言葉のかわりに−続編・和磨の本音、唯の本音 1−

 

 

――12月24日、クリスマス・イブ。

唯と香奈はJuliusのライブに来ていた。

 

大きなコンサート会場は既に大勢のファンで埋め尽くされていた。

 

Juliusのライブは今や日本で尤もチケットが取れないと言われるほどになっていた。

それゆえ今回もメンバーのKazumaやTakumiでさえ、唯と香奈のチケットを

押さえる事が出来ず、それでもどうしても唯に来て欲しいという想いから、

Kazumaがスタッフに無理を言ってPAブースに唯と香奈の席を特別に用意して貰った。

 

「Juliusのライブ、生で見るの久しぶりだね!」

香奈は少し興奮している様子で言った。

唯は目の前の大きなステージを見つめながら「うん」と頷いた。

Juliusのライブを見るのは高校三年生の冬以来だ。

しかも、あの頃はまだ小さなライブハウスの窮屈なステージで、

客席のキャパシティーだって今日のこのコンサート会場とは比べ物にならないほどだった。

 

 

そして開演時間を知らせるアナウンスが会場に響き、19時ジャスト――。

客席の照明が落とされ、会場は興奮と熱気に包まれた。

 

SEが流れる中、唯と香奈はステージを見つめていた。

 

やがて、SEが途切れると同時に一気に幕が開き、Juliusのメンバーが姿を現した。

客席は歓声で沸き上がり、唯と香奈もステージに釘付けになった。

 

あの頃よりも大きなステージと大勢のファンの前で

堂々と演奏するJuliusのメンバー達。

衣装も照明も音響も……全てがあの頃とは違いプロ仕様。

もちろん、Juliusのメンバー自身の演奏技術も上がっていたが、

その中でもKazumaは特に違って見えていた。

 

 

 

 

――二時間半のライブはあっという間に終わり、Juliusのメンバーが

ステージの上からいなくなると、すぐにアンコールを求める

歓声と手拍子が鳴り始めた。

唯と香奈ももちろん一緒になり、手拍子をしている。

 

 

そうして、しばらくすると再びJuliusのメンバーがステージに出てきた。

最初の赤を基調とした衣装とは違い、この日のクリスマス・ライブの為に

作ったと思われる黒のスタッフTシャツにメンバー全員が着替えていた。

 

Kazumaは「アンコールありがとう」と、短いMCの後、

アコースティックギターを持ち、唯に視線を移した。

 

(……え?)

 

Kazumaと視線が絡み合い、唯は驚いた。

ステージからは自分の姿が見えるはずがないと思っていたからだ。

しかし、Kazumaには確かに唯が見えていた。

 

「一番大切な人へ……」

Kazumaは唯から視線を外さずに言うと、イントロを弾き始めた。

それは、和磨が唯と別れてから再び唯の前で歌う今日まで、

演奏する事のなかった曲……『言葉のかわりに』だった――。

 

「……っ!?」

唯はイントロを聴いた瞬間、一瞬息が止まった。

 

“一番大切な人へ……”

 

Kazumaは一度も唯から視線を外す事無く歌った。

 

 

そして、唯の瞳からは涙が溢れ出していた――。

 

「なんで香奈まで泣いてるのー?」

 

ふと気がつくと、香奈も隣で涙を流していた。

 

「……だって……、この曲……唯と別れてから一度も演ってなかったから……、

 歌えるようになって本当によかった……」

香奈は泣きながら、嬉しそうに言った。

 

和磨が唯と離れていた間もずっと香奈は拓未と共に二人を見守ってきた。

それだけに和磨がKazumaとして、この『言葉のかわりに』を

歌える事になった意味の大きさが痛いほどわかるのだ。

 

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