First Kiss 続編・デザート −1−

 

 

俺と琴美が付き合い始めて半年が過ぎ、早くも七ヶ月を過ぎようとしていた

六月のある日の事――。

 

「琴美、さっき明日の練習試合の場所、メールしたんだけど届いた?」

 

「うん、見たよ」

 

「場所わかる?」

明日は他校と練習試合がある。

前回とは違う高校で私立F高校。

今回は俺達の方がその私立F高へ出向くのだ。

俺達バスケ部は全員で一台の貸切バスで行くけれど、応援に来てくれる琴美は

試合開始時間に合わせて公共の交通機関で来るのだが……果たして彼女は

一人で来られるのだろうか?

 

「武田君に地図描いてもらったから大丈夫だと思うよ?」

 

「え……武田に?」

(せっかく俺がちゃんと教えようと思ってたのに……)

 

「これだよー」

そう言って琴美は武田が描いた地図をカバンから出して俺に見せた。

 

「……っ」

俺はその地図を見て絶句した。

 

「こ、琴美……まさかと思うけど、これで場所が理解出来たとか言わないよな?」

 

「うん、わかったよ?」

 

「んな、アホなっ!?」

だって、武田が描いたというその地図には最寄駅とF高校までの道が一本と

いくつかの目印しか描かれていなかったからだ。

いくらなんでも初めて行く場所なのにこれで理解出来る訳がない。

(俺でもわかんないぞ?)

 

「大丈夫だよ、お昼に武田君とパソコンルームでちゃんとした地図を見ながら確認したから」

 

「……二人で?」

 

「うん」

 

「なんで俺んトコに来ないんだよ?」

 

「だって、宗、女子に囲まれてたもん……」

 

「来たの?」

 

「うん、宗に訊こうかと思って行ったんだけど女の子達がいっぱいいたし、

 武田君から相手高校の学校名を聞いてたからパソコンルームで場所を調べようと思って行ったら、

 武田君も来たの」

 

(……て事は、俺は一歩も二歩も出遅れてたのか)

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

――翌日、午後二時。

俺達が貸切バスで会場入りすると、試合会場のF高校の体育館前には

既に数人の女の子達が集まっていた。

 

「俺らより早く会場入りって……」

隣で武田がぼそりと言う。

 

「つーか、おまえが窓際に座ってないからかな? 俺、すんげー睨まれてんだけど?」

 

「気のせいだろ」

 

「だって、みんなおまえの方見て手振ってるし」

 

「……」

(てか、琴美早く来ないかなー)

 

 

そして、体育館に入ってF高バスケ部と顔合わせ。

今日の相手は去年のインターハイ予選では当たらなかったチームでデータはまだない。

今年のインターハイ予選が来週から始まるからお互いデータを集めるにはいい機会だ。

 

「二ノ宮先輩」

試合開始直前、ストレッチをしている俺に後輩が声を掛けて来た。

 

「これ、平野先輩からっす」

そう言って渡されたのは琴美からの差し入れ。

いつものレモンの蜂蜜漬けだ。

これが俺の元に届けられたという事は無事に琴美が到着したのだろう。

 

「サンキュー♪」

今日もタッパー三つ分。

本当なら全部一人で食べたいところだけど。

(てか、琴美、どこにいるかな〜?)

 

一階のコートの周りは大勢の女子共で埋め尽くされている。

おそらくこの中にはいないだろう。

そう思い、二階に視線を移すと数人の女の子とうちの記録係の部員達がいて、その隣に琴美がいた。

 

「琴……」

「琴美ちゃーん!」

俺が琴美に手を振ろうとしていると、横から武田が出て来た。

 

(む……)

 

「お? 二ノ宮、それ、もしかして琴美ちゃんから?」

しかも目敏く俺が持っている差し入れを見つける武田。

 

「お、おぅ」

俺がそう答えると武田はまた琴美に「差し入れありがとー!」と手を振っていた。

その声ににこにこ笑って手を振り返す琴美。

 

またしても俺は出遅れた――。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

「いやぁ〜、圧勝、圧勝♪」

そう言ってヘラヘラしているのは、前半にちょこっとだけ試合に出た武田。

F高チームは毎回地区予選で敗退しているだけあってそんなに強くはなく、

今日は運良く大差で勝てた。

 

「琴美ちゃんの差し入れのおかげかな〜♪」

 

そう、この日もフル出場だった俺は琴美の差し入れに救われた。

これから段々暑くなってくるから、出来れば毎日でも作って欲しいくらいだ。

 

(そうだ、差し入れのお礼ちゃんと言わなきゃな)

二階を見上げると、既に琴美の姿はなかった。

 

(あれ? もう帰ったのかっ? 少しだけでも話したかったのに……)

 

「二ノ宮、琴美ちゃんは?」

武田も琴美の行方を捜しているらしい。

 

「帰ったっぽい」

 

「えー、大丈夫かなぁ?」

 

「?」

 

「いや、行きは多少わかんなくても、おまえ目当てに来る女の子の後ろをついて来ればよかったけど、

 帰りはなー……だってほら、まだほとんどの女の子が残ってるし」

 

「それもそうだな……ちょっと電話してみる」

琴美はものすごい方向音痴という訳ではないけれど、初めて来た場所だからちょっと心配だった。

発信履歴からリダイヤル。

しかし、聞こえてきたのはコール音の代わりに“ただいま電話に出る事が出来ません”という音声。

どうやらマナーモードにしているらしい。

 

「出ない」

 

「あらま。けどまぁ、地図も持ってるし大丈夫かもな」

人を不安にさせておきながら立ち去る男・武田。

 

(こ、こいつ……)

そして、武田の背中を睨んでいると背後から俺を呼ぶ声がした。

 

「宗」

 

(琴美っ♪)

俺はてっきり琴美が片付けが終わるまで待っててくれたんだと思い、にやけた顔で振り向いた。

 

「あ……」

だけど、そこに立っていたのは……、

 

「やっぱり、宗だ♪ 久しぶり! あたしの事、憶えてる?」

俺のファーストキスを奪った女・横川千尋だった――。

 

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