First Kiss 続編・1 on 1 −2−
――翌日、入学式の後。
新入生との対面式で、琴美はいきなり注目の的になった。
今年の二月に行われた絵画コンクールで琴美が出展した作品が佳作に選ばれた。
その時の受賞式の様子と作品が部活紹介の時に多目的ホールのステージの大画面に
スライドで映し出されたのだ。
受賞式の後、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに受け取った賞状と盾を持って
カメラ目線で笑っている琴美。
そして、その後に佳作に選ばれた作品が映し出されると感嘆の声が聞こえた。
満天の星空。
その宙を舞う女の子。
星の一つ一つが丁寧に描かれ、今にも動き出しそうな女の子の紅く長い髪の毛も
一本一本綺麗に描かれている。
でも、この絵を生で見た奴はこの中に何人いるだろうか?
俺は春休みに琴美と一緒に受賞作品の展示会を見に行った。
その時、俺の脳裏に去年の夏の合宿の時に見た星空が浮かんできた。
「これ……湘南?」
俺がそう聞くと、琴美は「うん、よくわかったね?」と驚いていた。
「俺も見たもん……あの星空」
「そっか……」
その後、しばらく手を繋いだまま二人でこの作品を見た。
穴が開くほど。
大画面のスライドで見る作品も悪くはないけど、やっぱり生で見るのとは違う。
それを生で見た俺はちょっと優越感。
しかも作者と二人で見た俺はもっと優越感。
さらに言うと作者は俺の“彼女”。
(かなり、優越感♪)
――放課後。
部活に出ると、なにやらものすごい数の女の子達が第一体育館の中に集まっていた。
(なんだ、なんだ?)
俺達が使っている第一体育館はいつも女子バレー部も一緒に使っている。
だからてっきり女子バレー部の入部希望者かと思っていた。
しかし、その女の子達は全員男子バスケ部のコートの前にいる。
そして、俺がコートの前に行くと耳を劈くような黄色い声が沸きあがった。
「きゃーっ!」
「来たぁっ♪」
「カッコいい〜っ」
一斉に俺の顔を見て騒ぎ始めた女の子達。
(え?)
俺がポカンとしているとクスクス笑いながら武田が傍に来た。
「相変わらず、モテるねー」
「何あれ?」
「おまえのファン」
「は?」
「今日の部活紹介の時に流れたバスケ部のスライドにさ、
おまえが映ってたじゃん?」
「うん」
「それを見た新入生の女の子達がマネージャー希望で来てるんだよ」
「こ、こんなに?」
パッと見ただけで優に20人以上はいる。
「え……で、まさか、全員マネージャーで入るの?」
「マネージャー希望とか言ったって、どーせおまえ目当てなんだし、
彼女がいるって知ったら、さっさと辞めちゃうんじゃないかなぁー。
今、部長が岡嶋先生を呼びに行ってるけど多分全員断るんじゃないか?」
そういえば、確か去年も同じ様な事があった気がする。
その時も岡嶋先生は「マネージャーはいらない」と言って女の子達を一蹴した。
――10分後。
新部長の加納先輩が男子バスケット部の顧問・岡嶋先生と一緒に戻ってきた。
「集合ーっ! マネージャー希望の女子も来てー」
加納先輩の集合命令で部員達とマネージャー希望の女子達が岡嶋先生の前に整列した。
「えー、マネージャーの件だがー……」
岡嶋先生は部員全員と女子達の顔を見回しながら口を開いた。
「ずばり、いらない」
そしてキッパリ言い切った。
……やっぱり。
「そういう訳でマネージャーがやりたいんなら他の部に行ってくれ」
そう言った岡嶋先生の言葉に部員達は誰も異議を唱えない。
みんなもマネージャーなんていらないと思っているからだろう。
しかし、一人の女子が食い下がってきた。
「でも、私、バスケ部のマネージャーがやりたいんです」
「じゃあ、女子バスケ部の方に行けば?」
「私は女子じゃなくて男子バスケ部のマネージャーがやりたいんです。
それに私達の話も聞かないで断わるなんて」
「君だって話をちゃんと聞かないで来ただろ?
部活案内では入部希望者は各顧問に申し出るように言っていたはずだ。
それなのにどうして直接第一体育館まで来たの?」
「そ、それは……」
「まぁ、その辺は他の女子にも同じ事が言えるけど。
とにかく、うちの部はマネージャーはいらないから」
岡嶋先生がそう言うと女の子達は男子バスケ部のマネージャーを諦め、
次々と第一体育館から出て行った。
そして、去り際に聞こえた一言。
「サッカー部行ってみよ♪」
今度は多分……いや、間違いなく高杉目当てだな。
どこまでも不純な動機だ――。