First Kiss −First Love・1−

 

 

―――中学の卒業式が終わって一週間が経った今日・・・

3月14日、ホワイトデー。

 

この日は朝から快晴だったけれど

ブラブラと街を歩き回っている内、

晴れていた空が急に暗くなり始めた。

 

雨、降るかな?

 

空を見上げると、すでに黒くて厚い雲に覆われていた。

 

・・・ポッ・・・ポッ・・・―――

 

そしてとうとう雨が降ってきて、

段々とそれはどしゃ降りへと変わっていった。

 

通り雨かな・・・?

 

そう思って傘を買う気にもなれず、

近くの雑貨屋のテントの下に駆け込んだ。

その瞬間、大きな雷が鳴った。

 

・・・チリン・・・

 

鈴の音・・・?

 

小さく可愛い音を鳴らして地面に落ちたその鈴は

綺麗な桜色のハートの形をしたストラップだった。

恋愛成就のお守りだ。

バレンタインデーの時にどこかの店でチョコレートと一緒に

売っていたのを見かけたことがある。

 

その鈴を落としたのは俺の2,3歩離れたところに立っている

あまり背が高くない綺麗な長い黒髪の女の子だった。

 

その女の子は、そのまま鈴をじっと見つめているだけで

なかなか拾おうとしない。

 

???

なんで拾わないんだろ?

 

 

「・・・はい。」

俺はその子の足元に落ちているストラップを拾いあげ、

目の前に差し出した。

だけど、彼女は受け取ろうとしなかった。

 

「落ちたよ。」

俺はその女の子の掌の上にストラップを乗せた。

 

・・・チリン。

 

小さなハートの鈴のストラップは再び可愛い音を鳴らして

彼女の元へと戻っていった。

 

・・・チリーン・・・。

 

あれ?

 

ストラップがまた地面に落ちた。

どうやらホントに受け取る気がないらしい。

 

「いらないの?」

冗談っぽく言いながら俺はまたすぐにストラップを拾い上げ、

少し俯いたままの彼女に

「じゃあ、これ俺がもらっていい?」

と言うと、黙ったままの彼女は少し驚いた顔をしてパッと顔をあげた。

そして、吸い込まれそうなほどの彼女の黒い瞳と視線が絡み合った。

 

「いらないんでしょ?」

俺が彼女の目の高さまでストラップを持ち上げ、

ブラブラさせながら言うと、彼女は小さくコクンと頷いた。

 

「じゃあ、貰う。」

 

恋愛成就のストラップ・・・

いらなくなった理由はわからないけれど、

俺はその理由よりもその子自身・・・

彼女の事がすごく気になった。

 

「貰ったお礼にさ・・・これ・・・あげる。」

だから、俺は携帯につけていたお気に入りのストラップを

外して彼女の手にギュッと握らせた。

落とさないように。

 

「え・・・いいんですか?」

 

「うん。」

 

「・・・あ、ありがとう・・・ございます。」

 

「こっちこそ、コレありがとう。・・・それじゃ!」

 

きっとまた会える・・・

 

根拠は何もないけれど、なんとなくそう確信して

俺はいつのまにか小降りになり始めた雨の中を走り出した。

 

 

―――夕方。

家に帰った俺はあの子から貰った恋愛成就のストラップを

携帯につけた。

 

・・・チリン・・・。

 

小さなハートの鈴が俺の手の中で鳴った。

 

綺麗な目をした可愛い子だったな・・・。

 

今までこんなに気なる女の子に出会った事がなかった。

中学の時も何人もの女の子に告白されたし、

その中には一般的に見ても所謂“可愛い子”もいた。

だけど、俺はその誰とも付き合う気にはなれなかった。

それが今日、偶然出会った女の子の事が

ずっと頭を離れないでいる。

 

 

その日から俺はこのストラップが目に入る度にあの子の事を思い出していた。

そしてあの子と出会った雑貨屋の前を通る度、彼女の姿を捜した。

 

だけどあの子に会うことはなかった・・・。

 

 

―――4月、高校の入学式。

 

構内の掲示板に張り出されたクラスの振り分けの名簿を見に行くと

1年3組に俺の名前があった。

 

 

教室に入るとすでにほとんどの生徒が席に座っていた。

 

みんなテキトーに座ってるのか。

さて・・・俺はどこに座ろうかな・・・?

 

教室の中を見回して空いている席を探していると、

ちょうど担任の先生が来た。

俺は目の前の空いている席に座った。

 

 

・・・で、HRの前にいきなり席決め。

別にどこでもいい俺は面倒くさいからそのまま動かずにいた。

すると、なぜか周りは女子ばっかりになった。

 

そして、クラスの中には俺と同じ様に女子に囲まれている奴がいた。

 

高杉和也。

端整な顔立ちをしているいかにもモテそうな男だ。

 

クラス中の女子達は俺とその高杉の周りに集まった。

 

・・・と、ある二人を除いて。

 

一人は藤村恵ちゃん。

一見、優しそうだけど実は少し気が強そうな子だ。

 

そして、もう一人はその隣にいる平野琴美ちゃん。

 

平野さんと会うのは実はこの日が初めてじゃなかった。

あの雑貨屋の前を通った時、あの子の事が気になって

姿を捜していた時に何度か彼女を見かけた事があったから。

彼女の方は多分、気付いてないだろうけど。

 

黒い髪に黒い瞳、黒縁眼鏡が印象的な真面目そうな女の子。

俺は特にその黒縁眼鏡の奥・・・大きくて綺麗な瞳が印象に残った。

 

平野さんと藤村さんも最初に座った席から動いていなかった。

他の女の子達と違って、俺と高杉には興味がないみたいだ。

だから余計に気になったのかもしれない。

 

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