First Kiss 続編・デザート −4−
――その日の夜。
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週末、どこか遊びに行かない?
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市川さんからそんなお誘いのメールが来た。
(えーと……“会う気はある”って言っちゃダメなんだよね?)
あたしは宗に言われた言葉を思い出しながら返事を打った。
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ごめんなさい。
用事があるんです。
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(これならいいかな?)
送信ボタンをポチッとな。
すると、市川さんからの返事はすぐに来た。
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そっか、残念。
じゃあ、また今度。
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“また今度”
その言葉がなければ多分、あたしは返信していただろう。
だけど“また今度”という言葉に“はい”と答えてはいけない気がしてそのまま携帯を閉じた。
◆ ◆ ◆
それから、さらに数日が経ち、あたし達の学校は夏休みに入った。
あたしは例によって八月いっぱい、湘南にある親戚の民宿へお手伝いに行く為、
早々に宿題を片付けようと朝から晩まで机に向かっていた。
その間にも市川さんからメールが来ていた。
そして七月の終わり・三十一日の夜、市川さんから電話が掛かってきた。
『急なんだけど、明日会えないかな?』
「ごめんなさい……あたし、明日から湘南の親戚の家にお手伝いに行くんです」
『湘南に? いつまでそこにいるの?』
「八月いっぱいです」
『そんなに長く? じゃあ、もしかしたら向こうで会えるかも知れないね?』
「え?」
『俺達も今年の合宿は湘南でやるんだ』
「そうなんですかっ?」
『向こうで会えればいいね♪』
弾んだ声で市川さんが言う。
「……そうですね」
あたしはその声にただそう答えるだけだった。
『ところで“お手伝い”って親戚の家、何か商売でもしてるの?』
「はい、民宿をやっていて中学の頃から夏休みは毎年お手伝いに行ってるんです」
『そっか、民宿のお手伝いで行くなら忙しくて会う暇がないかもしれないね?』
「そうですね」
(よかった……諦めてくれそう)
本当はそんなに忙しくはないのだけれど、あたしはそういう事にしておいた。
◆ ◆ ◆
――八月。
あたしが親戚の民宿へお手伝いに来て三日が経った頃、厨房の窓からお隣の民宿の前に
貸切バスが止まったのが見えた。
どうやら新しい団体客が来たようだ。
バスのドアが開いてぞろぞろと高校生の男子生徒達が降りてくる。
(あれ? あの人、見たことあるなぁ?)
顧問の先生らしき人がバスを降り、なんとなく見覚えのある気がした。
(どこで見たんだっけ……?)
そして一番最後にバスから降りてきたのは……
(っ!?)
あの練習試合の日、宗と一緒に話していた女の子と市川さんだった。
(市川さん達の合宿って、お隣の民宿でやるんだ……)
その日の夜――、
あたしがお風呂に入っている間に市川さんからメールが来ていた。
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今日から湘南で合宿だよ。
琴美ちゃんの親戚の民宿って
どのあたり?
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(“お隣”って答えない方がいいよね?)
市川さんの事、なんだか宗は気にしていたし、メールとか電話はともかく、
会って話したりするのはあんまりしてほしくなさそうだった。
だから、あたしは市川さんのメールには返さないでいた。
◆ ◆ ◆
しかし、翌朝――、
「琴美ちゃんっ?」
厨房のすぐ隣にある食材庫から出たところで誰かの声がした。
その声の方に顔を向けると、お隣の民宿の二階の窓から市川さんが手を振っていた。
「あ……」
(いきなり見つかっちゃった……)
「おはようっ、琴美ちゃんの親戚の民宿って隣だったんだねっ、びっくりした。でも嬉しいよ!」
そう言ってにっこり笑う市川さん。
「市川さん達もお隣で合宿だったんですね」
「これなら、いつでも会えるね♪」
「忙しくなければ……」
だけど幸い昼はずっと練習があるだろうし、夜も今日から宗達が合宿に来る事になっているから
一緒にいれば市川さんと電話やメールをしたり会う事もないだろう。
(あ、でも……)
市川さん達のチームには宗の友達がマネージャーとして付いて来ている。
(宗、あの子と会ったりするのかな? あんまり会ってほしくないな……)
◆ ◆ ◆
午前十時――。
宗達バスケ部を乗せた貸切バスが到着した。
玄関の方が騒がしくなり、大勢の足音は二階の大広間へ。
今年もここが彼らの寝室兼会議室になる。
「琴美♪」
午後十二時、バスケ部の部員達が昼食を摂りに食堂に入って来て宗の声がした。
食事の用意をしながらあたしが手を振ると、彼も嬉しそうに大きく手を振った。
約二週間ぶりの再会だ。
(去年はまさか宗達がここで合宿するなんて思ってもみなくて、すっごく驚いたっけ)
あたしは一年前の事を思い出していた。
宗は昼食を食べ終わった後もずっと食堂のテーブルに座って頬杖をついて、にこにこしながら
あたしが後片付けをしている様子を眺めていた。
「宗、お昼寝しなくて大丈夫なの?」
午後二時からはさっそく練習がある。
去年は確か大広間に戻ってみんなと一緒にお昼寝をしていたはずだ。
「今日はまだ初日だし、全然疲れてないから平気〜♪」
……結局、宗は武田君が呼びに来るまでそうしていたのだった――。