誠の恋 -First Kiss番外編 4-

 

 

そうして、みんなで焼きそばを作り始めた時――、

 

「わーっ!? 比嘉ちゃん、それ、どうなってんのーっ!!」

藤村先輩の声が聞こえた。

 

「す、すみませんっ、実は料理、苦手で……っ」

俺が振り向くと比嘉さんが鉄板の前でワタワタしていた。

 

「誠、メグちゃん達の方を助けてやって」

シュウさん達の焼きそばをワサワサと作りながら姉ちゃんが言う。

 

「あいよっ」

これで堂々と比嘉さんの傍に行ける。

俺は彼女の所へ飛んで行った。

 

「俺、代わります」

そう言って比嘉さんが持っているコテを受け取る。

だけど、焼きそばを混ぜようとするとキャベツや肉、麺が鉄板に焦げ付いていた。

どうやら、そもそも油を引いていなくてこうなったようだ。

ならば、まずは油を足さなければ。

 

「誠くん、上手いねー」

油を足して具材と麺を混ぜて炒めながら塩とこしょうで軽く下味をつけていると藤村先輩が横から覗きながら言った。

 

「いっつも姉ちゃんに手伝わされてますからね」

俺は姉ちゃんがご飯を作る時によく助手をやらされている。

そのおかげで今では簡単な料理はだいたい出来るようになったのだ。

 

 

「完成っす!」

 

「「「「「「わー♪」」」」」」

焼きそばが出来ると鉄板の周りにいた数人から拍手が沸き起こった。

 

(いやいや、そんな拍手する程の事じゃないし)

 

「誠くんも一緒に食べるでしょ?」

みんなのお皿に焼きそばを取り分けていると藤村先輩が俺の分の新しい取り皿と割り箸を用意してくれた。

 

「はい」

もちろん、俺はその取り皿を受け取った。

だって、比嘉さんと一緒に焼きそばが食べられるんだもん。

 

「美味しい♪」

俺の隣では比嘉さんがにこにこしながら焼きそばを食べていた。

 

(やった♪ 大成功!)

俺は心の中でガッツポーズをした。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

その日の夜――、

大広間の窓から海を眺めているとシュウさんがどこかへ歩いて行くのが見えた。

 

(あ、そっか、今から姉ちゃんとデートだ)

シュウさんと姉ちゃんは毎晩一緒に海を眺めている。

けど、大広間の窓からは見えない場所で会っているあたりはシュウさんの計算だろう。

だって、姉ちゃんにはこういう計算は出来ないから。

 

(俺も外の風に当たって来よっかなー)

 

 

民宿の玄関を出ると潮の香りがした。

いや、正確に言うと民宿は海の目の前にあるから常に潮の香りはしている。

それが外に出るとより一層強く感じられるのだ。

 

(小さい頃は貴兄とよくここで釣りをしたなぁー)

釣った魚を叔父さんと叔母さんが捌いてくれて刺身や煮付け、塩焼きなんかにしてくれて食べさせてくれた。

その新鮮な味を知っているから普通にスーパーで売っている魚はあまり好きじゃないのかもしれない。

 

(いや……食材は元より、調理をする母さんの腕に問題があるのか?)

「……て、そんな事言ったら可哀想だな」

ポロリと出た独り言。

 

「誰が可哀想なの?」

すると背後から声がした。

一瞬、母さんかと思ったけれど、そんな訳はない。

 

「あ……比嘉さん」

 

「隣、座ってもいい?」

 

「は、はい」

俺がそう返事をすると比嘉さんは俺の隣に腰を下ろした。

 

「二ノ宮先輩は?」

いつも俺がシュウさんにくっついているから、比嘉さんは俺が一人でいる事に疑問を抱いたらしい。

 

「シュウさんなら姉ちゃんと多分あっちの方でデートしてますよ」

 

「平野先輩と?」

 

「シュウさんと姉ちゃん、付き合ってるんすよ」

 

「えっ、そうだったの? 全然知らなかった。だから平野くんがこの合宿に参加してるんだ?」

 

「あ、いえ、最初から参加してた訳じゃなくて、姉ちゃんのピンチヒッターで俺が呼ばれて、

 姉ちゃんが復活して俺は家に戻るはずだったんですけど、シュウさん達がちょうど合宿してたから、

 練習を見学させてくださいって先生にお願いしたら『練習にも参加していいよ』って言ってくれたんです」

 

「岡嶋先生、太っ腹ー」

 

「俺が来年、姉ちゃんと同じ高校を受けたいって言ったら、それならって参加させて貰える事になったんです」

 

「うちの学校受けるの?」

 

「はい、他に行きたい高校もないし、だったらシュウさんと一緒にプレイしたいから、

 受けようかなーって」

 

「二ノ宮先輩、姉弟で好かれてるんだ?」

クスッと笑う比嘉さん。

 

「去年、姉ちゃんがシュウさんの練習試合を観に行く時に一緒に連れて行って貰ったんですけど、

 その時に初めてシュウさんのプレイを観て感激したんですよ」

 

「二ノ宮先輩、上手いもんね。じゃあ、来年からは私とも同じ体育館で部活する事になるんだね?」

 

「でも、それって俺が入試に受からないと駄目ですよ?」

 

