Calling 第34話 クエストと報酬 その1 -2-
――週末、日曜日。
「ねぇ、鈴ちゃん、あれってー……」
私達女子テニス部が試合会場に着き、管理棟から出ると、私の隣を歩いていた
同じ一年生部員のノリちゃんが不思議そうな顔で前方を指差した。
「へ?」
ノリちゃんが指差した方に目を向ける。
すると……
「はろぉ〜♪」
「……えっ? せ、先輩っ!?」
ここにいるはずのない人物が私の目の前に現れ、満面の笑みで手を振っていた。
和泉沢先輩だ。
「『はろぉ〜♪』……て、なんでここにいるんですかぁっ?」
「通りすがりー」
絶対、そんなワケはない。
なぜなら学校を基点としても、この会場と先輩の家とでは正反対の方角だ。
近所ならともかく、こんな場所をうろついているはずがない。
しかも、今は朝の九時半だ。
私達部員ですら会場に着いてまだ一時間も経っていないのに……。
「どうしてここがわかったんですか? てか、誰に聞いたんですか?」
私は和泉沢先輩には試合会場も開始時間も知らせていなかった。
一番に訊きそうな織田先輩にも、朋ちゃんにも、宮田先輩にも、
そして念の為、岩井君にも口止めしておいた。
先輩は受験生だから私の応援よりもお家で勉強していて欲しかったから。
(「絶対来ちゃダメです」って言ったのにー)
「いや、たまたまここの前を通りかかったらさー、ちょうど鈴に似てる子がいたから
来て見たんだけど、いっやぁー、まさかホントに鈴だったとはー」
先輩はにやりと笑った。
「……」
「世の中こんな偶然てあるんだなー? いやいや、ホンットびっくり♪」
(ないない、あるワケがない)
「せっかくだから試合見ていこっと♪」
和泉沢先輩はそう言うと私達と一緒に歩き始めた。
「……」
あからさまな小芝居に私はもう怒る気にもなれなかった。
……なんて――、本当はものすごく嬉しかった。
思わず顔が綻ぶ。
でも、私はそのふやけた顔を先輩には見せないようにした。
だって、見せてしまうと彼はこれから先も私が「来ちゃダメです」と
言っても応援に来てしまいそうだったから――。