言葉のかわりに−第三章・Prologue−
――四月。
唯達は三年生になり、クラス替えが行われた。
出来る事なら和磨と同じクラスがいい。
淡い期待を胸に、唯は香奈とクラス替えの張り出しがしてある校内の掲示板を見に行った――。
掲示板の前はものすごい人だかりだった。
背の低い唯は、まったく掲示板が見えない。
ぴょんぴょん飛んで見ようとするが無駄だった。
その様子を後ろから見ていた和磨と拓未は思わず吹き出した。
「唯、俺達が見て来てやるから」
和磨は唯の頭をポンと軽く撫でるとニッと笑った。
「へ?」
唯は和磨に見られていたことにようやく気がつき、顔を赤くする。
その直後、香奈もクラス替えの内容が全然見えなかったらしく、和磨と拓未に任せて唯の所に戻って来た。
しばらくして、和磨と拓未が戻ってくると、
「どうだった?」
香奈は気になって仕方がないといった感じで拓未に訊いた。
「香奈! 聞いて驚け! なんとっ……俺達全員一緒! 三年八組だぁーぃ!!」
拓未は香奈に抱きつきながら叫んだ。
「え? ……え? て……私達四人とも一緒?」
「おぅよっ!」
「やったーっ!!」
香奈と拓未はハイタッチした。
「ホ、ホントに?」
唯は目を丸くして和磨に訊ねた。
和磨は嬉しそうに「あぁ」と返事をした。
これで少なくとも去年よりももっと和磨と一緒にいられる。
「やったぁーっ!」
唯も嬉しそうに笑い、さっそく四人で新しい教室に向かって歩き始めた――。
三年八組の教室に入った唯達四人は、とりあえず出席番号順に座わるように担任の教諭・島田聡に指示された。
落ち着いたところでHRが始まり、まずは席決め。
方法は一旦、クラス全員教室の外に出て、島田が机の上にランダムに番号を書いた紙を置いていく。
番号順ではなく、ランダム……ここがミソ。
その後、女子が先に入って座りたい席の番号を取り、名前を書いて投票した後、
黒板に書かれた席表に自分が取った番号を書き入れる。
次に女子と入れ替わりで男子が教室に入り、座りたい席の番号を取り、名前を書いて投票し、
同じ様に黒板に番号を書き入れる。
後は、島田から発表があるのみ。
唯達四人は窓際の前から一番目と二番目の隣同士四つの席を確保する事に成功した。
なんともあっさり決まったが、香奈が事前に『唯はちっちゃいから一番前の席に行く』とか『窓際の席がいい』とか、
和磨と拓未に耳打ちしていたのだ。
もちろん、唯はクラス中の女子から羨ましいと言わんばかりの視線を浴びせられ、
和磨も男子から同じ様な視線を感じていたのは言うまでもない。
本当は唯と和磨、香奈と拓未で隣同士が良かったのだが、それではあまりにもあからさま過ぎるし、
なによりJuliusのファンの子達が来た時に困る。
と言う訳で唯と香奈、和磨と拓未で隣同士になった。
「男同士で隣り合わせって……」
和磨は少々不満そうにボソッと呟いた。
それでも自分の目の前には唯が座っている。
これで一年間、ずっと一緒にいられる――。
さっそく初詣のご利益があった。
唯は後ろから感じる女子達の視線の中にまさか和磨の熱い視線が混じっていようとは夢にも思っていないだろう――。