First Kiss −First Love・28−

 

 

コンテストが終わって控室に戻ると

琴美はすでにいなかった。

俺が客席で女子共に捕まっているうちに

ウィッグも外し、メイクも落としてもうどこかへ行ったみたいだ。

 

高杉もいない。

 

そういえば、客席で榎本さんに「高杉くんは?」って、

聞かれたな。

いつも目敏く高杉を見つけ出すのに。

 

琴美もいない、

 

高杉もいない・・・

 

なんとなく、嫌な予感がした。

 

俺は急いで模擬店に戻った―――。

 

 

模擬店の裏に行くと榎本さんもいつの間にか戻って来ていた。

そして、「高杉くん、どこー?」と捜し回っていた。

榎本さんが高杉を捜しているという事は

ここに高杉はいないという事か。

琴美は・・・

 

「あ、ねぇ琴美は?戻って来てない?」

俺は近くにいた藤村さんにに聞いた。

 

「んー?まだ戻って来てないと思うけどー?

 まぁ、そろそろ模擬店も終わるから

 そのうち戻ってくるんじゃない?」

 

「そっか・・・。」

 

二人ともいない・・・

 

琴美の携帯を鳴らしてみるけれど出る様子がない。

 

高杉が琴美に告るとしたら・・・

体育館の裏か校舎の屋上か。

俺達一年生と二年生の教室がある第一校舎の

屋上は確か何かの模擬店をやっている。

だとしたら第二校舎の方か?

 

 

第二校舎に向かう途中、第一体育館の裏も覗いてみた。

 

いないな・・・。

 

第二体育館の裏もいない。

後は第二校舎の屋上だ。

 

4階建ての校舎の階段がやけに長く感じた。

一段飛ばしで駆け上がって行っても気持ちばかりが焦ってしまう。

 

 

そして、階段を上りきり、開けられた扉から風が吹いてきて屋上が見えた。

 

そこには高杉がいた―――。

 

「考えてくれた?」

すると高杉の声が聞こえてきた。

俺は咄嗟に扉の影に隠れた。

 

「・・・で、でも高杉くん、彼女いるでしょ?

 昨日も一緒に模擬店廻ってたじゃない。」

 

琴美の声だ。

 

「それがさー、昨日別れちゃったんだよねー。」

 

「え・・・。」

 

・・・ヤバい。

ホントに告ってる?

 

「それでさ・・・」

「で、でも、もう新しい子がいるんじゃないの?」

「まだ今のところフリー。」

「・・・。」

琴美が黙り込んだ。

俺はごくりと息を呑んだ。

 

マズい・・・。

 

「平野さん・・・前に俺の事、好きって言ってくれたよね?」

 

え・・・?

琴美が?

 

琴美の方から高杉に告った事があるのか?

 

「俺と付き合わない?」

そして高杉は自信満々に言った。

 

「・・・。」

琴美はすぐには答えないでいた。

 

「・・・高杉くん・・・あたし・・・」

「高杉!」

居た堪れなくなって俺は扉の影から飛び出した。

すると高杉は「・・・なんだよっ?」と顔を顰めた。

 

「模擬店、そろそろ終わるってよ。」

とりあえず適当に誤魔化した。

 

「あ、そう。」

 

「つーか、さっきから榎本さんが『高杉くん、どこに行った?』って

 騒いでたから早く戻ってやれよ。」

 

「えー。」

高杉は思いっきり嫌そうな顔をし、「んじゃ、行こうぜ。」と

琴美に視線を向けた。

 

だけど琴美は高杉と目を合わさないようにしながら、

「あ、えーと・・・あたし、先に美術部の方に行くから・・・。」

と、少しだけ俯いた。

 

「そう・・・じゃあ先に戻るわ。」

高杉もそんな琴美の様子を察してか、くるりと背を向けると

スタスタと戻っていった。

 

とりあえず、琴美の高杉への返事は阻止できた。

 

できたけど・・・

 

 

「・・・琴美。」

 

これ以上、俺も黙っていられないと思った。

 

「ん?」

 

「高杉と何話してたの?」

 

「せ・・・」

「世間話?」

きっと琴美の事だからまた“世間話”と答える事はわかっていた。

だから、琴美の口からその台詞が出る前に俺が言うと

琴美は俺と目を合わさず「・・・うん。」と言った。

 

「・・・なんで嘘つくんだよ?」

俺がそう言うと琴美が驚いた顔で俺を見上げた。

 

「・・・あいつと付き合うのか?」

 

「宗・・・聞いてたの・・・?」

 

「・・・ごめん・・・立ち聞きするつもりはなかったんだけど・・・」

つもりはなかったけど少しの間、隠れて聞いていたのは否めない。

 

「琴美・・・高杉と本気で付き合うつもりなのか?」

 

「・・・宗には・・・関係ないじゃない・・・。」

 

「高杉がどんなヤツかくらい琴美だってわかってんだろ?」

俺には関係ないと言った琴美の言葉に思わずムカッときた。

 

関係ないワケないだろ?

 

「あいつなんかと付き合うのやめろよ。」

 

 

「そろそろ、行かなきゃ・・・。」

少しの沈黙の後、琴美は逃げるように踵を返した。

 

「琴美・・・!」

俺はこのまま琴美を行かせたくなくて腕を掴んだ。

 

そして、そのまま琴美を抱き寄せてキスをした―――。

 

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