Calling 第43話 モテ期? -1-

 

 

「あの、和泉沢先輩っ」

 

卒業式の前日。

放課後、帰宅しようと駅に向かって歩いていると、後ろから女の子に声を掛けられた。

 

俺の事を“先輩”と呼んだという事は後輩か?

 

とりあえず足を止めて振り向くと二人組みの女の子達が近寄ってきた。

 

「先輩、第二ボタンくださいっ」

 

「は?」

 

「先輩の第二ボタンが欲しいんです」

 

(……ウソだろ〜?)

 

目の前の女の子達は信じられない事に俺の第二ボタンをくれと言ってきた。

しかし、俺が第二ボタンを貰って欲しい女の子は一人だけだ。

 

「ごめん、もう先約がいるから」

 

「そうですか」

女の子達は意外にあっさり引き下がった。

 

一体、なんだったんだ?

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

そして、翌日――。

卒業式の当日も数人の女の子から同じ様に第二ボタンをくれと言われた。

 

(ひょっとして……まさかのモテ期か?)

 

 

「おはよう、イズミ。どうしたの? にやにやして気持ち悪い」

教室に入ると、いきなり織田ちゃんに言われた。

 

「おぃっす。てか、気持ち悪いって……失礼な」

 

「だって、無言でにやけた顔しながら教室に入って来るんだもん。怖いよ」

 

「俺、そんなににやけてた?」

 

「うん、なんかいい事でもあったの?」

 

「いやー、なんかよくわかんねぇんだけど、俺、モテ期みたい♪」

 

「はぁ〜?」

 

「昨日から数人の女の子に『先輩、第二ボタンください』って言われてさー」

 

「へぇー、それで鼻の下伸ばしてんだ?」

 

「伸びてねぇし」

 

「伸びてたよー、その証拠ににやにやしてたじゃん」

 

「し、してない」

そりゃあ、誰だってこんな状況、悪い気はしないだろう。

鼻の下だって多少は伸びる……事もあるだろう。

 

「鈴ちゃんに言いつけちゃおっと♪」

 

「っ!」

それはマズい。

 

「いや、別に俺、第二ボタンはまだ誰にもあげてないし」

 

「当たり前でしょ? そんな子達にあげてたら、それこそホントに鈴ちゃん泣くよ?」

織田ちゃんはそう言うと呆れたように溜め息を吐いた。

 

「あのさ、イズミは何にも知らないみたいだから教えてあげるけど、

 その声を掛けてきた子達って多分、全員“第二ボタンコレクター”だよ」

 

「え……何、それ?」

 

「要するに卒業生の第二ボタンを誰彼構わず集めて何個集めたか自慢するのよ」

 

「へ? 意味がわからん」

 

「つまり、早い話がイズミはモテ期なんじゃなくてただの“カモ”」

 

「カ、カモ〜?」

(マジか……)

 

「そーゆー子達はどれだけ第二ボタンを貰ったかを競って遊んでるだけなんだから、

 絶対あげちゃダメよ?」

 

「お、おぅ」

 

「まぁ、イズミは大丈夫だとは思ってたけど、でも、さっきのにやけ様だと危なかったねー?」

織田ちゃんはそう言うと意地悪そうにプププッと笑った。

 

少しでも浮かれた俺がバカだった……。

 

しかし、その“バカな男”は俺だけじゃなかった。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

「おぃっすー♪」

卒業式の後、シゲが俺達の教室にやって来た。

 

「おい、シゲ……おまえ、第二ボタンどうしたんだ?」

超ご機嫌顔のシゲの学ランには第二ボタンがなかった。

 

「あ、気付いちゃった?」

 

(ま、まさか……)

 

「さっき、そこの廊下でさー、数人の女の子達に囲まれてもう大変♪

 俺の第二ボタンを巡って争奪戦があったんだぜー?」

で、にやにやしながら答えるシゲ。

 

「「……」」

俺と織田ちゃんは顔を見合わせた。

 

「大地、俺、もしかしてモテ期なのかなぁ〜?」

 

「さ、さぁ〜?」

やばい……笑いが出る。

横を見ると織田ちゃんも必死で吹き出しそうになっているのを堪えていた。

 

「この後、女の子に囲まれて告白合戦とかになったらどうしよう?」

 

「知らねぇよー」

駄目だ。

可笑し過ぎる。

 

「俺を巡って女の子達が喧嘩になったら困るしな〜?」

 

(くぅ〜、も、もう駄目だ)

 

「「ぎゃっははははははーっ」」

そして、とうとう俺と織田ちゃんは同時に吹き出した。

 

「何だよ、二人ともー」

「い、いや、なんでもないっ」

「そうそう、なんでもない、なんでもない♪」

「もしかして俺がモテ期だから羨ましいのかー?」

シゲよ、もうやめてくれっ。

笑いが止まらん。

 

「シゲ、おまえって幸せな奴だなー」

世の中、知らない方が幸せな事もある。

 

こいつは俺よりバカだった――。

 

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