言葉のかわりに -特別番外編・難有り?-

 

 

「あ〜ぁ・・・和磨のヤツ、すっかり拗ねちゃってまぁ、

 可愛いったらないねぇ〜っ。」

拓未はスタスタと帰っていった和磨の後姿が見えなくなると

ククッと笑った。

 

やっと唯と話が出来ると思っていたのに予想外の邪魔が入った上、

一言も話せないで唯が先に帰ってしまった為、和磨が拗ねてしまったのだ。

 

「アレやっぱ拗ねてんの?」

香奈もクスクスと笑いながら和磨の後姿を見送った後、

拓未へと視線を戻した。

 

「あの顔は不機嫌になってる時の顔だからね。」

 

「へぇ〜っ、意外・・・篠原くんがこんな事で拗ねるなんて。」

 

「意外?」

 

「うん、篠原くんくらいモテる人なら、女の子の一人や二人、

 先に帰ったからってなんとも思わないと思ってた。」

 

「あー・・・けど、俺も初めてだよ。こんな事で拗ねる和磨を見るのは。

 むしろ今までの和磨と真逆かな。」

 

「・・・もしかして、拓未くんも拗ねてる?」

香奈は少し悪戯っぽい目をして拓未の顔を覗き込んだ。

 

「いや、そんな事ないよ?」

 

「ホント〜?」

 

「確かに唯ちゃんが先に帰ったのはちょっと残念だけど、

 そのおかげでこうやって香奈ちゃんと二人きりになれたし。」

拓未は香奈ににやりとして見せた。

 

「てか、唯ちゃんて今まで何人くらいと付き合った事あるの?」

 

「んー・・・私が知る限りだとー・・・」

 

「うんうん。」

 

「ゼロ。」

 

「ウソだぁ〜?」

 

「ホント。」

 

「あんだけ可愛いのに?」

 

「でも、ゼロなんだよね。」

 

「・・・も、もしかして・・・唯ちゃん・・・」

 

「ん?」

 

「性格に難有り?」

 

「んー、というより“生活に難有り”ってカンジ。」

 

「あ?」

拓未はなんだそれ?と言った感じの顔をした。

 

「唯ってね、いつも学校から帰ったらすぐピアノの練習をしてるんだけど、

 それが学校が休みの日でもずっと家でピアノを弾いてるワケ。

 まぁ、私が遊ぼうって誘えば一緒には遊ぶんだけど、

 発表会とかコンクールの前になるとどんな誘いも断って練習ばっかになるの。」

 

「ふんふん。」

 

「・・・で、中3の時にね、とある男の子が強引に唯を口説いて

 強引に付き合う事にしたヤツがいてね。」

 

「ほーほー。」

 

「でも唯の方はまったく付き合ってるつもりはなくて、しかも発表会の前だったし、

 だからいつものように練習ばっかしてたらその男の子が怒っちゃってねー。」

 

「あっらー。」

 

「んで、結局二週間で別れたっていうオチ。

 まぁ、“別れた”って言っても唯は何がなんだかわかんないって言ってたけど。」

 

「それでもう誰かと付き合うのが嫌になっちゃったとか?」

 

「んー、それもあるだろうね。」

 

「なるほどねー。」

 

「ところで拓未くんは?」

 

「何が?」

 

「今まで付き合った女の子の数。」

 

「俺?・・・んー・・・俺は・・・」

拓未は指折り数えながら考え始めた。

 

「指が足らないなら私の指も貸してあげようか?」

拓未の数える手が右手の指から左手の指に変わると

香奈が悪戯っぽく笑いながら言った。

 

「えー、そこまでじゃないよ?」

拓未は苦笑いし、「とりあえず両手で足りるくらい。」と言った。

 

「え・・・ま、まさか、拓未くん・・・」

 

「ん?」

 

「性格に難有り?」

 

「・・・さぁ?どうかな?」

拓未はプッと吹き出した。

 

「けど、さっきの唯ちゃんの話じゃないけど、俺も“生活に難有り”・・・かな。」

 

「どーゆー意味?」

 

「俺もバンドを最優先してるから。

 暇な時はだいたい部屋でギター弾いてたりするし、

 彼女との約束が入っててもドタキャンする事もあるからね。」

 

「ふーん・・・それで彼女が怒っちゃって別れたり?」

 

「うん・・・て、俺はそう思ってるけど。」

 

「あはは、まぁその彼女の気持ちもわかるけどね。

 でも・・・拓未くんの気持ちもわかるよ。」

 

「うん?」

 

「私はずっと唯が本気でピアノをやってるのを見てきたから

 一緒に遊ぶ約束しててドタキャンされる事があっても

 怒らないけど・・・やっぱりいい気持ちはしない。

 けど、唯もそれがよくわかってるから、ちゃんと

 “ごめんね”って言ってくれるの。

 それに・・・ドタキャンする方も平気でしてる訳じゃないしね?」

 

「うん。」

 

「だからその彼女の気持ちも拓未くんの気持ちもわかるよ。」

香奈はにっこりと笑った。

 

 

「・・・ところでさ・・・香奈ちゃんは?

 付き合った男の数、何人?」

ほんの少しの沈黙の後、拓未が興味深そうに言った。

 

「私は片手で足りるくらい。」

香奈は右の掌をひらひらとしてみせた。

 

「生活に難は無いけど、“性格に難有り”・・・かもね?」

 

「そうなの?」

 

「う〜ん・・・多分。」

 

「それはまたなんで?」

 

「私は唯や拓未くんみたいに最優先するほどのモノは特にないんだけど、

 束縛されるのがイヤで、そーゆーのでよくケンカしてたかな。」

 

「束縛はされたくないけど束縛しちゃうとか?」

 

「あー、それはない。」

 

「じゃあ、別に難有りなワケでもないじゃん?」

 

「そーかな?」

 

「俺はそう思うけど?」

 

「・・・元彼もそんな事言ってたけど・・・

 結局すぐに別れちゃったんだよねー。」

香奈は軽くため息をついた。

 

「俺、元彼とは違うよ?」

 

「言い切っちゃうんだ?」

 

「うん。」

 

「なんでそんな自信満々に言い切れるの?」

香奈はプーッと吹き出した。

 

「俺と付き合ってみればわかるかもね?」

 

「わかるかな?」

 

「わかるよ、絶対。」

 

「・・・。」

香奈は“絶対”と言い切った拓未をじっと見つめた。

 

「わかりたくない?」

すると拓未は目を逸らさずに言った。

 

「・・・わかりたいかも。」

 

「じゃ、イヤって程わからせてあげる。」

拓未は香奈に小さくにやりと笑って見せた。

 

 

HOME
INDEX
BACK
NEXT