First Kiss 続編・にぃたん −1−

 

 

――12月。

冬休みに入ってからもあたしと宗は学校に来ていた。

あたしは来年の2月にある絵画コンクールに出品する作品を描く為。

宗は部活。

そして、美術室で部員のみんなと一緒に作品を仕上げていると

ドアが僅かに開いていてその隙間から“何か”がちらりと

見えたのが視界の端に映った。

 

「……?」

あたしがドアの方に視線を移すと

その“何か”はサッとドアに隠れた。

 

(今、何かいたような……?)

 

「琴美ちゃん、どうしたの?」

あたしがじっとドアの方を見つめていると

秋川先輩が不思議そうな顔をした。

 

「あー、いえ……今なんか、いたようなー?」

 

「えっ? 何が?」

秋川先輩はあたしが指差したドアの方を見た。

すると、ドアの隙間から見えていた“何か”が

またサッと隠れた。

 

「「……」」

あたしと秋川先輩は思わず顔を見合わせた。

その様子を見ていた姉川先輩は口に人差し指を当て、

あたし達に声を出さないように目配せした。

そして、そろりそろりと音を立てないようにドアに近づくと

一気に開け放った。

 

「え……」

 

あたしと秋川先輩、姉川先輩、他の部員のみんなは唖然とした。

 

だって、そこには……

 

小さな女の子が立っていたから。

 

少し茶色い髪のツインテールに赤い服とお揃いの

リボンをつけている可愛らしい女の子。

見た感じ5歳くらいだろうか?

 

「どこから来たの?」

姉川先輩は女の子の目線に合わせるようにしゃがみ、

優しい口調で話しかけた。

 

「……」

しかし、その女の子は何も答えないで

じっとあたしの顔だけを見ている。

 

(う……、なんかガン見されてるんだけど……)

 

すると、女の子があたしの目の前にとことこと歩いて来て

「……ことみちゃん……?」

と、言った。

 

(へ?)

 

「ど、どうして、あたしの名前知ってるの?」

あたしは姉川先輩と同じ様にその女の子の目線に合わせるようにしゃがんだ。

 

「にぃたんのおへやにしゃしんがあるのー」

女の子はそう言うと可愛らしい笑顔を浮かべた。

 

“にぃたん”?

 

部屋に写真?

 

???

 

「んーと、“にぃたん”て、だぁれ?」

 

「ありさのにぃたん」

 

(この子、“ありさ”ちゃんて言うのかー。

 ……て、だから“にぃたん”て、誰?)

 

「もしかして、長谷川先生のお子さんかな?

 たまたま学校に連れて来てるとか」

姉川先輩はそう言うとありさちゃんに、

「今日はパパと一緒に来たの?」

と、聞いた。

すると、ありさちゃんは、

「ううん、にぃたんときたのー」

と、答えた。

 

んー?

 

長谷川先生が“にぃたん”なワケないしー、

“にぃたん”て誰ー?

 

いよいよ、謎になってきた。

 

さて、この子は一体何者なのか……?

 

それより、この子をどうするべきか?

今はそれが問題だった。

 

 

「亜理紗っ」

みんなでこの子をどうしようかと考えていると

美術室の入口から声が聞こえた。

 

「あれ? 宗?」

入口にいたのは宗だった。

 

「今、声が聞こえたから覗いてみたら……ここにいたのかー。

 もうー、突然いなくなったら心配するだろ?」

 

「だって、にぃたん、ちっともあそんでくれないもん」

 

「仕方ないだろ? 俺は部活があるんだし」

 

「やだぁー、つまんない」

ありさちゃんはそう言うと頬を膨らませた。

 

「あ、あのー、宗?」

 

「あー、ごめん、妹なんだ」

 

「宗の妹さん?」

 

「うん」

 

じゃあ、ありさちゃんの“にぃたん”て宗の事だったんだ?

 

 

宗が妹の亜理紗ちゃんを連れて来ていたのは

急にお母さんが出掛けなきゃいけなくなって

誰も亜理紗ちゃんの面倒をみてあげられる人が

いなくなったかららしい。

それで仕方なく部活に連れて来たのだけれど

宗も練習で亜理紗ちゃんにかまってあげられなくて、

気がついたら亜理紗ちゃんがいなくなっていたんだとか。

 

きっと亜理紗ちゃんは退屈していたんだろう。

 

……で、学校の中を一人で探検していたら美術室で楽しそうに絵を描いている

あたし達を発見した……というワケみたいだ。

 

「亜理紗、体育館戻るぞ?」

 

「やだぁっ、ありさ、ここでおねぃちゃんたちと

 おえかきするもんっ」

 

「だめっ、みんなの邪魔になっちゃうだろ?」

 

「いやー、ありさもおえかきするぅー」

 

「亜理紗っ」

宗が少し大きな声を出すと亜理紗ちゃんは

ぎゅっと目を閉じて、ビクッとした。

 

「二ノ宮、俺達なら別に構わないぞ?」

すると、その様子を見かねた姉川先輩が口を開いた。

 

「このまままた体育館の方に連れ戻しても

 また退屈していなくなっちゃうぞ?

 それなら、ここで俺達と一緒に絵を

 描いてるほうがおまえも安心だろ?」

 

「でも、迷惑じゃないですか?」

 

「そんな事ないよ。亜理紗ちゃん、ここなら

 いい子にしてられるよね?」

姉川先輩はニッと笑って亜理紗ちゃんの顔を覗き込んだ。

 

「うんっ」

亜理紗ちゃんは大きく首を縦に振った。

 

 

宗はしばらく考えた後、

「亜理紗、絶対邪魔しちゃダメだぞ?

 みんな大事な絵を描いてるんだから、

 むやみに触ったりして台無しにしたら

 お家に連れて帰ってやらないからな?

 わかったか?」

と、亜理紗ちゃんに言い聞かせた。

そして亜理紗ちゃんが元気よく

「はぁーいっ」

と、返事をすると

「じゃあ、よろしくお願いします。」

宗は頭を下げて体育館に戻っていった。

 

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