First Kiss −4−

 

 

「こんなトコで何してるのかと思ったら、絵描いてたんだ?」

振り返ると爽やかな笑顔で立っている二ノ宮くんがいた。

 

あたしがあんぐりと口を開けたままでいると、

「そんなに驚いた?」

とクスクス笑いながら、あたしの隣に腰を下ろした。

 

・・・だって、誰も来ないと思ってたんだもん。

 

「一人?藤村さんは?」

「あ・・・彼氏とデートしてるよ。」

 

メグちゃんに用事でもあったのかな?

 

「へぇー、藤村さん彼氏いるんだ?」

二ノ宮くんはそう言うと

「平野さんは?デートしないの?」

と、有り得ない事を聞いてきた。

 

する相手がいませんけど・・・?

 

「・・・彼氏なんていないし。」

 

「えっ!?そうなの?意外!」

 

・・・はぁ?

あたしは二ノ宮くんのそのリアクションの方が意外なんだけど?

 

「平野さん、絶対彼氏いると思ってた。」

 

何を根拠に?

 

「なんで?」

 

「だって、可愛いし。」

 

・・・はい?

 

「誰が?」

「平野さんが。」

「どこが?」

「顔。」

「またまた冗談ばっかり。」

「なんで?」

二ノ宮くんはそう言うと、ずぃっとあたしに顔を近づけた。

 

「うん・・・やっぱり・・・目とか大きくてすごく綺麗だよ?可愛いじゃん。」

 

あたしは正直、どうしていいかわからなかった。

こんな風に真っ直ぐ見つめられて可愛いとか言われた事なんかないし。

 

てゆーか・・・誰にでも言ってるんじゃないの?

二ノ宮くんも結構チャラ男ぽいし。

真に受けるほうがバカバカしいか・・・。

 

「・・・そ、そういえば、二ノ宮くん一人?」

あたしは動揺しているのをなんとか誤魔化した。

 

「うん、逃げてきた。」

 

逃げてきた?

 

「なんか、他のクラスの子まで来ちゃってさー。」

 

なんだ・・・自慢か。

 

「せっかく、こんな晴れた日に綺麗な場所に来てるっていうのに

 ずっとバスの中で捕まっててさ。

 外に行こうって言っても日焼けするからイヤだとか、

 疲れるからイヤだとか・・・そんなんばっか。」

 

確かにこんなに気持ちのいい空の下にいながら、ずっとバスの中はね。

 

「んで、トイレに行くって言ってバスから脱走してきた。」

そう言うと二ノ宮くんはにやりと悪戯っぽく笑った。

 

「それで・・・こんなトコまで?」

「うん。だってすぐ見つかるようなトコにいたら

 またバスに監禁されちゃうだろ?」

「確かに・・・。」

それはそうだ・・・せっかく逃げ出せたと思ったら、

またすぐに捕まったら地獄だもんね。

 

「けど、びっくりしたよ。

 誰もいないと思ってここまで来てみたら平野さんがいたから。」

 

すいませんねぇ・・・。

 

「あ・・・がっかりしたって意味じゃないよ?」

二ノ宮くんは苦笑しながら言った。

 

あたし・・・顔に出てたのかな?

 

「むしろ俺的にはラッキーだし。」

 

ラッキー?

 

「どうして?」

 

「平野さんと話したコトってまだ一度もなかったから。」

 

そういえば、そうだね。

 

「・・・もしかして・・・俺の事嫌い?」

 

へ・・・?

 

「なんでそう思うの?」

 

別に嫌いじゃないよ?

 

「だって、同じクラスなのに全然話しかけてきてくれないし。」

 

だって、用がないんだもん。

 

「用事がないし。」

 

「他の女の子はなくても話しかけてきてくれるよ?」

 

そりゃ、他の女の子はね。

でも、あたしは違うもん。

 

・・・てか、チャラ男のクセに意外とそーゆートコ気にするんだ?

 

「嫌いだったら今こうして話してないよ。」

あたしは二ノ宮くんがそんなのを気にしていたんだと思うと

なんだか可笑しくてつい笑ってしまった。

 

「そっか。」

二ノ宮くんも柔らかい笑みをあたしに向けた。

 

・・・ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ・・・

 

時計のアラーム・・・。

そういえば集合時間に間に合うように早めに下りようと

セットして置いたんだ。

 

「そろそろ戻らなきゃ。」

あたしはスケッチブックを閉じた。

 

「もう、そんな時間?」

「下りるの時間かかりそうだから、早めに戻らないと集合時間に遅れちゃう。」

「えー、まだ平気だろ?」

そう言って二ノ宮くんは動く気配がない。

 

そりゃ二ノ宮くんの足ならあたしより随分早く下りられるだろうけど。

 

「二ノ宮くんはせっかくここまで登ってきたんだし、ごゆっくり。」

あたしが笑いながらそう言って立ち上がると、

「いいよ。俺も一緒に下りる。」

と言って、二ノ宮くんも立ち上がった。

 

「行こう。」

 

「・・・うん。」

 

二人で登って来た道を戻った。

 

 

バスが止まっている駐車場が見えてきた。

「あ、あの・・・ありがと。」

あたしは二ノ宮くんにお礼を言った。

途中、段差があって危なそうな所や滑りやすそうな斜面で二ノ宮くんが手を貸してくれた。

あたしのペースに合わせてゆっくり一緒に下りてくれたし。

 

「うん。」

二ノ宮くんは小さく頷くとにっこり笑った。

 

やっぱり・・・チャラ男は優しい。

 

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