First Kiss 続編・デザート −5−

 

 

――その日の夜。

風呂からあがると携帯にメールが来ていた。

 

−−−−−−−−−−

今から会えない?

−−−−−−−−−−

 

横川さんからだ。

 

(今からなんて無理に決まってるっしょ?)

だって琴美と会うんだもん。

俺は返信もせずに携帯を閉じて一階へ下りた。

 

ちなみに沖縄に行ったはずの横川さんが何故都内の高校に通っているのかというと、

父親の転勤で再び東京に戻って来たかららしい。

それで携帯番号やメアドもこの前の練習試合の時に、すっごくしつこく訊かれ、

仕方なく俺は教えたのだった。

 

 

「琴美」

民宿の前の海辺に行くと、彼女の方が先に来ていた。

今夜から合宿が終わるまでここで毎晩会う事になっている。

時間は特に決めていない。

琴美の方もいろいろお手伝いがあるし、俺も急なミーティングが入る事もあるからだ。

 

琴美は俺の声に嬉しそうに振り向いて手を振った。

 

「待った?」

 

「ううん、あたしも今来たばっ……」

……RRRRR、RRRRR、RRRRR……

 

琴美がそう言いかけたところで彼女の携帯が短く鳴った。

 

「あ……」

メールを開いて小さく声を発した琴美はすぐに携帯を閉じた。

 

「誰から?」

 

「市川さん」

 

「もしかして……『会いたい』って……言ってきたの?」

俺の質問に琴美はコクンと首を縦に振った。

 

(やっぱり……)

なんとなく、そんな気はした。

それは今日の昼間の練習の時の事、俺達が使っている体育館に横川さんが現れたのだ。

それでF高も隣の民宿で合宿している事を知った。

だから、昼はともかく夜は絶対「会おう」って言ってくると思っていた。

 

「メール、返さないのか?」

 

「だって、なんて返したらいいかわかんないもん。

 今は無理って返したら『じゃあ、何時頃ならいい?』ってメールが来そうだし……」

 

「それもそっか……」

(まぁ、俺もさっき同じ様な事を考えて返さなかったしな)

 

「それより、食後の“デザート”食べたい♪」

 

「デザート?」

俺は『そんなのどこにあるの?』といった顔の琴美に不意打ちでキスをした。

 

「宗っ、誰かに見られちゃったらどうするのっ?」

 

「大丈夫だよ、ここなら俺達がいる大広間の窓からは見えないし」

 

「……わざわざメールで民宿から微妙に離れた場所を指定したと思ったら……そういう事だったの?」

 

「当たり前じゃん♪ それくらいの事は常に考えてないと琴美とチュー出来ないだろ?」

 

「……」

呆れ顔の琴美。

こういう彼女の顔もまた可愛いんだよなー。

 

「“デザート”おかわり♪」

そう言って今度はさっきよりも長いキスをした。

 

「これが食後のデザート?」

 

「そ♪」

琴美は苦笑いしたけれど、これが俺にとっての何よりの“デザート”なのだ――。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

――数日後。

せっかく同じバスケ部が隣の民宿に来ているという事で、またまた昼からF高と

練習試合をする事になった。

 

「宗」

試合前、琴美とは違う声に呼ばれ、俺が振り向くと横川さんが駆け寄って来た。

 

「呼び捨てやめれ」

 

「またそれ〜?」

横川さんはうんざりした顔をした。

それはそうだろう。

夏休み前の練習試合の後も『宗』と呼び捨てにした彼女に『呼び捨てはやめろ』と

何度も言ったんだから。

久しぶりに会ったと思ったら開口一番こんな事を言われたら誰だってうんざりした顔を

するだろう。

わかってはいるけれど、それだけ俺は琴美以外の女子から呼び捨てにされたくないんだ。

 

「マネージャーが自分のチームを放ったらかしにして、こんなトコで敵チームの選手と

 話してちゃマズいんじゃないのか?」

俺はちょっと冷たく言い放った。

もうすぐ試合が始まるから俺自身も集中したいし。

 

「大丈夫、後の準備は一年生部員に任せて来たから」

 

「……」

 

「ねぇ、ちょっと耳貸して」

そして、横川さんは突然何を思ったのか俺に耳を貸せと言い、右手を俺の首に掛け、

左手で耳たぶを軽く引っ張った。

 

「ちょ……っ」

仕方なく横川さんの口元に耳を近づける。

すると彼女は耳たぶから左手を離して首に回し、俺にキスをした。

 

(っ!?)

両腕を思いっきり首に絡ませている所為でなかなか離れられない。

 

……カサッ……、

 

背後で微かに物音がした。

 

(っ!?)

その音が聞こえたのか横川さんはようやく俺を解放した。

すぐさま横川さんから離れ、振り向いてみる。

 

すると、そこにいたのは……

 

「……琴美」

一番見られたくない人に見られてしまった。

 

「……」

琴美は今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめていた。

 

「琴美、今のは……」

 

「……宗のバカッ!」

琴美は俺が言い訳をする前に走り出した。

 

「琴美!」

俺もすぐに後を追おうとした。

だけど、それを横川さんが制した。

 

「離せよっ!」

何か言いたそうな横川さんの腕を振り払い、俺は琴美を追いかけた。

 

「琴美っ!」

彼女が走って行った方向に向かう。

けれど、既に琴美の姿は見えなくなっていた。

 

「お、いたいた、二ノ宮〜っ」

そこへ武田が俺を呼びに来た。

 

「もうすぐ試合始まるぞ、先生が集合しろって」

 

「……」

 

「ほら、早くっ、遅くなると怒られんぞっ? おまえスタメンなんだし」

 

「あ、あぁ……わかった……」

琴美の事は気になるけれど、練習試合とはいえスタメンに選ばれている俺が

私情を挟んでこのまま彼女を追いかける事は出来ない。

俺は仕方なく武田と共に体育館へ戻った――。

 

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