First Kiss 続編・にぃたん −2−

 

 

「琴美、ごめんな。大変だっただろ?」

部活が終わって、いつものように宗と帰っていると

亜理紗ちゃんの手を引きながら疲れた様子で宗が言った。

 

「そんな事ないよ? 亜理紗ちゃん、

 ずっといい子でお絵描きしてたし」

宗が部活に戻った後、亜理紗ちゃんは

あたし達と一緒に絵を描き始めた。

亜理紗ちゃんは絵を描くのが好きなのか

楽しそうにいろんな絵を描いていた。

 

宗の顔やあたしの顔、パパやママの顔、

部員のみんなの顔も描いてくれた。

 

「わがまま言ったり、暴れたりしなかった?」

 

「うん、全然」

 

「なら、よかった」

宗はそう言うとちょっと安心したように笑った。

 

なんだか、今日は時間がゆっくり流れている。

 

亜理紗ちゃんの歩く速度に合わせてるからかな?

 

 

そうして、いつもより時間をかけて駅まで歩いていると

亜理紗ちゃんの歩くスピードがさらに遅くなった。

 

(……?)

 

「亜理紗、眠いのか?」

宗は足を止めて亜理紗ちゃんの顔を覗き込んだ。

すると、亜理紗ちゃんは眠そうな顔でゆっくりとコクンと頷いた。

 

「しょうがないなー、ほら、おんぶしてやるから」

宗は今にも寝てしまいそうな亜理紗ちゃんを負ぶった。

亜理紗ちゃんは宗の背中にしがみつくと

すぐにスゥスゥと寝息を立て始めた。

最初は亜理紗ちゃんの“にぃたん”が宗だとわかって意外だったけど

こうして亜理紗ちゃんをおんぶしている姿を見ると

やっぱりお兄ちゃんなんだなーっと思った。

 

 

「そういえば、宗、あたしの写真、部屋に飾ってるの?」

あたしは亜理紗ちゃんの言葉を思い出した。

 

“にぃたんのおへやにしゃしんがあるのー”

 

「え……亜理紗がなんか言った?」

 

「うん」

 

「……」

宗は少しだけ顔を赤くして黙り込んだ。

 

「……」

で、なんとなくあたしも黙ってしまった。

 

 

「あたしも宗の写真、飾ってるよ?」

少しの沈黙の後、あたしが思い切って言うと

「え?」

と、宗が驚いた顔をした。

 

「学校で毎日会えるのにって、この間誠に笑われたけど」

 

「……うん」

宗はちょっとだけ照れた様に返事をした。

 

 

 

 

電車の中でもあたしと宗はあまり言葉を交わさなかった。

 

今日は本当にゆっくり時間が流れている――。

 

 

そして、電車を降りて駅の改札を抜けて別れる時、

「琴美、明日も学校行く?」

と、聞かれた。

 

「ううん、とりあえずコンクールの作品は

 今日で仕上がったし、今年の部活はもう終わり」

あたしがそう答えると、

「そっかー……じゃあ、当分会えないのかー」

宗は残念そうに言い、

「琴美、こっち」

あたしを駅前の小さな公園の木陰に連れて行った。

 

(???)

 

「HPとMP回復させて?」

「へ?」

「キスしたい」

「ここでっ?」

「うん」

「こ、こんな人がいっぱいいるトコ……」

「大丈夫だって、ここなら人目に付かないから」

 

(だから、あたしをこんなところに連れてきたんだ?)

 

「琴美……」

宗に名前を呼ばれ、顔を上げるとすでに顔が目の前まで近づいていた。

 

「しゅ……」

待って……と言おうとした時にはもう唇を塞がれていた。

 

あたしはそのまま目を閉じた――。

 

 

「あー、にぃたんとことみちゃん、チューしてるー」

「「……っ!?」」

てっきり寝ていると思っていた亜理紗ちゃんの声がして

宗は咄嗟に唇を離した。

亜理紗ちゃんを負ぶったままだったから、背中越しに見ていたのだ。

 

「亜理紗っ、起きてたのか?」

「いま、おっきしたー」

「今のは見なかった事にしろ」

「どうしてー?」

「いいから、他の人に言ったら“おしりペンペン”だからな?」

「あーい」

 

宗は亜理紗ちゃんにしっかり口止めをすると、

「じゃあ、琴美、またな」

と、苦笑いしながら亜理紗ちゃんと一緒に帰って行った。

 

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