First Kiss −First Love・3−

 

 

―――数日後。

朝から快晴のこの日は『大自然公園』とか言う場所に遠足に行く。

 

そういえば・・・“あの子”と出会った日も

こんな風に朝からよく晴れてたな・・・。

 

俺はふとあのホワイトデーに出会った女の子の事を思い出した。

 

・・・あ・・・っ!?

 

そうだ・・・あの瞳・・・

 

“あの子”だ。

でも、待てよ・・・。

 

あの時、眼鏡なんてかけてなかったし、髪も長かった。

まぁ、切ったのかもしれないけど・・・あんなにバッサリと?

 

平野さんの顔・・・じっくり見る機会でもあればいいけれど・・・

バスに乗る時、さり気なく近くに座ってみようかな。

 

・・・と、思っていたら・・・

「ソウ君、一緒に座ろっ。」と、あっさり女子共に捕まってしまった・・・。

 

 

俺は結局、一番後ろの席に連れて行かれ、ハーレム状態になった。

そして、俺と同じ様に一番後ろの席でハーレム状態になっているヤツがいた。

高杉だ・・・。

 

高杉はなんだか嬉しそうな顔をしている。

まぁ、こいつはいつも女子共に囲まれててもまったく嫌な顔もしないから

女好きなのかもしれない。

だけど俺は正直、地獄だ。

 

ふと、前の方を見ると平野さんと藤村さんは後ろに来る様子もなく、

むしろ担任と男子達に囲まれ逆ハーレム状態になっていた。

 

「・・・。」

 

平野さんの近くに行きたかったな・・・。

 

 

『大自然公園』に着いてからも俺は女子共から解放される事はなかった。

昼メシを食べた後もずっとバスの中でおしゃべり。

しかもなぜか他のクラスの女子まで来ている。

 

「なぁ、天気いいし外歩かない?」

 

もう限界だ・・・外の空気が吸いたい・・・。

 

そう思って提案してみた。

だけど、女子共から返って来た返事は・・・

「えー、疲れるからヤダ。」

「日焼けするのヤダしー。」

「汗かきそー。」

 

えー・・・。

 

「・・・あ、そー。」

なんか逃げる方法ねぇかなー。

 

すんなり怪しまれずに抜け出せて、こいつらが追っかけて来れない所・・・

 

おぉ・・・っ!?

そーだっ。

 

「ちとトイレ。」

 

そーだー、そーだ。

男子トイレならこいつらは入って来ないし、怪しまれない。

 

「早く帰って来てねー。」

「はいはい。」

 

集合時間まではもう帰らねぇよー。

 

 

やっとの事でバスから抜け出した俺は、簡単に捕まらないように

ハイキングコースの方へ逃げた。

結構、勾配があるから追いかけてくるにしても女の子にはちょっとキツい。

 

 

誰も来ないだろうし、いないだろう・・・

そう思いながら登って行くと、人影が見えた。

 

・・・?

 

誰だろう?

女の子・・・?

 

華奢な後姿で女の子だという事はわかった。

どうやらその子はスケッチブックを持っているみたいだ。

絵を描いているらしい。

俺は少しずつ近づいた。

 

あ・・・平野さんだ。

 

「すげーっ!絵、上手いじゃん!」

スケッチブックを覗き込んでみると、目の前の風景がそのまま描かれていた。

思わず出た俺の声に振り向いた彼女は驚いた顔で俺を見上げた。

 

「そんなに驚いた?」

ぽかーんと口を開けている顔がおもしろくてつい吹き出した。

 

・・・てか、藤村さんがいないな?

 

「一人?藤村さんは?」

 

「あ・・・彼氏とデートしてるよ。」

 

「へぇー、藤村さん彼氏いるんだ?」

どうりで俺や高杉に興味がないワケだ。

 

・・・てコトは平野さんも彼氏いるのかな?

 

「平野さんは?デートしないの?」

 

違う学校に彼氏がいるとか?

 

「・・・彼氏なんていないし。」

 

「えっ!?そうなの?意外!」

俺がそう言うと平野さんはなんだかビミョーな顔をした。

 

「平野さん、絶対彼氏いると思ってた。」

「なんで?」

「だって、可愛いし。」

「誰が?」

「平野さんが。」

「どこが?」

「顔。」

「またまた冗談ばっかり。」

自分が“可愛い”という自覚がまるでないのか

平野さんは真顔で言った。

 

「なんで?」

俺はチャンスと思い、平野さんの顔をじっくり見ようと顔を思いっきり近づけた。

 

「うん・・・やっぱり・・・」

そして確信した。

 

“あの子”だ・・・。

 

また会えた・・・っ。

 

「目とか大きくてすごく綺麗だよ?可愛いじゃん。」

俺がそう言うと平野さんは顔を赤くした。

 

プッ・・・可愛い。

 

「・・・そ、そういえば、二ノ宮くん一人?」

平野さんはまだ少し赤い顔で話題転換した。

 

「うん、逃げてきた。なんか、他のクラスの子まで来ちゃってさー。

 せっかく、こんな晴れた日に綺麗な場所に来てるっていうのに

 ずっとバスの中で捕まっててさ。

 外に行こうって言っても日焼けするからイヤだとか、

 疲れるからイヤだとか・・・そんなんばっか。

 んで、トイレに行くって言ってバスから脱走してきた。」

 

「それで・・・こんなトコまで?」

 

「うん。だってすぐ見つかるようなトコにいたら

 またバスに監禁されちゃうだろ?」

 

「確かに・・・。」

 

「けど、びっくりしたよ。

 誰もいないと思ってここまで来てみたら平野さんがいたから。」

俺がそう言うと平野さんがまた複雑な表情をした。

 

もしかして俺ががっかりしたと思ったのかな?

 

「あ・・・がっかりしたって意味じゃないよ?

 むしろ俺的にはラッキーだし。」

 

「どうして?」

 

だって、こうして二人で話が出来たから“あの子”だってわかったし。

 

「平野さんと話したコトってまだ一度もなかったから。」

 

てか、平野さん・・・俺の事憶えてないのかな?

すっかり忘れたとか・・・?

 

それとも・・・

 

「・・・もしかして・・・俺の事嫌い?」

 

「なんでそう思うの?」

 

「だって、同じクラスなのに全然話しかけてきてくれないし。」

 

「用事がないし。」

 

「他の女の子はなくても話しかけてきてくれるよ?」

俺がそう言うと平野さんはクスクスと笑いながら

「嫌いだったら今こうして話してないよ。」

と言った。

 

それもそっか・・・。

じゃあ、とりあえずは嫌われてはいないのかな。

 

・・・ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ・・・

 

アラーム?

 

「そろそろ戻らなきゃ。」

 

「もう、そんな時間?」

 

「下りるの時間かかりそうだから、早めに戻らないと集合時間に遅れちゃう。」

 

「えー、まだ平気だろ?」

せっかく平野さんと打ち解けてきたのにな。

 

「二ノ宮くんはせっかくここまで登ってきたんだし、ごゆっくり。」

平野さんはそう言うとスケッチブックを持って立ち上がった。

 

一人で下りる気なのか?

 

「いいよ。俺も一緒に下りる。」

ここに来るまでは滑りやすいところや大きな段差もあった。

女の子一人で下りるにはちょっと危ない。

だから俺も一緒に下りる事にした。

 

 

二人でバスが見える駐車場まで下りると

「あ、あの・・・ありがと。」

と、少し小さな声で平野さんが言った。

 

「うん。」

正直、ちゃんと“ありがとう”なんて言ってくれるとは

思っていなかった。

結構・・・嬉しいかも。

 

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