First Kiss −28−

 

 

―――後、一週間で学園祭。

そんなある日の放課後、あたしと宗、高杉くんの三人は

学園祭実行委員の鈴木くんにミーティングルームへと連れて来られた。

 

中に入ると、美術部の姉川先輩と水本先輩のカップル、

それに同じく美術部の先輩で2年生の秋川遥さん、

後は知らない人たちばかりがいた。

 

・・・一体何が始まるの?

 

姉川先輩は何かの書類を片手に全員の顔をぐるりと見渡し、

人数を確認し終えると

「えーと、んじゃ全員揃ったみたいだから始めようか。」

と、口を開いた。

 

そーいえば姉川先輩、学園祭実行委員長になったとか言ってたなー。

 

「今ここに集まってもらったのは今月の初めから行われていた

 『校内コンテスト』の上位12人の皆さんです。」

 

・・・へ?

『校内コンテスト』?

 

それに・・・上位って?

 

確かに『校内コンテスト』は今月の1日から昨日までが投票期間だった。

男子は女子に、女子は男子に自分が好きな人、若しくは付き合いたいと

思っている人に投票する。

もちろんあたしは宗に投票した。

 

・・・で、そんな『校内コンテスト』の上位12人の集まりに

なんであたしが・・・?

 

宗と高杉くんはわかるけど・・・。

 

「それで、これから学園祭までの一週間はこの12人で

 さらに校内での投票が行われ、学園祭2日目に多目的ホールで

 アピールタイムと来場者全員による最終投票が行われて結果発表があります。」

 

な、な、な、なにーっ!?

 

「『校内コンテスト』の開催時間とか後の詳しい事は今配ったプリントに

 書かれてるので模擬店などで交代に入る人は時間等を各自調整して下さい。

 以上で簡単だけど説明は終わり・・・何か質問は?」

姉川先輩は持っていた書類からみんなの方へ顔を向けた。

 

「あ・・・あの・・・。」

あたしはちょっと躊躇しながら挙手をした。

 

「・・・ん?何?」

 

「あたしが選ばれてるのって・・・なんかのまちがいじゃない・・・ですか?」

 

「投票は知っての通り、全てパソコンで一人一票しか投票できないようになってるし、

 集計も学園祭実行委員の全員で確認しながらやったからまちがいないよ?」

姉川先輩はにっこり笑った。

 

そんなバカな・・・。

 

そう思っていると、

「サッカー部の人たちはほとんど平野さんに投票したって言ってたよ?」

と、高杉くんが言った。

 

嘘!?

 

「バスケ部もほとんどが琴美に投票したって言ってたなー。」

宗もそう言ってにこっと笑った。

 

ええええぇぇぇぇーーっ!?

 

「な、な、なんで・・・?」

 

「夏の合宿の時にみんな世話になったからじゃないか?」

 

「俺らが麦茶作り忘れてたりしててもフォローしてくれたもんな?」

宗と高杉くんは、うんうんと頷き合った。

 

「それに俺らのクラスの男子もほとんど琴美に入れてるぞ?」

「え・・・。」

「夏休み明けてすぐに平野さん、眼鏡してない時があったでしょ?

 あの時、クラスの中で平野さんて実は可愛いって噂になったんだよ。

 てか、他のクラスの奴らも結構噂してたから、平野さんに投票したの

 うちの男子だけじゃないと思うな。」

 

あのソフトボールの打球が当たった時かー。

 

「だから琴美が入ってるのは全然不思議じゃないけど?」

宗にそう言われてもあたしは世の中の七不思議の一つに入るんじゃないかと

思ってるくらいなんだけど。

 

「これで納得できただろ?」

姉川先輩はニッと笑った。

 

・・・できません!

