First Kiss −26−

 

 

宗に失恋してから一週間が過ぎた月曜日の放課後。

あたしは部活に出る気力もなかった。

て、ゆーか・・・ここ一週間まともに部活に出ていない。

いまいち創作意欲がわかないし、それどころか全てにおいて無気力。

自分でもこんなに重症だとは思わなかった。

 

そんなワケで今日も部活にも出ずに帰ろうかな・・・

なんて考えつつ、帰り支度をしていると、

「平野さーん、先輩来てるよー。」

と、クラスメイトの声がした。

 

・・・先輩?

誰だろう?

 

あたしは教室の入口に視線を向けた。

 

すると、そこには・・・

 

美術部の部長・姉川俊介さんがいた。

3年生の先輩で長身でイケメン。

後輩の面倒見も良くて優しくて頼れるアニキ的な人。

だからめちゃめちゃモテる。

それでいて全然チャラ男じゃないから、あたしも結構頼っていたりする。

先輩目当てに美術部に入ってきた女の子も少なくない。

だけど実は姉川先輩は同じ3年生の水本千里さんと付き合っていたりする。

これがまためちゃめちゃ美人。

ちなみに美術部の副部長。

美男美女のカップル。

それであっさり辞めていった女の子も少なくないけど・・・。

 

姉川先輩は教室のドアに寄りかかって腕組みをしていた。

 

・・・ひぃっ。

なんか・・・怒ってる?

 

そしてあたしが突っ立ったままでいると、つかつかと歩み寄ってきた。

 

「迎えに来た。」

先輩はそう言うと、あたしの手首を掴んで

「行くぞ。」

と教室の外に向かって歩き始めた。

 

・・・えぇぇぇぇぇぇっ!?

 

「い、行くってどこにですかっ?」

「部活に決まってんだろ。」

 

うひっ!?

要するにサボらないように拉致しに来たの?

 

 

姉川先輩はあたしの手首を掴んだまま屋上へと来た。

 

屋上で部活?

そんなワケないよね?

 

「どうしたんだ?一体?」

そう言うと姉川先輩はあたしの手をやっと離してくれた。

 

「ここ一週間くらいずっと元気がないみたいだし、

 選択授業の時も全然、絵を描いてなかったって

 長谷川先生から聞いたから・・・なんかあったのか?」

 

・・・実は失恋しました・・・なんて言えないよ。

 

「体調不良・・・て、ワケでもなさそうだし。」

 

その通り、いたって健康です。

 

「・・・失恋でもしたか?」

姉川先輩は、ちょっと冗談っぽく笑った。

 

ぐはっ。

いきなり当てないで・・・。

 

あたしの微妙な表情の変化で気付いたのか

姉川先輩は一瞬にして真顔になった。

「まさか・・・図星・・・だった?」

手を口にあてて後悔したように姉川先輩はあたしの顔を覗き込んだ。

 

そのまさかですよー。

 

「ごめん・・・冗談のつもりだったんだけど・・・

 ホントにそうだとは思わなかったから・・・。」

 

「あ、いえ・・・。」

 

先輩・・・鋭すぎる男は時に嫌われますよ?

 

「まぁ・・・最初から無理な相手でしたし・・・。」

 

そうだよ・・・宗みたいなカッコいい子が

あたしと話をしてたのもおかしな話なんだし。

 

「なんだよ・・・それ。」

姉川先輩は苦笑いした。

 

「だって・・・すごーくカッコ良くて、運動神経もよくて

 誰にでも優しくて、女の子にいつも囲まれてるんですよ?」

 

「そんな事言ったら、千里だってそうだぞ?」

 

「え、そうなんですか?」

 

「千里だっていつも男に囲まれてる。」

 

あー、確かにあれだけの美人ならね。

 

「それでも俺は諦めなかったけど?」

 

そりゃ・・・先輩だってカッコいいし、

正直、その辺の男子じゃ相手にならないんじゃ・・・。

 

「そいつに告白したの?」

 

「いえ・・・。」

 

「告白してないの?」

先輩はちょっと呆れた顔をした。

 

「告白もしてないなら失恋じゃないだろ。」

「でも・・・その人好きな子がいるんですよ。」

「本人がそう言ったのか?」

「いえ、けど恋愛成就のお守り持ってます。」

「・・・なら、失恋って決め付けるのは早いんじゃないのか?」

「そうですかー?」

「俺はそう思うけど?」

「どうしてですか?」

「本人の口から聞いた訳じゃないから。」

 

確かに宗の口からハッキリ“好きな子がいる”とは聞いていない。

 

「そいつのコト・・・まだ好きなんだろ?」

 

まだ・・・

そうかもしれない・・・。

いや、きっとそうだ。

 

「はい・・・。」

「好きなら、告白もしないで諦めるなよ。」

先輩はあたしの頭をポンポンと優しく撫でてくれた。

 

「俺だってダメ元で千里に告ったんだぞ?」

 

・・・え?

 

「そうなん・・・ですか?」

 

「うん。」

 

意外・・・。

 

「・・・だからって、おまえも今すぐそいつに告白してみろって意味じゃないからな?」

 

「あ・・・はい。」

 

「まぁ・・・要するにだ・・・相手の口からハッキリ聞くまでは

 諦めるなって言うか・・・好きなら玉砕するまで諦めるなってコト。」

 

玉砕って・・・。

 

でも・・・そうだよね。

 

「はい。」

 

てか、先輩ってやっぱり優しいな・・・

なんとなく元気が出てきた。

 

「先輩ありがとうございました。」

 

「うん。」

 

もう少しだけ宗の事、好きでいたい・・・

玉砕するまで・・・。

 

「まぁー、玉砕した時は全力で慰めてやるから。」

姉川先輩はにやりとした。

 

「えー、それ玉砕するコト前提で言ってるでしょ?」

あたしは頬を膨らませた。

 

「ははは、ちがう、ちがう。」

そう言いながら先輩は大笑いしている。

 

「俺はおまえの事、応援してるから・・・てか、そろそろ部活行こう。

 みんなが待ってる。」

先輩は優しい笑顔をあたしに向けた。

 

“みんなが待ってる。”

 

その言葉が素直に嬉しかった。

 

「はいっ。」

あたしはちょっと足早に歩き始めた先輩の後を追った。

 

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