です」

 

「まあいい、それで?」

 

「それで、落し物だと思ってビニール袋にライターを入れて磁石でホワイトボードに貼り付けて

 『落し物です』って伝言を書いておいたんです。その時、部屋の中には誰もいませんでした」

 

「まあもし、そのライターと同じ物だったとして、それが何故御木本さんの死体の傍に落ちていたんだ?」

 

「それはわかりません。私はライターを落し物としてホワイトボードに伝言と一緒に残した後、

 帰宅したので……でも、翌朝にはもう無くなっていたので誰かが持って行ったんだと思います」

 

「じゃあ、何か? お前はこの星川署の誰かが御木本さんを殺したとでも言うのかっ?」

バン――ッ! と、大きくデスクを叩いて怒鳴る長原。

 

「そうは言ってませんけど、私の指紋が付いたライターと言ったらそれしか思い浮かばないんですっ」

釣られてタマキも声が大きくなる。

 

「……ふん、まあいい。それじゃあアリバイを訊こうか。死亡推定時刻の一昨日の夜十時はお前、どこで何をしていた?」

 

「……」

タマキは一昨日の夜のアリバイを訊かれ、言葉に詰まった。

 

「どうした? 答えられないのか?」

長原は椅子の背凭れに寄り掛かり、足を組み直した――。

 

 

それから一時間が経過し――、

「朝井、いい加減アリバイくらい言ったらどうなんだ? 何故答えられない?」

黙秘を続けるタマキに長原がキレ気味に言った。

 

そこへ長原とコンビを組んでいるベテラン刑事の鈴野が取調室に入って来た。

「長原……」

鈴野は長原に耳打ちで何かを伝えた。

 

「朝井」

鈴野の伝言を聞き、タマキの方に向き直る長原。

 

「御木本さんのマンション周辺に聞き込みをかけたところ、犯行があったと思われる時間に

 長い髪を後ろで一つに纏めた女の姿が目撃されたらしい」

 

「え……」

 

「お前じゃないのか? 朝井」

 

「ち、違います! 私じゃありませんっ!」

タマキは思わず身を乗り出した。

 

「なら、一昨日の夜九時から十一時、お前はどこで何をしていた!」

長原は大声で怒鳴り、デスクの脚を蹴飛ばした。

すると、デスクの角がタマキの左腕に当たった。

 

「……っ」

腕を押さえ、蹲るタマキ。

 

「長原、落ち着け」

鈴野は長原を椅子に座らせてデスクを直した。

 

……ガチャ――ッ。

 

そして今度は是永が取調室に入って来た。

「長原、変わってくれ」

 

「何言ってるんすか? 是永さん。バディが相手じゃまともに取調べが出来る訳ないでしょう?」

長原が怪訝な顔をする。

 

「そう言うお前だって元バディじゃないか」

 

「俺はコイツを一度もバディだなんて思った事はありませんけど?」

ムッとしながら是永に言い返す長原。

 

「俺の事だってバディだなんて思っていないだろ?」

すると、鈴野が横から言った。

 

「そんな事……っ」

「とにかく、変わってくれ。お前のやり方じゃ朝井はこれ以上何も話さない」

慌てて否定しようとした長原を制して席から立たせる是永。

 

「……」

長原は無言で取調室を出て行った。

 

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