言葉のかわりに -特別番外編・ついで? 1-

 

 

12月、クリスマスにあるライブのリハーサルの合い間――、

 

「もしもし、俺」

 

『うん』

唯に電話をすると珍しくすぐに出た。

“珍しく”……というのは、いつも電話をしても

仕事中で出られなかったり、寝ていたりするから。

 

唯は相変わらず世界中をあちこち飛び回っている。

だから最初の一ヶ月くらいは唯が今いる所は何時だろう?

朝か昼か、それとも夜か……?

そういうのを気にして、メールしか出来なかった。

それで唯が時差なんて気にしなくていいからと言ってくれたのだが、

それでも結構、唯が電話に出ない事もあるのだ。

 

「寝てた?」

 

電話の向こうはやけに静かだった。

 

(唯の方は夜中なのかな?)

 

『ううん、大丈夫』

 

「そっちは今、夜?」

 

『うん、ちょうど0時を過ぎて日付が変わったところ。

 かず君の方は夕方くらい?』

 

「当たり。今、ライブのリハやっててその休憩中なんだ。

 唯はもう仕事終わった?」

 

『うん、お仕事終わってマンションに帰って来たところ』

 

「そっか。お疲……」

「おーい、和磨ー、続きやるぞー!」

唯とまったり話しているとスタジオのドアが開き、

そこから拓未が顔だけを出して俺を呼んだ。

 

『かず君、呼ばれてる』

その声が唯にも聞こえたのか、電話の向こうでアハハと笑っていた。

 

「ごめん、ゆっくり話せなくて」

 

『ううん。リハーサル、頑張ってね』

 

「うん」

 

(はぁー、まだ5分も話していなのに……)

 

 

「あれ? なんで不機嫌になってんだ?」

電話を切り、再びスタジオに入った俺に拓未が不思議そうに言った。

 

「いや……別に」

そう……別に拓未が悪いわけじゃない。

こいつはただ、俺を呼びに来ただけだ。

わかってはいるけれど、つい不機嫌顔になってしまった。

 

 

 

 

そして、リハーサルが終わって俺の車で拓未と一緒にマンションに帰っていると、

「和磨、おまえ来週の11日、空いてるよな?」

不意にそんな事を聞かれた。

 

「あ?」

11日と言えば俺の誕生日だ。

拓未が“空いてるよな?”と聞いたのは誕生日だけど唯は日本にいないし、

だからと言って他の誰かと飲みに行く予定もないと思ったからだろう。

 

「“クリスマス会”やろうぜ」

 

「はぁっ?」

 

「いや、今年のクリスマスはさー、ライブがあるから

 『クリスマス会ができないね』って香奈が言うわけよ。

 でさ、それなら前倒しでちょっと早めの

 “クリスマス会”をやろうと思って。

 そしたらついでに『篠原くんのお誕生日会もやろう!』

 ……て、香奈が言い出してさ」

 

「え……い、いいよ。俺の誕生日会なんて」

 

「まぁそう言うな。香奈はもうすっかり乗り気なんだから」

 

「……」

 

「というわけだから、11日の夜は空けたままにしといてくれよ」

 

「……わかった」

この俺がどーして、こいつらカップルの“クリスマス会”に参加して

“ついで”に誕生日を祝って貰わなきゃいけないんだよ……と、

正直思ったが、誕生日に恋人にも会えず一人部屋の中で

ビール片手に寂しくテレビを見ている事を考えれば

多少の暇つぶしにはなると思い、とりあえず首を縦に振った。

 

(つーか、上木さんも相変わらず考えることが謎だな……)

 

拓未の彼女・上木香奈と俺とはなんだかんだともう友達付き合いは長い。

しかし、俺は未だに上木さんの事がよくわからない。

ただわかっている事と言えば、“悪い人ではない”という事くらいだった。

 

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