Calling 第33話 MVP -1-

 

 

「や、やっぱり……私、行かない方がよくないかなぁ……?」

私は和泉沢先輩達の控室に行くのを躊躇していた。

 

「もぉー、“彼女”の鈴ちゃんが行かなくてどうするの?

 誰が和泉沢先輩を元気付けてあげられるのよ?」

 

「う、うん……でもぉー……」

試合が終わってかれこれもう一時間近くが経過している。

それでも私が控室のドアをノック出来ないのは試合が終わった後の

和泉沢先輩の後姿がとても声を掛けられる雰囲気じゃなかったから。

 

観客席から見えた和泉沢先輩はコートから出た後、俯いてタオルを顔に押し当てながら

控室に戻って行った。

そんな姿を目にしたら、とても声なんて掛けられないと思った――。

 

……ガチャッ……――、

 

不意に控室のドアが開いて私と朋ちゃんは中から出てきた人物と目が合った。

 

(あ……)

高津先輩だ。

 

高津先輩の後ろからは次々と他の部員達も出てきて、最後に宮田先輩が出てくると

ドアをパタンと閉めた。

 

「宮田先輩っ」

朋ちゃんはすぐに宮田先輩に駆け寄って行った。

 

(あれ? 和泉沢先輩がいない)

控室から出てきた部員達の中に和泉沢先輩の姿はなかった。

 

(まだ中にいるのかな?)

 

「鈴」

すると、高津先輩が近づいてきた。

 

「お疲れ様でした。あ、あの……和泉沢先輩はー……」

 

「……まだ中にいる」

 

「そうですか……じゃあ、ここで待ってます」

 

「いや、あいつ出て来ないと思うよ?」

 

「えっ?」

 

「鈴が行ってやらないと多分、出て来ないかも。だから行ってやって?

 ものすごーく落ち込んでるから」

 

「で、でも……」

 

「中にはもう大地一人しかいないから」

高津先輩はそう言うと「んじゃな、大地の事は任せたから、後よろしくー」と

手を振りながら帰って行った。

 

(和泉沢先輩、そんなに落ち込んでるんだ?)

そんな事を言われるとますます中に入り辛い。

しかし、そんなに落ち込んでる先輩を放って帰るのもどうかと思うし。

 

(ど、どうしよう……高津先輩に「任せた」って言われちゃったし……)

私はドアの前でしばらく考え込んだ――。

 

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