「そうだけどー……、じゃあ、受験勉強を頑張れるように時々、励ましてあげる」

 

「へ? どうやって、ですか?」

 

「電話とかメールとか。平野くんの携帯番号とメアド教えて?」

そう言って携帯電話をポケットから出した比嘉さん。

 

「えーと……俺……、携帯持ってないっす。まだ、中学生なもんで……」

 

「あ……そっか。えーと、じゃあ、パソコンとかは?」

 

「姉ちゃんと一緒に使ってるのならありますよ」

 

「そっちのメアドは?」

 

「一応、自分専用のはあります」

 

「じゃ、それ教えて?」

 

「は、はい」

なんだか、とんでもなく嬉しいんだけど驚きの展開だ――。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

数日後――、

今日でシュウさん達のバスケ部は合宿終了。

本当なら俺も明日は家に帰るところなんだけれど、実はここの民宿とも古い付き合いがある

地元の親子二代で漁師をしているおじさんが、ぎっくり腰で漁に出られなくなったとかで

貴兄がヘルプでそのおじさんの代わりに三日程船に乗る事になったらしく、

俺が貴兄の代わりに民宿のお手伝いを叔父さん達に頼まれた。

こんな風に地元の人達で助け合っているから、食材を安く譲って貰ったり出来るのだろう。

 

「了解! 貴兄程役には立てないだろうけど頑張る!」

俺は民宿のお手伝いを二つ返事でOKした。

それに俺の我が侭でシュウさん達の合宿にも参加させて貰って散々お世話になったし。

何より、比嘉さんと一緒に居られる。

 

まぁ……本音は主に後者の方なんだけど――。

 

 

そして夜、シュウさんがやけにシュンとしていた。

 

「どうしたんすか?」

気になって声を掛けてみる。

 

「はぁ……、明日からまた琴美と会えなくなるんだと思うと憂鬱で……」

 

「なぁ〜んだ、そんな事っすか」

 

「何言ってんだよ、誠! これは大問題だぞっ!」

ズズィッと顔を近付けて訴えるシュウさん。

 

「いいよなー、誠は。家に帰れば琴美に会えるんだから……」

……で、また溜め息を吐くシュウさん。

 

「琴美が作った料理も食べ放題だし」

 

(シュウさんて、本当に姉ちゃんの事が好きなんだなー)

弟の俺にとってはいつも口うるさい姉。

だけど、確かに姉ちゃんは料理は上手い方なんだと思う。

よく母さんと一緒にご飯を作っているし、休みの日もたまにクッキーとか焼いてくれる。

そういう意味ではちょっと自慢出来る姉かな?

絵も上手いし。

ただ、いろんな意味でものすごく鈍いけど――。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

そして俺は比嘉さんとは特に何もないまま三日が過ぎ、家に戻った――。

 

(夏休みの宿題の続きやんなきゃな……)

宿題は民宿にも持って行っていた。

しかし、シュウさん達の合宿に参加させて貰う事になり、その後、貴兄のピンチヒッターをしていたから

殆ど捗っていなかった。

 

問題集なんかはなんとかなるとして、自由研究をどうするかが俺にとって大きな問題だった。

“自由研究”というだけあって何を題材にするかも自由。

でも、それが逆に何をどう研究していいのかわからないのだ。

 

こんな時はネットで調べるのが一番。

俺は姉ちゃんと共同で使っているノートパソコンの電源を入れてインターネットのブラウザを起動させた。

念の為、メールもチェック。

すると、新着メールのアイコンが出ていた。

 

(あれ?)

俺のパソコンのメアドを知っている人間は限られている。

一緒にメアドの設定をした家族と学校の友達、後は比嘉さん。

 

けれど、家族から態々パソコンの方にメールは送らないだろう。

それに今までだって新着メールを確認したらスパムだったというオチは何回もある。

今回もどうせスパムメールだろうと思っていると、

 

“こんにちは、比嘉です”

 

タイトルが目に付いて驚いた。

 

(比嘉さんっ?)

俺はすぐに本文を開いた。

 

−−−−−−−−−−

合宿と民宿のお手伝いお疲れ様。

もうそろそろお家に着いた頃かな?

私の方は今、お昼ご飯を食べた後の休憩中。

今日はカレーだったよ。(^-^)

平野くんも食べてから帰れば良かったのに。

 

ran♪

−−−−−−−−−−

 

(やった! ホントにメールくれた♪)

 

−−−−−−−−−−

ふっふっふ〜♪

実はそのカレー、俺も今朝食べたんすよ。

て言っても、民宿を出る前に食べたから

遅い朝食ですけど。

でも、家に帰ってみたら母さんが

カレーを作ってました(笑)

インド人並みにカレー好きだから

全然有りなんですけど、

びっくりしました。

 

makoto

−−−−−−−−−−

 

俺は嬉しくて即行返事を返した。

 

−−−−−−−−−−

あはは(^-^)

じゃあ今夜もカレーなんだね。

私もカレー大好きだよ。

平野くんがうちの高校に

合格したら二人でカレーの

食べ歩きに行こう!

 

ran♪

−−−−−−−−−−

 

すると彼女からまたすぐにメールが来た。

 

(やったぁ〜♪)

 

 

そして――、

 

この日から俺と比嘉さんは時々メールをするようになった――。

 

 

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