 

「他に質問は・・・ないみたいだね。

 それじゃ、解散します。」

姉川先輩からあっさり解散と言われてもあたしはまだボーッと座ったままでいた。

 

「ほら、部活行くぞ。」

先輩があたしの頭にポンと軽く手を乗せた。

 

「・・・せ、先輩・・・コンテストって辞退できないんですか?」

コンテストなんてあたしはまったく出る気がなかった。

 

「できない。」

だけど姉川先輩はキッパリとあたしに言い放った。

 

う・・・。

 

「琴美出たくないの?」

「なんで?」

すると、宗と高杉くんがあたしの顔を覗き込んできた。

 

「だって・・・」

 

あたしが出るなんて絶対おかしいって・・・

場違いだよ・・・。

 

「ただのお祭りなんだから気楽に出ようぜ。」

「そそ、俺らも一緒なんだし。」

宗と高杉くんはにこにこしながら言った。

 

だから・・・宗と高杉くん達みたいなイケメンとか

水本先輩みたいな美人や秋川先輩みたいな可愛い人達と

一緒に出なきゃいけないのが嫌なんだってば・・・!

 

「しょうがないなぁ・・・」

渋るあたしに姉川先輩はため息をつきながら信じられない言葉を吐いた。

「“部長命令”発動。」

姉川先輩はしれっとした顔で言い放ち、にやりとした。

 

「えーっ!?」

「コンテスト出なかったら、お仕置き。」

「せ、先輩ズルいですよっ!」

「ちなみにお仕置きはなんですか?」

宗がにやにやしながら姉川先輩に聞いた。

 

「そうだなー・・・」

 

「あっ、こんなのはどうですか?“水着で校内一周”。」

姉川先輩がお仕置きを考えていると、高杉くんがとんでもないコトを言った。

 

“市中引き回しの刑”じゃあるまいし!

 

「それいい!」

「もちろん水着は赤のビキニ。」

「黒でもいいぞ。」

そう言って宗と高杉くんは勝手に盛り上がっている。

 

せ、先輩・・・こんなお仕置き却下だよね?

 

「じゃ、お仕置きはそれに決定。」

姉川先輩の楽しそうな声が虚しくあたしの耳に入ってきた。

 

がっくり・・・。

 

「ひどい・・・。」

あたしが小さな声で呟くと姉川先輩は意地悪な顔でケラケラ笑った。

 

「先輩のオニ・・・。」

「はいはい、そんな可愛い顔で睨んだってちっとも怖くないぞ?」

「先輩の悪魔。」

「なんとでも言えー。」

「先輩の人でなし。」

「ほら、部活おいてくぞ?」

宗と高杉くん、水本先輩と秋川先輩はあたしと姉川先輩の会話を

笑いながら見ていた。

 

うぅー・・・。

 

「まあまあ、琴美ちゃん、当日はあたしと遥ちゃんでもっと可愛くしてあげるから。」

水本先輩が涙目になっているあたしの頭をよしよしと撫でてくれた。

「そうそう、だからそんな顔しないの。」

秋川先輩も膨れたあたしの頬をつんつんした。

「琴美ちゃんの目って大きいし、すごく綺麗だから眼鏡をはずして

 髪もこう・・・」

「あ、それなら先輩、こんな風に髪をあげてみたらどうですか?」

「きゃー、それいい!」

「でしょ?それでそれでー・・・」

「ちょ・・・あ、あの・・・先輩・・・やめ・・・」

「あー、琴美ちゃん動いちゃダメよ。」

「ほらほら、おとなしくしてて。」

水本先輩と秋川先輩の二人に囲まれ、

あたしは身動きができなくなってしまった・・・。

 

「二人ともそのくらいでやめといてやれよ?」

そんなあたし達を見て、姉川先輩がククッと笑いながら言った。

「当日、じっくりやればいいだろ?

 マジでそろそろ部活いくぞ?」

そう言うと姉川先輩はミーティングルームのドアを開けた。

 

「んじゃ、俺らも部活行こうぜ。」

「おぅ。」

宗と高杉くんはあたしに手を振り、仲良く部活へと行った。

 

・・・てか、宗と高杉くんてあんなに仲良かったっけ?

 

 

そして、その後―――。

 

あたし達もようやく部活に行った。

だけど、あたしが絵を描いてる間も水本先輩と秋川先輩は

あーでもない、こーでもないと言いながら

ずっとあたしの髪をいじりまわしていた。

 

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