Calling 第34話 クエストと報酬 その1 -3-
「やほー、来ちゃった♪」
午前十時過ぎ、織田ちゃんが試合会場に来た。
「おぃっす」
「やっぱ、イズミも来てたんだ?」
織田ちゃんは俺の顔を見るなりニヤッと笑った。
「当たり前だろ〜?」
「鈴ちゃんに怒られなかった?」
「んー、てか、呆れてたっぽい」
「あはは、そーなんだ? で? 誰に教えて貰ったの?」
「まぁ、いろいろと伝を使って」
「ふーん」
「……て、織田ちゃんこそ応援なんかに来てていいのか?」
「同じ受験生で、しかも授業中よく寝てるイズミには言われたくないんけど?」
「いや、俺はホラ、“やればできる子”だから♪」
「“やればできる子”ねぇー?」
織田ちゃんはそう言うとプププッと笑った。
「つーか、鈴の試合が気になって、家で大人しく勉強なんかできねぇっつーの」
「確かに」
「なんだ、織田ちゃんも同じなんじゃん」
鈴は夏休みが終わってからほぼ毎週、大会の予選で試合があった。
そして、その予選を順当に勝ち進み、今日の第一試合に勝てば全国でベスト16位以内に入る。
だから織田ちゃんも気になっていたのだろう。
しかし、鈴はそんな俺と織田ちゃんの想いを知ってか知らないでか、
午前中に行われた第一試合になんなく勝って全国でベスト16の中に入った。
◆ ◆ ◆
「小峯、落ち着いて行け」
「鈴ちゃん、頑張って!」
「ファイトッ!」
午後一時三十分、第二試合の開始時刻。
監督兼顧問の佐藤先生と部員達はコートに入る鈴に向けてエールを送った。
「はいっ、行って来ますっ」
鈴はビシッと右手で敬礼をした。
そして踵を返す瞬間、俺の方に視線を向けた。
「鈴、頑張れよ!」
ホントは声に出してそう言いたかったけど、みんなの前だから鈴が赤面して
集中力が切れてしまってはいけないと思った。
だから目だけで“頑張れよ”と言うと、鈴は少しだけコクッと頷いてコートに入った。
それからすぐに試合が始まった。
相手は前回の大会で負けた高校の一年生だ。
(鈴、苦手意識を持ってなきゃいいけど……)
鈴の表情はまだ落ち着いている。
最初のサーブ権は対戦相手だ。
いきなりサービスエースとか取られなきゃいいけれど。
それは俺以外のみんなも同じ思いだった。
(頑張れ、鈴!)
乾いた音をコートに響かせて鈴は相手のサーブをレシーブして、
そこからしばらくラリーが続いた。
最初にポイントを先取したのは鈴だった。
相手の甘い返球に素早く反応してネットぎりぎりのショットを打ち、
そのボールの速さに相手は手を出せなかった。
(ナイスショット!)
「意外と落ち着いてるな」
「鈴ちゃんは集中力もあるし、それなりに試合経験もあるからね」
織田ちゃんが言ったとおり、少しだけ悔しそうに顔を歪ませた相手に対し、
鈴は表情を崩す事無く、次のサーブに備えてレシーブ位置に戻ってラケットを構えた。
試合は完全に鈴のペースになったように見えた。
しかし、一年生とは言え、さすがに相手も強豪高なだけあってそれからすぐに鈴の弱点を見抜いた。
「さっきからずっとバックショットの方を狙われてるな」
「んー、鈴ちゃんの弱点を見抜かれたみたいね。実はあの子、バックショットが弱いのよ。
どうも苦手なのかいまいち威力に欠けるんだよねー」
「ふーん……」
相手の選手は容赦なく鈴の弱点を鋭く突いて来た。
それでも試合はまだ五部五部といったところだろうか。
ゲームを落としても鈴はあの強烈なサーブで確実にゲームを取り返していた。
そして最終ゲーム……――。